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泥に塗れたそれは  作者: 天空 浮世
龍の住む池

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 黒い髪に、大和撫子を思わせるあの顔は、あのとき、白い着物を着て私に龍の伝説を教えた張本人。釘沢梓(くぎさわあずさ)。資料では、確かに病院最年少の医師と書いてあった。

 思えば、会話の節々から、違和感を感じていたのだ。そうか。あの女が、(うみ)を……。


 私は、拘束した腕をそのままに、皐月(さつき)さんを見た。

「私は彼にもう用はない。君は、どうしたい?」

「どうしたいって……」

「幸い、私たちの前には一度落ちたら絶対に戻れない池があるわけだけど」

 私の意図に気づいた皐月さんは一歩後ろに下がった。

「なにも、そこまで――」

「君のお姉さんはこの男に殺されたんだ。君にはその権利があると思うが?」

 皐月さんはしばらく黙って考え込むと、私の腕をそっと触った。

「……いえ、離してあげてください」

「……良いんだね?」

「はい、彼を殺したところで、姉は帰って来ませんから」

 私は押さえていた腕を解く。

 供儀は顔の泥を拭い、皐月さんの方を見て立ち上がると、思い切り抱き着きにかかった。

「えっ」

「悪いが、僕と梓のためにも犠牲になってくれ――」

 固まったまま動けない皐月さんに掴み掛かった供儀の首を掴み、池に放り投げた。

「っぱ、こ、こんなところで! た、助け――」

 供儀は少しの間バシャバシャと暴れるも、すぐに沈んでいった。

「皐月さん。貴女は優しすぎる。その優しさはいつか身を滅ぼします。全て忘れて普通の生活に戻りなさい」

 雨は止まない。皐月さんを連れて山を降りる。道中に会話はない。

「あの……ありがとう、ございました、私はここで……」

 結局なんの会話もすることなく、図書館の前で私たちは別れた。


 結局犯人は別だったが、それでも確実な一歩だ。もうこの手は汚れてしまった。今更一人も二人も変わらない。私は今一度決意を固めた。

 供儀の話が真実なら、この雨の生贄はあの女になる筈だ。しかし、あの女は自分の代わりの人間を生贄にした。あの女はおびえていた。もし私があの女ならどうする?

 

 きっと欲するはずだ。自分の代わりの生贄を。一度人を傷つけた人間は、その薄暗い欲望からは逃れられない。人を引きずりこむ河童の様に、あの池で生贄を待つはずだ……。

 踵を返して図書館へ戻る。図書館前には、当たり前だが、誰も居ない。この胸騒ぎは気のせいだったか、家に帰ろうかと思ったとき、バキリとなにかを踏んだ。


 足を上げる。砕けた黒いプラスチック。キラリと光るガラス。皐月さんの付けていた眼鏡だ。

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