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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 第二の師・武芸王アラン邂逅編

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第二十一話 作戦会議

 アギト商会掃討作戦二日前。

 レノは修羅場にいた。


「皆、紹介しよう。今回の作戦に協力してくれるレノ=グリーンハートだ」


 〈フィオナ城〉会議室。

 壁には敵基地の見取り図と周辺の地図、こちらの戦力などが張り出されている。長机には飲み物やシミュレーション用の駒が散らばっている。机を囲むようにいるのは今回の作戦に参加する部隊長十五名(フィン、ディル、キール含む)。


 精鋭たちの視線を集め、レノは会議室に入ってきた。


「ど、どうも。レノ=グリーンハートです。よろしくお願いいたします」


 レノに向けられた視線は冷ややかなモノだった。

 見知らぬ少女が極秘の大仕事に参加するというのだから当然である。


「フィン様」


 まず声を上げたのは重厚な鎧に身を包んだもみあげの長い男。歳は四十近い。


「この作戦は精鋭のみ集めて密かに実行するものと聞きました。こんな小娘を入れるなんて信じられませんな」

「あら? それを言うなら私だって小娘ですよ。バンギスさん」

「キール、お前は特別だ。認めたくはないが、お前の指揮能力と槍術の腕は部隊長に相応しいレベルにある」

「俺の眼力は信じられないか?」

「……」


 フィンの質問に対し、バンギスは沈黙で応える。この場合、YESってことだろう。


 フィンとディル、キールを除く面々はバンギスと同意見らしい。レノを睨むように見ている。


(か、完全アウェーですね……)

『やれやれ、まったく変わらないねぇ。レノ、気を悪くしないでくれ。こいつはちょうどお前ぐらいの歳の娘が居てな、若い女が戦場に出ることを良しとしないんだ』


 バンギスの圧力は凄まじいものだが、フィンは一切物怖じせず、意見を口にする。


「今回アギト商会の不正を暴く決め手となった顧客リスト、方法は言えないが手に入れたのはレノだ」

「なんと……」


 バンギスは驚いた様子でレノを見る。


「レノは信頼できる戦士だ。この会議で彼女の意見を聞けば、お前らにもそれがわかるだろう」

「俺もレノを推すぜ」


 ディルがフィンに同調する。


「コイツが城に来てからというもの、城の雰囲気が変わった気がする。コイツからは……どこか、マーナ様と似た気配がする」

(す、鋭いですディルさん。霊であるマーナ様の気配を感じるなんて……)

『いや』


 マーナは腕を組み、否定する。


『そういうことではないと思うぞ』

「?」


 マーナの言葉の意図をレノが問う暇を与えず、バンギスが声を荒げる。


「お前はいつも意味のわからぬことばかりを言う! この娘とマーナ様が同列なわけないだろう!!」

「誰も同列とは言ってねぇだろうが! 似てるってだけだよ! ちゃんと話聞けおっさん!」

「なんだと小僧!! 乞食同然だった野犬が……!」

「その野犬に階級で並ばれてる哀れなおっさんが……!」

「なんだとぉ!!」

「だーもうっ! うっさいうざいうっとうしい!!」


 イライラが限界に達したキールが二人の会話を遮った。二人はキールの怒声で体を震わせ、悪戯のバレた子供のような顔をした。


「レノ()()にこんな時間割いてる場合!? ()()()()いてもいなくてもあんましなにも変わらないってば!!」

「如き……こんなの……」


 レノはキールのあまりの言い草に涙目になる(庇ってはくれているのだが)。


「フィン様が譲る気ないんだからバンギスさんも諦めて! はい! レノの話は終わり! 本題に入りましょうフィン様!!」

「あ、ああ。そうだな」


 バンギスは鼻息を強く鳴らし、椅子に座り直す。ディルは「けっ!」と唾を飛ばした後、腕を組んで座った。


「通達した通り、二日後に掃討作戦を始める。時間は早朝五時。七人小隊十五隊での作戦だ。今から配置の説明をする」


 フィンはフィンを除く十四名の隊長の前で部隊の配置・作戦を伝える。

 ほとんどの人間が納得した面持ちで聞いていたが、約二名、渋い顔をする者がいた。セトとマーナである。


「アギト商会の本拠地……〈アギト・ホーム〉は地上七階、地下五階ある。ゆえにいま言った通り、地上と地下に大きく隊を二つ分けて侵攻する。これで問題はないと思うが、なにか意見のある者はいるか?」

