表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
yet you demon  作者: チカ
7/14

チェックメイトは揺るがない

「おや……?もしかしてそちらの船乗りも醜きダイモン人かな……?」

 薄ら笑いを浮かべながら船に乗り込んだばかりのウィアードの視線はおっちゃんに向かっていた。

「いやいやいやいや俺はただの船乗り、ただの船乗りだよぉ」

 首を思い切り左右に振り否定する。

「ほう、てっきりその横にいるダイモン人共の仲間かと思っていたが、違うという訳か。そいつらは何の罪もない男性市民を殴り飛ばした立派な“犯罪者”だからなぁ、捕まえる数が増えないなら実に、実に喜ばしい出来事<セレブレイト・イベント>だ」

 奴隷商売に加担しておいてよく何の罪もないと言えるな、とはらわたが煮えくり返る思いだった。

「そうか…………なら、あなたは不幸にもダイモン人に脅され仕方なく船を出した、ということか。なら…………」

 口元に手を当て、何かを考えている素振りをする。

「……なら、その醜きダイモン人<ルーザー>を捕まえることぐらい訳無いよなァァァ!」

 一旦は落ち着いたかと思われたウィアードの情緒が決壊した。当のおっちゃんに目をやると、少し躊躇ったような表情をした後、拳を振りかざして俺に襲いかかってきた。

「うおおおおおお!!!」

「ゥオラァ!!!」

「グフォォオオ!! オエッ! オエッ」

 特にこれという問題もなく、迫真の右ストレートがおっちゃんの腹めがけて炸裂した。弱い、弱すぎる。

「馬鹿野郎!!!! 思うツボだぞ!!」

 ティーチが迫真な顔つきで俺に向かってそう言う。どういうことかと思っていたが、その答えはすぐに得られた。変な言葉遣いの方の男が俺に向かってニヤニヤと気持ち悪い顔で見つめてくるのだ。

「そうか!」

「やっと気付いたか」

 実に不愉快だが、ティーチの言っていることに気付くことができた。俺はまたしても“なんの罪もない男性市民を殴り飛ばしてしまった”のだ。これにはティーチも呆れ顔だ。

「もう一つ、付け加えとくぜ」

「?」

「これはあくまで推測だが…………俺“も”船の操縦の仕方を知らない」

「!」

 体からドバドバと冷や汗が流れていくのが分かる。ティーチの言葉はこのどんな砂漠よりも広大な海で、移動する術を失ったことを意味していた。

 恐らく今何を食べても味がしないだろう、と謎の自信さえ湧き上がるほどに今の俺は焦っていた。しかし、一つの事を思い出した。

「思い出したぜ! ティーチ! こいつらは船でやってきた!」

「あ~~〜なるほどな」

 ティーチとお互いニヤニヤした顔で見つめ合った。その後、自警団に向けて言い放った。

「かかってきな! 逆にてめぇらをとっつかまえてトイデに連れて行ってもらうぜ!」

「あまり良い気になるなよ〜〜ッ! ここが貴様らにとっての墓地<セメタリー>である事をその身体に教え込ませてやるッ!」

 そう言うとウィアードは俺に向かって襲いかかってきた。

「馬鹿め! 少し前に俺の落とし穴に落ちたのを忘れたのか! そこには既に落とし穴を設置済みだぜ!」

「ああ、分かっていたさ、だが、こうすれば落とし穴は無効化<インバリデート>するッ!」

 彼は思い切り跳躍し、俺の立っているところへ飛び込んで来た。

「なにッ!」

「馬鹿<ロー・インテリジェンス>は貴様の方だこのマヌケがぁ〜〜!」

 まだ空中にいるというのに器用に棍棒を俺の頭へ振り下ろして来た。

「ぐああぁぁ!」

 すんでのところで俺の頭がかち割られるとこを左腕で守る事ができた。頭を守る事ができた代わりに左腕が物凄く痛い。あまりの痛さによろめいてしまった。そんな隙を自警団が見逃すはずもなく、すぐさま次の攻撃を続けてきた。

「殺す<クリーク>!殺す<クリーク>ッ!殺す<クリーク>ッッ!」

 そう言いながらウィアードは俺めがけて何度も何度も棍棒を振り回して来た。目がイッている。およそ正気ではない。怒りで我を忘れているようだ。何とか一つ一つ避けることが出来たものの、何しろ初撃があまりにも響きすぎて少しずつ自分の動きが鈍くなっていってるのが分かった。途中、こいつを落とし穴に落とそうと何度か画策したものの、流石自警団といったところか、あまりにも間合いを詰められ過ぎてウィアード一人だけを落とすことは難しく、結局全く反撃出来なかった。そんな俺の事情もお構いなしに彼は攻撃を続けてきた。

「殺す<クリーク>!殺す<クリーク>ッ!殺す<クリーク>ッッ!」

「残念ながら俺達は生き延びるぜ、お前らを倒してな!」

「お伽噺<フェアリーテイル>と現実の違いも分からない劣等民族<ポア・ピーポー>めッ! ナカダ自警団長であるこの俺が親切なる民族<タカオカ人>を代表して貴様に現実<デフィート>を教えてやる!」

 彼は攻撃を続けた。防戦一方である。ティーチの方はどうだろう。ちらっと目をやる。意外なことにあちらも防戦一方だった。ティーチは斧を取り出したは良いものの、低身長気味のもう一人の自警団員の軽々とした身のこなしによってティーチの間合いの遥かに内側に入り込まれ、思うように斧を振り回せないようだった。

「よそ見している暇なぞあるのかァァ〜〜?このマヌケ<ダイモン人>がァァ〜〜」ゴンッ!

