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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 第一の師・暗殺王セト邂逅編
3/25

第三話 災厄の子

 災厄を運ぶ子、“厄子”。それが家での彼女の名前だった。


 生まれてすぐに母親は病死した。

 自分を生んで母親が死んだため、母親に溺愛していた父親はレノに対し、僅かに憎しみのような感情を持っていた。

 彼女が不幸に愛されていたことが、父親のレノに対する不信感を加速させた。

 足を掛けた階段が抜けたり、使っている食器が割れることは日常茶飯事。外に遊びに出掛ければ雨が降り、花に水をあげればその花が枯れた。

 レノが不幸に見舞われる度、父親は苦い顔をした。だからレノはどんな不幸を前にしても笑うようになった。少しでも父親の機嫌を取るために。


 そんなレノに転機が訪れたのは7歳の時。


 掃除したばかりの階段をのぼっていた彼女はまだ水気の残る階段で足を滑らせ転び落ちた。階段から落ち、頭を打った彼女は三日間生死を彷徨った。

 なんとか彼女は持ち直した。彼女が目を覚ました時、父親は「ああよかった」と口にした。父親は自分の発言に驚いた後、涙を流した。安堵したのだ。自分に娘を思う心が残っていたことに、父親は感動していた。だが、すぐに涙は退くことになる。生死を彷徨ったせいか、彼女は妙な力に目覚めてしまった。


「お父様。今日は城内が騒々しいですね」


 それが彼女の最大の不幸の始まり。彼女は初代焔王と同じ霊能力、霊視能力に目覚めてしまったのだ。城内に、彼女は過去に死んだ人間の姿を見てしまった。


「アレ? お父様、この前盗賊退治に出たハルトマンさんがいますね。部下の方々も……よかった! 無事に帰ってこれたのですね!」


 ハルトマン。彼はアッシュロード家抱えの騎士であり、ひと月前に領内に巣食う盗賊退治に出掛けた。


 そして――帰らぬ人となった。


 父親はレノが霊を視えていると確信した。娘を想う気持ちは無くなり、焔王と同じ能力を持つ彼女はいずれ我が家に大きな災厄を運んでくるのだと妄想した。


 レノにとっての地獄が始まった。


 父親は完全に愛想を尽かせ、兄と姉は霊が視えるという気味の悪い妹を執拗に虐めた。使用人も騎士も、兄の命令でレノを無視し、見向きもしなくなった。

 アッシュロード家の汚点、アッシュロード家に破滅をもらたらす者。初代焔王と同じ能力と不幸体質を持つ彼女は徹底的に追い詰められた。常人なら縄で首を吊るのを躊躇わない程に。それでも彼女は笑顔を絶やさなかったという。そのヒマワリのような笑顔を見て、家族たちは一層彼女を気味悪がったそうだ。


 そして来たる11歳の誕生日、彼女は追放を言い渡されたのだった。


 11歳の少女が単身で外へ投げ出されたのだ。生活を確保するのにも最初は苦労し、約2か月は屋根のない場所で眠った。それでもめげずに努力し、騎士養成所に頭を下げて入った。養成所の(はか)らいで彼女には宿の一室が与えられた。


 それから3年以上の月日をえて現在。彼女はまだ地獄の中にいた。


 雨の中、呆然とレノは水たまりを見つめる。


「……立派な騎士になれば、お父様も認めてくれると……そう、思っていたのに」


 むしろ父親はレノが騎士になることを拒否していた。わざわざ使いを出して妨害してくるほどに。

 我が家の汚点が名声を得ることを忌避(きひ)忌避(きひ)していた。


「いつか自分の隊を持って、先頭で旗を振って指揮をする……そんな妄想を何度したことでしょう。でも……無理かもしれません。僕は騎士にはなれない……!」


 レノは水たまりの上に座り込む。

 大粒の涙が両目から流れる。


(アイザックさんはすごい方でした。教え方も上手で、ローウェン教官より遥かに強い方でした。そんな方でも僕を強くすることはできなかった。もう、誰を師にしても無駄――)


 その時、レノはひざ下にある水たまりに目を引かれた。正確には水たまりに落ちる雨によって広がる波紋に注目した。


「雨……」


 レノは思い出す。ローウェン教官の言葉を。


――“剣もダメ、弓もダメ、魔術は使えない。お前を騎士にするには彼の英雄、《聖天四雨》でも師にしなければ不可能だ”。


「はは……なにを考えているのでしょう。《聖天四雨》は皆さん、とっくに死んで……」


 絶望に染まっていた心に、一筋の光が差す。


「そうだ……」


 《聖天四雨》は皆、死んでいる。

 だからこそ好都合だった。


「……みんなを見返す方法、まだ、あるかもしれません……!」


 レノが笑うと共に、

 空が、晴れた。


(《聖天四雨》は皆さん、とっくの昔に死んでいます。彼らを師にすることは不可能……僕以外には! 僕には霊視能力がある。もしも彼らがまだ、この世に留まっているのなら! 彼らに弟子入りできる!!)


 レノは立ち上がり、自分の頬を叩いた。


「ダメでもともと! 《聖天四雨》の方々の墓を探しに行きましょう! えいえいおーっ! ――うわあ!?」


 早速走り出したレノだったが、ぬかるんでいた地面に足を取られ転倒した。


「……モーマンタイ……です!」


 だがすぐに立ち上がり、陽気に立ち上がった。


「ローウェン教官も、家の皆も、見返してあげますっ……! 僕は、みんなを幸せにできる人間だと……証明してみせます……!」

 

 嗚咽交じりにレノは決意を口にする。

 タフさと、霊視能力と、そして――何度倒れても立ち上がる不屈の精神。それがレノ=グリーンハートの“強さ”である。


 厄災を運ぶ厄子が世界を救った大英雄と出会った時、物語は動き始める――

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