『いる』


 マーナが手を上げる。


『レノ。いまから私の言うことをそのまま伝えてくれ』


 マーナがくいっと顎を上げる。手を上げろ、ということだろう。

 誰も手を上げない中、レノは静寂を破り、渋々手を上げた。当然、“なんだこの小娘”という視線がレノに集まる。


「……お前の意見、聞かせてくれ。レノ」


 フィンは優しい眼差しで言う。


「えっとですね。まず地下に全戦力の半分を送るのは危険だろうと言って――思います!」

「なぜだ?」

「地下は逃げ場が少なく、出入り口で火を焚かれるだけで全滅しかねない。焔炉の騎士団(ファーネス)の性格上そういう残虐な手段を迷いなく取るでしょう」

「言えてるな」 


 ディルが納得する。


「地下は三隊ほどで抑え込むのがベストかと思います」

「地下は五階もあるのだぞ。たった三隊で制圧するのは難しいだろう」


 バンギスが意見する。


「いえ、地下の制圧は後回しにするのです。まず地上の制圧を優先します。地上は十隊で素早く制圧します。まずキールさんの天馬隊、ディルさんの騎馬隊が先行します。天馬隊は最上階の窓を突き破って突入し、騎馬隊は正門から突入。中で居座ることはせず、そのまま突っ切ってください。二隊はそのまま外に出て、建物から逃げた敵兵の対処。相手が騎兵隊の乱入でパニックになっているところで残りの一三隊を投入。バルカートン隊、ジュナザート隊、ヴィントル隊は地下から地上へ繋がる道を押さえてください。あとの十隊で上の階層を制圧します。先導するのはバンギスさんの重装隊。ハットンさんの小隊は瀕死の敵兵を攫い、順次拷問して情報を引き出してください。商会に攫われた人たちの場所がわかったらすぐさま全隊に通達。バンギス隊が息切れしたらフィンさんの隊が先導して……」


 そのままレノは指示を出し続けた。無論、マーナの指示を口にしているに過ぎない。

 やがてレノを侮っていた者たちはその評価を改めた。顔に汗を這わせ、レノの的確な指示に舌を巻いていた。


 ディルやキールも例外ではなく、レノの怒涛の指示出しに驚いている。


 いちゃもんを付けたいが……付けられない。相手はぽっと出の小娘だ。しかし、その作戦内容はある女傑の匂いを感じさせた。


 その場にいる全員が、レノの姿にマーナを重ねた。


「……以上です! いかがでしょうか」


 シーン。と場を静寂が包み込む。

 キョトンとするレノ。


「どうだバンギス」


 いじわるな顔をしたフィンが、バンギスに作戦の評価を問う。

 バンギスはどこか嬉しそうにため息をつき、


「……一切、問題ないかと」

「了解だ。では今のレノの作戦でいくぞ」


 おぉ!! と盛り上がる一同。

 レノは肩で息をしながら、今のマーナの作戦を頭の中で反芻していた。


(これは……凄く、勉強になります。教習所ではこんな本格的な作戦は習えない)


 レノは背後にいるセトとマーナの方をチラッと見る。


『そんな目をしなくともわかっている』

『あとで今の作戦の意図を説明してあげるわ』

(はい!!)


 静かに、レノの指揮官としての才能が磨かれていた。

【読者の皆様へ】


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