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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 第一の師・暗殺王セト邂逅編
4/25

第四話 一人目

「《聖天四雨》……それぞれの墓所は……」


 レノは図書館で《聖天四雨》について書かれた本を開いていた。


(アラン様とセト様はここ〈バサラ王国〉、カラミティ様は〈マヤ魔導国〉、フォックス様は〈アゾット錬国(れんこく)〉ですね。この国に2つも墓所があるのは好都合です)


 現在レノが居るのは〈バサラ王国〉。

 期限が一週間であることを考えると他国に行っている時間はない。


(〈マヤ魔導国〉と〈アゾット錬国〉に行ってる時間はありません。そうなると、候補は2人)


 〈バサラ王国〉に墓所があるアランとセトの2人に絞られる。


(あらゆるの武芸の達人、武芸王アラン様。あらゆる暗殺術の使い手、暗殺王セト様……騎士を(こころざ)す僕としてはやはりアラン様が良いのですが、近いのは――セト様の墓ですね)


 レノの真っすぐな性格に暗殺術は不向き。それは本人も承知の上だが、今はセト以外の墓所に行く時間はない。


(セト様の墓所に行ってみましょう)


 レノは本をしまい、本に書かれていたセトの墓所がある街へ向かった。



 --- 



 〈バサラ王国〉、〈ベゴニア〉。

 大きな劇場があり、数々の美術館や博物館がある芸術の街。その街にレノは1日かけて辿り着いた。


「凄く高貴な街ですね……僕なんか、完全に場違いです……」


 着飾った男性や女性が多く見える。レノは軽鎧(ライトアーマー)を着て、剣を腰に差した格好。芸術の街には似つかわしくない。

 レノはすぐに目的の場所に辿り着いた。そこは大きな広場だ。

 ナイフを持った精悍な青年の銅像、その前にある真っ黒な台形の石碑。

 石碑には“セト=ギルウェン”と書かれている。


「ここが、セト様の墓……」


 広場には人が満ちている。


(これまで会った霊の人たちの話を聞くに、亡くなった人の魂はまず亡くなった場所に漂う。亡くなってから49日が経った後、未練が無ければ天国もしくは地獄へ行き、未練があれば墓や馴染み深い場所で彷徨い続ける)


 セトの銅像と墓はこの街の観光名所であり、訪れる人々はセトの銅像に両手を合わせていく。


(セト様らしき人物は……)


 セトの銅像に似た青年を探す。

 だが、どこにもそれらしき人物が見当たらない。


「いない……ですか」


 セトは焔王打倒を果たし、世界に平和をもたらした。いわゆる英雄である。その英雄が何百年とこの世を彷徨うほどの未練を持っている可能性は低い。

 レノはため息をつく。


「帰りますか」


 (きびす)を返し、帰ろうと足を踏み出した時、


(あ――)


 レノのすぐ目の前に、小さな女の子が現れた。

 レノの身長154cmに対して145cmぐらいの少女。気づいたのが遅く、もうぶつかるのは免れない――そう思ったのだが、

 レノが女の子とぶつかると、女の子は透けた。透けて、レノの背後に行った。


「え……?」


 生身じゃない。ということは、


――霊体。


「あ、あの!」


 レノは女の子に話しかける。

 ミディアムの黒髪の女の子。黒いフード付きの上着とミニスカートを着ている。女の子はその眠たげな瞳でレノを見上げる。


「あなた、幽霊ですよね?」

『……そうよ』


 幽霊、とは言えセトではないだろう。

 なぜなら伝承上、セトは男であり、これほど小さい子供でもない。


「えっと、1つお聞きしたいのですが、この辺りでセトという霊に遭ったことありませんか?」

『……ない』

「そ、そうですか。わかりました。ありがとうございます」


 次に、女の子はとんでもないことを口走る。


『だってセトは私だから』

「へぇ~。セトが……あなた!?」

『そうよ』


 当然のように女の子は言う。


「だ、だって! セト様は……あ」


 レノは気づく。周囲が自分を怪訝な瞳で見ていることに。

 霊の見えない一般市民からすればレノは大きな声で独り言を言っている危ない奴だ。

 レノは口元を隠し、小さな声で、


「セト様は男性ですよ?」

『私の時代、500年前は男尊女卑全盛期。女の英雄なんて認められない。だから国が勝手に私の性別を改ざんした』

「なるほど……だとしても、こんな子供が焔王を倒しただなんて信じられません……」

『子供じゃないわ。これでも二十歳。子供の姿の方が警戒されにくいから若作り頑張った』

(頑張ってどうにかなるレベルを超えていると思うのですが……)


 レノは改めて女の子――セトを見る。


(やっぱり、こんなキュートな女の子があの大英雄だとは思えません)

『信じられない。という顔』


 一瞬だった。

 一瞬でセトはレノの背後に回り、ナイフを首に突き付けてきた。


「なっ……!?」

『これが証拠。私が本気になればここにいる全員28秒で抹殺できる。もちろん、肉体があればの話だけどね』


 セトはナイフをしまう。


『それにしても、霊が視えるということはあなたシャーマンなのよね。初代焔王と同じ。しかし、覇気もなにも感じない。あなたからはおおよそセンスというモノを感じない』

「うっ……」


 一切遠慮なくモノを言うセト。


「セト様!」


 レノは周囲の目も気にせずその場で土下座した。


『はえっ……!?』

「お願いします! 僕を弟子にしてください!!」

『ま、待って。とりあえず一旦待って! こんな場所で頭を下げないで! 私まで恥ずかしい……!』

「いえ! 弟子にすると言ってくれるまで頭を上げません! 僕にはもう後がないのです!」

『で、でも……』

「その代わりと言ってはなんですが、セト様の未練は僕が果たします!」

『!?』

「未練があるからまだこの世にいるのでしょう? お聞かせください。その未練、僕が叶えましょう!」

『……ほ、本当?』


 どこか照れたような声が聞こえ、レノは頭を上げ、セトを見た。


『私の未練、叶えてくれるの?』

「はい!」

『じゃ、じゃあ……』


 セトは顔を紅潮(こうちょう)させ、人差し指を合わせモジモジとし始めた。目線は泳ぎ、頭からは湯気のようなモノが上がっている。


『わ、わわわわ私と! と、とととと、とも、とも……』

「?」

『……やっぱり、まだ心の準備ができていない。――ま、まずはあなたの願いを叶えてあげる。私の未練はその後』

「で、では、僕の師匠に……!」

『とりあえず少しの間だけ』

「やったーっ!」


 レノは両手を上げて喜ぶ。


「……これまでいろんな参拝客を見てきたが、ここまで熱心に祈る奴は初めてだ」

「……健気な子だねぇ」

「……いや異常だろ。頭おかしいだろ」


 周囲の人間がレノを見てブツブツと陰口を言う。

 レノは周囲の声に気づいていないがセトは恥ずかしさからまた顔を赤くした。


「あ、紹介が遅れました。僕の名前はレノ=グリーンハートと言います。よろしくです!」

『自己紹介は後でいいわ。まったく、空気の読めない子……! 早くここを離れるわよ!』


 もしかして私がツッコミ役なの? という懸念を抱き、セトはレノを連れてその場を離れた。

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