07
池を後にした私達は早々にパトカーへと戻って来た。
「どうだ?」
「はい! 周辺だと、やはり昨日の夜まで雨が降っていたそうです」
パトカーの前で待っていたもう一人の警官が元気に返事をした。まだ二十代に見えるが、こんなのと組ませられてかわいそうに。
「そうか。ならもうしゃーないな」
小太りの警官が私に振り返った。その目は私を一切見ていない。
「一応行方不明届け出せますが、どうします? 正直見つかるとは思えないけど」
「……いえ、結構です」
あまりに適当な態度。期待しても無駄だと悟った私は、心晴れぬまま家へと帰った。
警察はあてにできない。かといって捜索するめどもあてもない。怒る気力も、生きる気力も、もうなかった。
ベッドに倒れ込むと、昨日借りた赤い本が目に入る。
ページをめくった。決して興味が湧いたわけではない。ただ、この無気力から目をそらしたかったのだ。
私はページをめくる。内容は手書きで書かれた日記のようだ。妻の入院していた病院である供儀病院に勤めていた女性の日常が書き連ねられていた。
「おはようございます!」
私は朝一番に病院に着くと、制服に着替えて笑顔で挨拶をした。
「よろしく。私は供儀斎士。君と同じ産婦人科が担当だ」
「よ、よろしくお願いします!」
「供儀斎士……」
妻の主治医だ。日付は書いていないが、そう古くない日記のようだ。私は日記に視線を戻した。
転勤してから数ヶ月が経って病院にも慣れてきた頃。家を出て少しすると、途端に大雨が降ってきた。ここに来てから初めての雨だった。
「なんで〜! 傘なんてないよー!」
私は頭を手で守りながら走って病院に向かった。
「雨……」
病院に着くと、見知った看護師と、医者が全員外に出てきていた。
「どうしたんですか?」
顔の青ざめている人もいる。私は気になって供儀先生に話しかけた。
「あ、いや。君は気にしなくて良い。ほら! みんな仕事に戻りなさい!」
先生は私に話しかけられてハッとすると、看護師たちを全員病院内に戻らせた。
「――さん。少し良いですか?」
その日の帰り、私は先生に呼ばれて医療室に向かった。明日の休みを返上して緊急で出勤して欲しいとのことだった。別日に休みを返上すると謝られながら言われたので、仕方なく引き受けた。明日は早起きだ。
ページをめくるもそれ以降は空白。日記はそこで終わっていた。雨と病院という共通点。偶然だとしても唯一の手掛かりを見つけた私は、それにすがるしかなかった。
「こんなことなら、梓さんにもっと詳しく聞いとくんだったな」
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