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泥に塗れたそれは  作者: 天空
龍の住む池
7/12

07

 池を後にした私達は早々にパトカーへと戻って来た。

「どうだ?」

「はい! 周辺だと、やはり昨日の夜まで雨が降っていたそうです」

 パトカーの前で待っていたもう一人の警官が元気に返事をした。まだ二十代に見えるが、こんなのと組ませられてかわいそうに。

「そうか。ならもうしゃーないな」

 小太りの警官が私に振り返った。その目は私を一切見ていない。

「一応行方不明届け出せますが、どうします? 正直見つかるとは思えないけど」

「……いえ、結構です」

 あまりに適当な態度。期待しても無駄だと悟った私は、心晴れぬまま家へと帰った。


 警察はあてにできない。かといって捜索するめどもあてもない。怒る気力も、生きる気力も、もうなかった。

 ベッドに倒れ込むと、昨日借りた赤い本が目に入る。

 ページをめくった。決して興味が湧いたわけではない。ただ、この無気力から目をそらしたかったのだ。

 私はページをめくる。内容は手書きで書かれた日記のようだ。妻の入院していた病院である供儀(くぎ)病院に勤めていた女性の日常が書き連ねられていた。


「おはようございます!」

 私は朝一番に病院に着くと、制服に着替えて笑顔で挨拶をした。

「よろしく。私は供儀斎士(さいし)。君と同じ産婦人科が担当だ」

「よ、よろしくお願いします!」


「供儀斎士……」

 妻の主治医だ。日付は書いていないが、そう古くない日記のようだ。私は日記に視線を戻した。


 転勤してから数ヶ月が経って病院にも慣れてきた頃。家を出て少しすると、途端に大雨が降ってきた。ここに来てから初めての雨だった。

「なんで〜! 傘なんてないよー!」

 私は頭を手で守りながら走って病院に向かった。

「雨……」

 病院に着くと、見知った看護師と、医者が全員外に出てきていた。

「どうしたんですか?」

 顔の青ざめている人もいる。私は気になって供儀先生に話しかけた。

「あ、いや。君は気にしなくて良い。ほら! みんな仕事に戻りなさい!」

 先生は私に話しかけられてハッとすると、看護師たちを全員病院内に戻らせた。


「――さん。少し良いですか?」

 その日の帰り、私は先生に呼ばれて医療室に向かった。明日の休みを返上して緊急で出勤して欲しいとのことだった。別日に休みを返上すると謝られながら言われたので、仕方なく引き受けた。明日は早起きだ。


 ページをめくるもそれ以降は空白。日記はそこで終わっていた。雨と病院という共通点。偶然だとしても唯一の手掛かりを見つけた私は、それにすがるしかなかった。

「こんなことなら、(あずさ)さんにもっと詳しく聞いとくんだったな」

ほんの少しでも良いと思ったら一言でもぜひ感想お願いします。泣いて喜びます。

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