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yet you demon  作者: チカ
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お前、いい性格してるな。

「はぁっ、はぁっ」

 どのぐらいこの夜の森の中を走っただろうか。呼吸が上手く出来ない。空気を吸うだけでも肺が痛い。追手がいないか辺りを見渡してみる。

「どうやらっ、ハァッ……辺りには……ハァッ……誰も、いないようだな……」

 気が緩んだのかその場にへたり込んでしまった。ここまで来れば流石に奴等も追って来れないだろう。そう高を括っていた。だから忘れていたのだ。森は視界が悪く、見渡すのには不向きであることを。

「ドンッ」

 何だ……頭が……急に…………「ドサッ」……倒れ込んでしまった……

「へへっこいつ、俺達に全く気付いて無かったようだな」

「鈍臭いダイモン人のことだからな、気付いていたとしても俺達からは逃げ切れなかっただろうよ」

 あぁ……いつの間にか追い付かれていたのか……チンピラ共の装備を見ると二人とも剣を持っている。どうやら背後から頭を剣で殴られたようだ。

「ま、俺達タカオカ人にダイモン人ごときが歯向かおうって考えが根本的に間違っていたんだ」

「全くだ。早いとここいつを攫っちまおうぜ」

あぁ……意識が遠のいていく……出来ることならこいつらに一発お見舞いしたかったのだが……


◆◆◆◆


「っん……」

 目を開く。途端見たことのない景色が広がる。状況が上手く呑み込めない。

「どこだ……ここは?」

「奴隷商館の檻の中だよ」

「!!!」

 声がした方向に首を曲げる。そこには手首を鎖で繋がれた齢30程と思われる筋骨隆々の男が座っていた。こいつなら自分でその鎖を引き千切れるのでは、という位にはガタイがいい。気になって自分の手元に視線を移すと自分の手首も鎖に繋がれていた。

「新入り、名前は?」

「シーク。年齢は18」

 ふーん、そんな感じの表情をする。訊いたのならもっと興味を持って欲しい。

「そういうアンタの名前は何なんだよ」

「あ、俺か? 俺はティーチ。お前と同じダイモン人だ」

「何故俺がダイモン人だと知っている」

「簡単な話だ。ここに連れて来られるのはダイモン人しかいない。あともう一つ、お前ダイモンで誘拐されて来ただろ」

 何故それを。と聞く前にこの男は話を続けた。

「お前はここの場所を知らないようだからな」

「?」

「ダイモン人は度々誘拐されてタカオカ王国で奴隷として売られてるんだよ。タカオカ王国じゃあ常識だがな」

 男はどこか諦めたような眼で話す。怒りが込み上げてきた。タカオカ王国や俺を誘拐したチンピラ共にではない。この男にだ。全てを見透したかのように話をしたかと思えば、この現状を受け入れているかのような言動をとる。俺はこういう人間が心底気に食わない。

