ネオコードノヴァ
求古綺譚:守紋の記憶 Lucky Lore: Echoes of the Lost Realms【第一部】の続編です。
僕は環。12歳になった夏休み、ガラリと世界が変わってしまった。
言葉通りだ。
それまでは、“コードノヴァ”と呼ばれる全てがデジタルに支配された世界だった。
何百年も何千年前も前から人々が紡いできた歴史から分断された世界だった。
“歴史”も“本物”もない世界。
それが当たり前だった。
242年前の離間事変から、世界は三つに分断されていた。
かつてのアナログだけの世界“ソラクア”。
アナログからデジタルに移行していく世界“ユニア”。
そして、デジタルだけの世界“コードノヴァ”。
12歳になった夏休み、僕たちの冒険の中で、三つの世界は再び繋がった。
“歴史”も“本物”も戻ってきたその日は“再生の日”と呼ばれた。
あれから7か月。
今の世界は“ネオコードノヴァ”と呼ばれ、僕はここで生きている。
そして、今日は春休み一日目。
(そろそろ、家を出る時間かな…)
同級生の悠と春から通う学校の見学に行く予定だ。
お母さんはすでに仕事に行って家には僕一人だ。
お父さんは小さい頃に亡くなっている。
僕は鍵を閉めてマンションの一階に降りて行った。
エントランスでは悠が白い兎を抱えて待っていた。
「雪輪兎の守紋も連れてきたの?」悠に聞いた。
「守紋符でいるのは退屈だから、たまには兎の姿で外に出たいってさ」
悠は少し嬉しそうに答えた。
動物や自然のものが組み合わさり、人を守護してくれているものが、
“守紋”と呼ばれている。
時には動物の姿になったり、
時にはカードの形(守紋符と呼ばれている)になったりする。
僕や悠や一部の人にしか見えないらしい。
僕にもまだ守紋のことはよく分からないことも多い。
僕はポケットに手を入れて、自分の守紋符があるのを確認した。
学校まで、川沿いの道を歩いて行った。
“再生の日”の前まではホログラムのデジタルの川だったところも、本物の水が流れている。
不思議な感じだ。
悠に抱かれた兎は満足げな表情で景色を見ていた。
(……なんだ?)
一瞬、川に違和感があるキラリと光る何かを僕は見た。
「環、どうした?」
立ち止まった僕を振り返りながら悠が言った。
「あそこ、変じゃない?」
指差す方を悠も見た。
「逃げて!」
雪輪兎が叫んだ声よりも早く、川から何かが飛んできた。
「うわっ」
悠は、雪輪兎を抱きかかえたまま川を背にした。
それは悠の肩をかすめ、飛んで行った方を見ると、
Uターンしてまたこちらに飛びかかってきた。
「兎だ!」
僕は叫んだ。
それは明らかに雪輪兎に向かって飛んできた。
雪輪兎は、全身の真っ白な毛をブワッと膨らませると、氷の結晶が浮き出てきた。
それらは一瞬で、こちらに飛んでくる何かに向かって飛んで行った。
カチンッ!!!と金属音が響くような音がすると、ボトッとそれは地面に落ちた。
僕は走って行き、近くに寄って見た。
悠と雪輪兎も近くで見ていた。
「鳥…?」
僕は見たままを言葉にした。
小さな鳥が一羽、凍って地面に横たわっていた。
「電子守紋――」
雪輪兎の目がいつもより大きくなって、それを見て言った。
「まさかこんな早く現れるなんて――」