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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 第一の師・暗殺王セト邂逅編
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第八話 レノvsローウェン

「……あぁ~、いい匂い……まずはご飯でも」

『まずは宿で風呂を借りて匂いを落としなさい。その後で新品の服に着替えること。金はあるわね?』

「はい! 胸当て以外の鎧を売ったので大丈夫です! 着替えが終わったらご飯……」

『無味無臭の乾パンだけ許可するわ』

「えぇ~!? せっかく久々に街へ帰ってきたのですから、ステーキとか煮魚とか……」

『ステーキや煮魚を食べてそのタレの匂いで相手に悟られたら最悪よ。我慢しなさい』

「……ふぁい」


 レノは宿の風呂場で石鹸を使い体を洗う。草や土の匂いがついた服は廃棄。白い長袖の服に緑のスカート、スカートにはベルトを巻き付け、そのベルトに布袋を括り付ける。リュックは部屋に置いていき、鋼の胸当てに鋼の剣を腰に差す。この装備で宿を出る。


『いよいよ本番ね』

「緊張します……」


 レノは人だかりの多い大通りに出る。


『本当にローウェンはここに現れるの?』

「養成所に行く際にこの大通りで何度かローウェン教官に会いました。ローウェン教官はほぼ間違いなくこの道を使います。ローウェン教官を見つけ次第尾行し、人通りのない場所に入ったところで鞘入りの剣で殴ります」

『イメージはちゃんとできているようね』

「仕掛ける前に一つ、セトさんに聞きたいことがあるのですが……樹海で調合したこの玉は何に使うのですか?」


 いま、レノは腰に布の玉を括り付けている。それはセトの指示によって作ったモノだ。


『それは煙玉よ。地面に投げれば辺りを煙塗れにできる。もし不意打ちが失敗したらそれを使って逃げること。暗殺者たるもの、常に逃走手段は持っておくものよ』

「ぼ、僕は暗殺者じゃありません! 騎士です!」

『騎士だって常に逃げの手段は持っているものよ。いい、レノ、よく聞きなさい。“逃走を知らぬ英雄はいない”わ。どんな英雄だって一度は逃げたことがある』

「《聖天四雨》のセトさんが言うと説得力がありますね……」

『しっ! 来たわ。ローウェンよ』


 ローウェンが街角から曲がってきた。

 レノは現在、青いゴミ箱の中に隠れている。ゴミ箱には1センチほどの穴が空いており、そこから外を覗き見しているのだ。

 ローウェンが大通りから小道に入る。養成所への近道である。

 レノはゴミ箱から出てローウェンの後を追い、小道に入る。


(周囲に人はいない。距離10メートル……)


 レノはローウェンの背後に忍び寄る。



――それは、あまりにも呆気なかった。



 “風声”と“霊歩”を駆使したレノはゆっくりと鞘ごと剣を抜き、鞘に入った剣を振りかぶり、ローウェンの背中を勢いよく殴った。


「いっ!!?」

「え……」


 呆気なく、本当に呆気なく、レノはローウェンから一本取った。

 一本取ったはずのレノが納得のいかない顔をするほどに。


『そうよレノ。それが“不意打ち”よ。真正面から戦えば100戦中100敗する相手でも、完全なる不意をつけばこうもあっさり倒せる』


 ローウェンは振り返り、レノを見て10秒ほどでようやく状況を理解する。


「馬鹿な……!」


 最初はキョトンした顔をし、次に驚きに満ちた顔をし、次に悔しそうな顔をし、最後に怒りに溢れた顔をした。


「て、テメェ……!」

「教官、約束は守ってもらいますよ。僕はあなたから一本取りました。また養成所に通わせてもらいます!! ですが、今度からはあなた以外の教官を所望します!」

「……メス犬の分際で、誰に噛みついてやがる!!」


 ローウェンは怒りのまま剣を引き抜いた。

 抜き身の剣が太陽の光を受け輝く。


「教官……ここで真剣勝負をするつもりですか!?」

「勝負? 違うな。これは指導だ! 養成所に戻るんだろ? 俺からまず一つ、ルールを教授してやる!」


 レノも剣を抜き、ローウェンが振り下ろした剣を受ける。


「ぐっ!」

「俺に逆らうなっていう、絶対なるルールをなぁ!!」


 レノは簡単に押し負け、弾き飛ばされた。

 レノは剣を手から離し、地面に尻餅つく。

 レノが習ったのは“風声”と“霊歩”の暗殺術のみ。剣の腕は上がってない。正面から戦えばレノに勝ち目はない。


「二度と逆らえないよう、俺の名をその身に刻んでやる!」

『レノ! 煙玉よ!』

「はい!」


 レノは煙玉をローウェンの足元に投げる。

 白い煙が辺りを包む。


「クソ! くっせぇな! なに混ぜてやがる!」


 レノは“風声”と“霊歩”で煙の中に潜伏する。

 この煙にはハナマガリという悪臭を放つ果物を砕いて混ぜてある。これによりローウェンの鼻は利かない(レノは鼻を手で塞いでいる)。


 視界と嗅覚は封じ、“風声”と“霊歩”で気配は消した。ローウェンは完全にレノを見失う。


『煙の継続時間は約1分。その間、端の方で身を屈めて、精神統一しなさい』


 セトの言葉の意味をレノは瞬時に理解する。


(セトさん、まさか!)

『――後は任せなさい』

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新とても楽しみにしています!頑張ってください この作品にこんな初期から目をつけている僕って天才かもしれない…
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