 ウィアードの棍棒が俺の右足に当たり、思わず倒れ込んでしまった。

「貴様の負け<チェックメイト>だ」

 近付いて俺を見下ろしながらそう言う。

 まずい……どうしよう反撃する隙が全くと言っていいほど見当たらねぇ……仮に一発こいつにぶち込んだとしてもヤツの持っているエモノでより強くやり返されてしまうだけだ。落とし穴に嵌めることが出来たとしても、同時に俺も落ちてしまう……なんとかヤツ一人だけを罠に嵌める方法はないものか…………いや、逆に考えるんだ。いっその事俺も一緒に落ちてしまってもいいと。

「どうした、何か言い返したらどうだ?おいッ! 聞いているのかぁぁぁぁぁぁ!?」

 ウィアードが喋っている途中、俺達の立っている所に突如丸い穴ができ、ウィアードが間抜けな声を上げながら俺と共に落ちてゆく。俺は落ちるのが分かっていた為なんとか受け身を取ることが出来たが、そんな事を知る由もない彼は思い切り尻もちをついた。

「いてて……このダイモン人風情がこの俺によくも……おい待て!」

 今の内に隠れて不意打ちを、と考えていたが、普通に気づかれてしまった。彼が立ち上がるまでに辺りを見回す。状況の把握は戦いにおいて勝敗を左右する重要な要素なのだ。辺りを見回した結果、この空間には申し訳程度の貨物箱があっただけで、他には何も無かった。この場所の殺風景さを考慮するに、恐らくここは普段貨物を収納するのに使っている空間なのだろう。

「またよそ見<ディストラクト>をしたなぁ〜?クククッ、やはりダイモン人は学習能力が無いとみえる」

 そう言っていているヤツの顔を見ると、何とも形容し難い不敵な笑みを浮べていた。

「なんだぁ?その不気味な笑いはよォォ?」

「貴様が何の算段もなく、俺を落としたという事が分かって一安心って所だ。やはり貴様の負け<チェックメイト>は揺るがない」

「ああ、確かにチェックメイトだ…てめぇのなッ!!」

「何ッ!」

 途端、笑みが崩れ、訳が分からないという顔に変わった。だがすぐに先程と同じ自信に満ちた顔に戻った。

「ほう、一体何を根拠に言っているんだ?この薄暗い空間には少しばかりの貨物箱と貴様と俺の二人だけ。こんな空間で何が出来る?」

「見えないのか?俺の”勝ち筋”がよッ!」

 フッ、とバカにしたような笑いの後

「なんだ、どんな奥の手があるのかと警戒していたが、無いということではないかッ! 我が棍棒による制裁<エデュケーション>を喰らえ! この犯罪者がッ!」

 またもや棍棒を頭上に振り上げながら大きなジャンプをして俺に向かってきた。

「へぇ、ちゃんと落とし穴対策で足を床に付けずに向かって来るんだな」

「当たり前だッ! 学習能力のない貴様らダイモン人<インフェリア・レース>と一緒にするなッ!!」

「お前の敗因はその思い上がりかもな」

「またしても俺の敗因などとわけの分からない事を話すダイモン人<バルバロイ>めッッッ!」

「あばよ」

 ギリギリ攻撃が当たるか、といった所でヤツの棍棒をなんとか避けた。

「ぬぉぉぉぉ!?」

 そしてウィアードの足が床についたその時。

「なッ! 何ッ! 床がッ! ぐふぉッ、がはッ」

「何が起こったか分からなそうな顔してるな、この心優しきシーク様が説明してやろう。予め俺が立っていた場所のすぐに後ろに落とし穴を張っていたのさ。そしてこの空間のすぐ下は海ッ! お前はこのシーク様が作った罠にまんまと引っ掛かって海へと落ちたのさッ!」

 つまり今俺の耳に入ってくるこの聞き苦しい声はいきなり床が無くなって海に溺れまいと必死に船内に上がろうとするウィアードのものである。

「ぐほぉっ、この、卑怯者めッ!」

 怒り狂った目でこちらを見つめるウィアード、しかし、首から下は溺れまいと必死である。彼の上陸を阻止しようと試みるも中々にしぶとく、苦戦していた。そこで、置いてあった貨物箱に目をつけ、穴に蓋をする形で上陸を阻止する。何秒かたった後、穴を確認すると彼はいなかった。

「ふぅ……ウィアードのやつ、苦戦させやがって。ん?何だ?妙に足元がジャバジャバうるせぇな?って、!!!!!」

 床を確認すると穴から湧き出るように海水がどんどん船内に入っていた。よくよく考えれば当然のことなのだが、戦いに夢中になっていて全く気が付かなかった。

「まずい、早くこの船から出ねぇとまずいッ!」

 勝った喜びに浸る暇もなく焦りが心を支配していった。










いい点、悪い点問わず感想を頂けると大変嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