12
皐月さんを家に送り届けた翌朝、私はもう一度池に来ていた。雨はまだ止んでいない。彼女は来月には引っ越すそうだ。姉のいない今ここに住む道理もないのだろう。
彼女に、今後どうするかと聞かれた。
海の居なくなったこの世に今更未練などはない。そもそも人を二人も殺して普通に過ごすなど、あまりにも都合が良過ぎる。
ススキの中をかき分けて進む。池に近づいて中を覗いても波紋が広がるのみの暗闇で、何も見えない。
私の妻を殺した女はもう殺した。復讐は終わったというのに心は一切晴れていない。
彼女の言った通り、私がこの池に来なければ海が死ぬことはなかった。そもそも河童について知らなければ。
確か、封筒だ。茶色の封筒。そこに、河童の話があって、私はそれが届いた翌日に川に向かったんだ。あれさえなければ、河童の話さえ聞かなければ。そういえばその横にあの女もいたな。話のタイミングで、仕事の時間だと……運が悪いというにはあまりにも出来すぎている気がするが。
「いまさら気にしたところで。どうせもう終わったことか」
後のことは、あの使えなさそうな警察にでも任せるとしよう。
頭の疑問に蓋をして、水面に軽くパシャリと触れて立ちあがると――。
ドンッ。
ドポンと池に男が落ちる。池の前に立つ一人の女の影。
「ありがとう。あなたのおかげでこれから自由に暮らせるわ」
いまだ水面をもがくそれを横目に、女は池に指輪を捨てその場を後にした。
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