「ここから逃げようとは思わないのか」

 怒り気味で男に問う。

「逃げてどうするんだ?」

「それは、」

 タカオカに来たばかりでいい案が思いつかない。

「ここから逃げてダイモンに戻って迫害生活を続けるのか? それともタカオカで一生怯えながら過ごすのか?」

「それなら他国に、」

「辞めとけ辞めとけ。タカオカが圧力をかけて強制送還がオチだよ。」

 全てが否定されてより一層腹が立ってきた。

「ゴチャゴチャうるせぇーーー!!! 俺はここから出たいだけなんだよ!!! 先の事なんか知るか!!!」

 男がぽかんとした顔でこちらを見つめる。もう一つか二つこのガタイに合わない小心者に文句を言ってやりたいところだったが、突然第三者の声が聴こえてきた。

「うるさいぞダイモン人共め!」

 そう言いながら檻の前にやって来たのは髭を生やした小太りの中年の男だった。

「突然誰だお前?」

 頭に浮かんだ疑問をそのまま吐き出す。

「儂はこの奴隷商館の館長じゃ! そんなことも分からんのか。これだからダイモン人は。全く知能が低過ぎてまともに会話も出来んわい」

 両手をあげて顔を横に振りながら「やれやれ」とでも言いたげなジェスチャーをしながら煽る。

「てめぇが館長か。さっさと俺をこっから出しやがれ!!」

 檻の鉄格子を両手で掴み、館長を睨みながらそう言うと、館長は急に態度を急変させた。

「獣のように吠えることしか出来ない能無しが儂を睨むんじゃない!」

 そう怒鳴ると同時に俺は鉄格子とは反対側の壁に叩きつけられた。何が起こったのか分からなかった。頭の中が「?」でいっぱいだった。だがその疑問符はすぐにティーチが片付けてくれた。

「なるほどな、アンタ『職業』持ちか」

「その通りだ。儂の『職業』は『奴隷商人』。半径10m以内の奴隷を意のままに操り、動かすことが出来る」

 『職業』? いったい二人は何の話をしているんだ? なんとなく鉄格子から壁へ吹っ飛ばされた原理は理解したもののその過程が分からない。例えるなら数学の授業で答えは分かるけど途中式が分からない状態みたいだ。

「お前等は儂の前ではただの操り人形なんだよォォォ!! 分かったかこのゴミカス共がッ!!」

 館長はそう吐き捨てるように言うとその場を去っていった。

「災難だったな」

 またしてもこの肩幅の広い男は一歩引いた見方の発言をする。だが今はそんなことはどうでもいい。先程の疑問をティーチにぶつけてみる。

「んで、結局『職業』ってなんなんだ?」

「『職業』が何なのか、か。『職業』というのは言うなれば生まれ持った性格を力に変えたものだ」

「じゃあさっきのヒゲオヤジは……」

「ああ、根っからの奴隷商人ということだな」

 やはりあいつは見た目通りの悪党だということか。「ノ」みたいな形の髭を生やした小太り中年オヤジは悪党だって相場が決まっているものだ。そんな事を考えていると、ここでまた新たな疑問が出てきた。

「なぁ、その『職業』って俺にもあるのか?」

 そうティーチに問いかけると数秒何かを考えているかのような素振りをした後にどこからともなく大きな斧を出した。

「!!! その斧どっから出したんだ!?」

「あ、俺の『職業』は『兵法者』だ」

「『兵法者』?」

「ああ、ありとあらゆる武器を自由に出し、それを使いこなすことが出来る。この斧も『兵法者』によるものだ」

 凄い面白い能力だな、と思ったが、騙されねぇぞ。質問の答えになっていない。こいつはパスタの茹で方を訊かれて「私の作ったカルボナーラは美味しいんですぅ〜」とでも言うのか。

「済まなかったな、カルボナーラの話をして」

 心の声が若干漏れ出ていたようだ。

「すみませんでした」

 はぁ、とため息をつきながらティーチは話を続ける。

「俺がこの力に目覚めたのは傭兵として戦場を駆け回っていた時だ。持っていた剣を敵の槍で弾かれ殺されそうになった時、『目の前の敵を倒したい』そう願っていると体が光り出して、気付いたら手に斧を持っていたんだ。だから恐らく、自らの生まれ持った性格と願いが強く共鳴した時、『職業』は発現するのではないかと思う」

 生まれ持った性格と願いが強く共鳴した時ねぇ〜。そんな事滅多に無いだろう。そもそも性格を生まれ持つ人間の方が稀だ。ましてや願いと共鳴する人間など。どうしたものかと悩んでいるとティーチが助け舟を出してくれた。

「簡単な話だ。今、何がしたい?」

 何がしたいか、か。ついさっきなら「ここから出たい」だったのだが、今1番したい事と言えば……少し考えて答えを出した。

「俺をぶっ飛ばしたあのヒゲクソオヤジを罠にハメてやりてぇ!」

 途端、体が光り出した。それを見たティーチが呆れた顔で言う。

「お前、いい性格してるな」

 『罠師』を習得した。









 








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