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泥に塗れたそれは  作者: 天空
龍の住む池
8/12

08

「おはようございます」

 私は司書の前に赤い本を投げた。

「なんなんだ。この本は」

 私にこの本を渡した司書は、なんてことない顔で本を読んでいる。

赤い本は供儀(くぎ)に呼ばれたところで終わっていた。こんなところで終わらせられると気になって仕方がない。

「私の姉の日記です」

「続きは? この後どうなったんだ」

「続きはないです」

 司書は本を閉じ、私の目を見返す。

「私の姉は、行方不明になりました。その日記を残して」

「……奇遇だな。私の妻も行方不明だ、あんたは何を知ってる」

 そういうと、初めて司書は私を見た。

「すみません。分かりません。ですが、供儀が何かを知っているのは確かです。私は、姉の行方を知りたい」

 司書は赤い日記を胸に抱くと、悲痛の中絞り出すようにそう言った。

「……どうして私にこの日記を渡したんだ」

「偶々です……偶々。本当に偶然、日記と同じくこの町には全く降らないはずの雨が降った日に、この町について調べている人がいたので」

「雨が降らないってどういうことだ?」

「知らないんですか? この近辺は雨がほとんど降らないって、近所じゃ有名ですよ? だからこそ先日の雨は特に印象に残ってて」

「知らないぞそんな話……もしや伝承と関係あるのか?」

「伝承?」

 がちゃんと音が鳴る。図書館の扉が開いて老人が入ってきた。ストンと窓際の椅子に座ると、ぼーっと外を眺め始めた。

「……ここではアレです。閉館後にまた話しませんか?」

「……分かった。時間になったらまた来る」

 図書館を出る。外は晴れやかで、雨が降る様子は微塵もなかった。


 薄暗くなった午後。私は図書館の前に立っていた。

 入口で靴の泥を落とし、中に入る。

「あ、すみません。もうすぐ終わるので、座って待ってて下さい」

 閉館後の作業をしてるらしい。私は窓際の椅子に座った。

「お待たせしました。どこで話しましょうか」

「この図書館はダメなのか? 誰も来ないだろう?」

「えっと、まぁ問題ないですけど」

 司書は私の前に座った。黒縁眼鏡を直してこほんと咳をした。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は霖雨皐月(りんうさつき)。あの日記を書いた人の妹です」

「私は深谷龍池(ふかやりゅうじ)、民族学者です」

 差し出された手を握って握手を交わす。

 

「皐月さん。今日の天気予報は見られましたか?」

「いえ、深谷さんも知っているでしょう? この町で雨が降ることは――」

 そのとき、窓をポツッとなにかが叩いた。

「私はさっき見ましてね。今日も明日も明後日も、この近辺だけびっくりするくらいの快晴でしたよ」

 ポツポツから、ダダダダッと、窓を叩く音はどんどんと強く激しくなっていく。

「病院の近くに池があるのは知ってますか?」

「姉から聞いたことがあります、危ないから立ち入り禁止だと」

「池の真ん中にある岩に石を投げると龍が怒って雨を降らす。という伝承はご存じですか?」

「いえ、そんな話が……でも、それと今の話になんの関係が――」

「儀式には必ず意味があるんです。雨乞いにも色々な方法があります。主なのは供物を渡して降らせてもらう方法ですが、ごみや腐ったものを投げて神を怒らせる方法もあります。私が聞いた伝承はこっちですね」

「それが、どうしたんですか?」

「この町は昔から洪水の多い地域だったそうです。そんな場所でわざわざ雨乞いの伝承があると思いますか? 龍の伝承は雨乞いではなく、災害の伝承だったのではないでしょうか。そして災害を鎮めるには、必ず必要になるものがあります」

「……もったいぶらないでください。私はあなたの生徒じゃないんですよ」

「失礼、仕事柄つい。簡潔に言うと、()()です。人柱や、人身御供ともいいますね」

 ゴロゴロと雷が鳴り、ピカッと外が光った。

「そんな、現代ですよ?」

「えぇ、普通なら饅頭や人形を使います。ですが、これまで起きたことを合わせると可能性は捨てきれません。なので、試してみることにしました」

「試すって、もしかして――」

「はい。待ってる間暇だったので石、投げて来ました」

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