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yet you demon  作者: チカ
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勝者の道と道の果て

「よくも、よくもお客様の顔を、薄汚いダイモン人風情がァァァ!!!!」

 それは先程館長が俺を壁に叩きつけた時よりも遥かに大きな声で、フロア中に響き渡りった。

 さて、どうするかな。勢いで何とか脱出できたが、依然として数的不利は変わらない。…………逃げるか。

「じゃあなァ〜〜短い間だけどお世話になりましたァァ〜」

 走り、手を振りながら煽る。

「待たんかいィィ、お前はこの方に永遠に奉仕するんだよォォォォ!! おいウスノロ!! あいつを捕まえろ!!」

「か、体が勝手にッ!」

 後ろからそんな声が聴こえた。

 振り返る余裕は今の俺にはない為、後ろで何が起こっているのか皆目見当もつかないが、少しずつ後ろから大きな足音が聴こえてくることは分かる。その足音が段々大きくなっていくことも。

 振り向いてみると、館長を背負った筋肉男がもう2mくらいの所まで追い付いているではないか。

「もっと速く足を動かせ!!」

 上に乗っている男が下の男に文句を付けながら叩く。

「儂から逃げられると思ったか馬鹿めッ!」

 まずい、まずいな。まだこの力をハッキリと分かっていないのに、こうも職業戦を挑まれては。

「逃げ……ろ…シー……ク」

 操られているであろうティーチが苦しそうにしながらも声をあげる。

「今てめぇから逃げてんだよッ!!!」

 呆れながら視点を前に戻す。そこには壁があった。行き止まりである。体をぶつけまいと必死に急ブレーキをかける。

「あっぶねぇ……もう少しでぶつかる所だった……」

「ほう、この状況をみて危なくないとでも?」

 気付けば壁と二人の間に挟まれていた。館長はティーチから降り、勝利を確信したのか口元が緩んでいる。

「大人しく負けを認めるんだな」

 勝ち誇った顔で彼は言い、ティーチは絶望した。

「負けを認める……? そいつァ違うぜオッサン、今俺が立っているのは勝者の道だ!」

 二人ともどういうことだと困惑した表情を見せる。だが、館長は戯言と判断したのか、嫌がっているティーチを無理矢理前に進ませた。ティーチが二歩目を踏もうとしているその時。

