06
病院からの見解は酷く単調で、簡素なものだった。
「奥さんは昨晩、一人でお帰りになられました。その後は分かりません」
受付で開口一番。そう言われて追い出されてしまった。
このときはまだ、警察にも電話していなかった。彼女の壮大なイタズラの可能性が捨てられず、もしかしたら。そう思うと自然と電話に手が伸びなかったのだ。
それでも、もしイタズラでなかったら……山を下りた私は震える手で一、一、零。と携帯のボタンを押した。
山から降りてすぐの土手で待っていると、パトカーが一台現れた。
「あんたが通報した人?」
助手席から出てきたのは小太りの男。この気温だというのに、ハンカチで汗をぬぐいながら、扉をバンっと閉めて気怠そうに聞いてきた。
「はい。妻が……」
「えっと、なんだっけ、病院から帰ってこないんだっけか?」
小太りの警官は大きくため息を吐くと、運転席の若い警官になにか指示を出してずんずんと森の中を進んでいった。
なんとも傲慢な態度に思わず突っかかってしまいそうになるが、気持ちを押し殺して後に続く。
「これ、見える?」
若干息を荒げた警官はぬかるんだ地面を指差した。
「足跡……ですか?」
私より一回りは小さい足跡が病院とは別の道。あの池へと向かっていた。
「奥さんの靴、何センチ?」
警官は軽く足跡を手で測る。警官の丸い手より若干小さな足跡。
「え、さぁ……」
「そうですか。ですが、まぁ、大きさ的に女性の足でしょうな」
足跡の先を進むと、黄色と黒のロープが落ちていた。
「トラロープが外れてるな」
警官に付いて池まで歩く。
「池の側で足跡が途切れてる。帰りの足跡は見当たらない。池に落ちたと考えるのが妥当でしょうな」
「そんな……救助は!」
「この池は無理だね」
「どうして!」
思わず掴み掛かりそうになってしまう気持ちを抑えて詰め寄る。
「この池の下は水流が不規則に渦巻いてるうえに、地下水脈に繋がってるんだ。詳しいことは俺も知らない。ただ、この池を調査しに潜って帰ってきた人間は、これまで一人も居ない。柵は地形の都合で使えない。通ずる道は全部ローブで規制してたんだが」
この通りと、地面に落ちたロープを放り投げた。
「あんたの奥さん。無理やり入ったんじゃないの?」
私はロープを拾う。端がナイフで切られたように切断されていた。
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