「おっと、それ以上進むんじゃあないぜ。そこには俺が仕掛けた落とし穴がある。いいのかなぁ〜〜 その男が落ちちゃったら誰がオッサンを守るのかなぁ〜〜〜」

「〜〜〜ッッ!」

 二歩目を踏む寸前で止まった現在片足立ちの男は本当に罠を仕掛けたのか、と少し驚いたような目でこちらを見つめる。

 本当かどうかは大した問題ではない。バレなければ騙された側からすれば本当なのだ。

「なるほど、貴様も『職業』持ちか。仕方ない儂の負けだ。通れ」

 そう言いながら彼はティーチと共に道の際へと寄り、道を譲った。

 先程までとは打って変わって丁寧で紳士的な行動に少し驚きつつも、ラッキーと思いながら、笑みが溢れない様に表情に気を使いながら二人とは反対側の際を歩く。

「いや~悪いね〜 それじゃっ、さいなら〜」

 そう言って手を振りながら今来た道を戻ろうとしたその時。

「待たんかいィィ、いつお前を逃がすと言ったァァァ! そっちの道は何も無いことを確認済みなんだよォォォォ!」

 そう言いながら彼はティーチの上に乗り、こちらに向かって追いかけてきた。

 これまた先程とは打って変わって粗雑で暴力的な対応だが、特に動揺することもなく冷静に走り出した。

「『職業』だったのならますます逃がすワケにはいかんだろうがァァァ! 主人を殴る不良品として自主回収させてもらう!」

 後ろからうるさく声が聴こえてくるが、意に介さず冷静に状況を分析する。

 まず、あっち側が行き止まりだったから今向かっている方向は確実に出口側の筈だ。次に、最初逃げた場所に向かっているということは、つまり。

「この男がいるっつー事だよなァァ〜〜」

 目の前に立ち塞がるワインボトルを手にした男を前にして思わず足を止めてしまった。当然、後を追ってきていた二人組も追い付いてきた。

「さっきはよくもやってくれたじゃあねェか、オイ!」

 そう言って怒り笑っている男は口角は上がっているものの、目が笑っていなかった。

 反対側にも注目すると、従わせていた男から降り、『今度は一対三だ』とでも言いたげな笑みを浮かべている男がいた。

「いやはやお客様、大変申し訳ございませんでした。このダイモン人は教育が足りなかったので自主回収させて下さい」

「いいや、この顔に直接やり返してやらねェと気が済まねェんだ。このまま買い取らせて貰う」

「オイオイオイオイ、な~に勝った気でいるんだ?」

 勝った前提で話している二人に対して口を挟む。すると、より一層口角をあげて彼らは言った。

「「勝ちはもう決まってるんだよ!この低脳がァァァ!」」

 そう言って男はワインボトルを俺に向かって投げ、館長はティーチを跳躍させ、俺を上から襲わせた。俺の『職業』も知らずに。

 ニヤリ、としながら俺は真下に落ちていった。いや、正確に言えば、自ら作った“落とし穴”に落下した。

「ぐあァァァ!」

「ぎゃあああああァァァ! 目が、ボトルのガラスが、目にィィィィィィィィィ!」

 そんな声が前後から聴こえてきた。恐らく、落とし穴に避難した為に、ワインボトルは館長へ、襲いかかってきた怪力男は客へと向かっていったのだろう。

「馬鹿め!! 『一直線上に敵を挟んだ時は物を投げてはいけません』ってママに習わなかったのかァァァ?」

 安全な落とし穴の中から二人を煽る。

 また、計算の外で嬉しい誤算が起こっていた。

「あれ、いつの間にか、体が自由に動かせる」

 どうやらティーチの身体の自由が戻ったらしい。

「オッサンの目が見えない状態だからじゃあねえの?」

 目が見えない状態ではどうにも操りようがないだろう。そんな考えのもと安心して落とし穴から脱出した。

「あーあ、この客すっかりのびてるじゃねえか」

 落とし穴から出て客の様子を確認すると、頭でもぶつけたのか、意識が確認出来なかった。

 この怪力男の怪力具合に呆れながらもう一方の敵にも目をやる。横転して体を左右に回転させながら『目がァァァ!』と叫んでばかりなので、もう戦いようがないだろう。だから、言い返してやった。

「言っただろ、俺が立っているのは勝者の道だってよォォォ!!!」

 館長に敗北を突き付けるように放ったその言葉はフロア中に響き渡った。

「おいオッサン、また酷い目に会いたくねェってんならよォ〜、こいつを俺に売ってくれねェか?」

 得意げな顔でティーチを親指で指しながら言ったものの、目が見えないからかパニックになっているからか、返事をしない。

「おい、聞いてんのか、オッサン!!!」

 胸ぐらを掴みながら返答を求めるが返事がない。

「待て、シーク。こういう時は相手の恐怖心に訴えるのが効果的だ」

 そう言いながらこの怪力男はどこからか斧を取り出して館長の首に刃を突き付ける。

 なるほど、これならただ声で脅すより遥かに効果的だ。そんなことを考えていると。

「譲る、譲るから殺さないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 今日何度目か分からない程繰り返された反響音が聴こえてきた。

 交渉が無事成立し、館を出た。俺とティーチはさっきの奴隷服とは正反対に小綺麗な身なりをしている。これは元奴隷だと感づかれると面倒臭いため、館長から半ば無理矢理貰い受けた物だ。

「それで、これからどうするんだ?」

 『逃げてどうするんだ?』と檻の中で問いかけたティーチが改めて俺に訊く。

「どうするか、か。そうだな…………」

 何も考えいなかった。取り敢えずここから出ることしか考えていなかった。

「そう言えばなんでダイモン人はこんなにも迫害されているんだ?」

 半ば話を逸らすように違う話題に切り替える。

「何故迫害されるのか、そんなことは俺にも分からん」

 やや拍子抜けで思わず転げてしまった。すると、頭上からティーチとは正反対の可愛らしい声が聴こえてきた。

「大丈夫ですか?」

 そんな優しい口調で手を差し伸べてくれた。顔を上げると天使の様な可愛い女の子が目の前にいた。

「ありがとう……転んでしまって。」

「いえいえ、お怪我は無いですか?」

 こんなに優しくしてくれる人は久しぶりで思わず顔が赤くなる。そんな俺に対して彼女は話を続ける。

「お二人は奴隷を買いに来たんですか? いいですよね、奴隷。私の家でも奴隷がダメになっちゃったので新しいの買おうと思っているんですよ〜」

 俺は思わず自分の耳と目を疑った。

 こんなにも可愛らしい女の子が、それも特に自分と人種の違いも無いような女の子が、ダイモン人を人間と思っていないなんて。

「それじゃあお元気で〜」

 笑顔で去っていった彼女とは対称に俺の心は絶望を隠せずにいた。

「もしかして、ダイモン人とタカオカ人って同じ人種なのか……?」

 哀れみの目を向けた男に対し恐る恐る質問する。

「そうだ」

「それじゃあ尚更、何故、どうしてダイモン人は迫害されているんだ!!」

 感情の昂りが抑えられずに再び同じ質問を、今度はより勢いよく男に尋ねた。

「知らん」

 分かりきっていた答えを聞いて大人しくなってしまう。若干の静寂の後、口を開いたのは俺だった。

「だったらよ、理由を知る為の旅と行こうぜ」

 大きくも小さくもない声で彼に尋ねた。彼は同情して仕方なくなのか、それとも行くあてがないからなのか、少し考ている様な顔をした後、俺に同調した。

「ああ、良いだろう」

 太陽はまだ上がりたての、明るくなり始めたばかりの空の下、暗い理由の冒険が始まった。








 





 













 


 

 

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