第十九話 復縁
一夜が明けた。
フィンの部屋にレノは眠らせていた。
フィンは外出中。部屋には霊二人、セトとマーナのみがいる。
『馬鹿な子ですね。限界を迎えてまで、我々のために動くなんて』
『身の程知らずなだけよ』
セトはレノの額に手を添える。
『しかしセト様。私はこの娘の馬鹿で向こう見ずで愚直で、そしてお人好しなところは美徳だと思いますよ』
『……』
そんなのわかってる。という言葉をセトは飲み込んだ。
『この子はきっと、友達であるセト様に自分の正義を否定されたことが我慢ならなかったのでしょう。生まれながらに迫害され、あらゆるプライドをズタズタにされたレノにとって、己の正義心が唯一の拠り所……誇りだったのでしょうから』
『私にも私の正義があるわ。私が師匠なのだから、私の正義にこの子が同調するべきよ』
『それは違います。師とは弟子に選択肢を与えるのみで、最後にどの道を選ぶかは弟子に委ねるべきです。決して、弟子の道を決定づけてはならない』
『……私に折れろと言うの?』
『セト様。あなたは自分に染まったレノと、今のレノ……どちらを愛せますか?』
レノはむにゃむひゃと口を動かし、
「わぁ~、ステーキが川を泳いでますぅ……」
レノは意味不明な寝言を言い、無邪気な子供のように笑った。
セトはレノの頭をそっと撫でる。
『そんなの……決まってるじゃない』
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「あれ……」
目を覚ましたレノは体を起こし、周囲を見渡す。
「ここは……フィンさんの部屋?」
『そうよ』
すぐ傍で待機していたセトが答える。マーナは部屋の端で腕を組み、二人を見守っている。
『気を失ったあなたをフィンがここに連れてきて介抱してくれたの』
「そうだったのですか。後で礼を言わなきゃですね」
レノは「あはは……」と自嘲するように笑う。
「まったく、ダメですね僕は。フィンさんの助けがなかったら、また失敗してました。結局、自分だけじゃなにもできなくて……それなのにセトさんに反発して、偉そうなこと言って……ホント、ダメ人間です……」
『……ダメじゃないわ』
「え……」
『レノはダメだけど、ダメじゃないわ!!』
「えっと、意味がわからないのですが……」
『ええ! 私だって意味がわからないわよ! でも……嫌なの。あなたが自分を責める姿は見たくない……あなたを責めるのは私の役目! ああもうっ、なに言ってるのかしら……』
セトは昂った感情を落ち着かせるため、深く呼吸する。
『……あなたの正義は間違ってないわ。だから、貫き通しなさい』
「セトさん……」
『あまりに無鉄砲な提案や主張は私が止める。私があなたのストッパーになる。だから私の意見もしっかり聞くこと。わかった? ――って!?』
レノはセトに抱き着く。相手は霊体なのでレノとセトは接触していない、レノが抱擁しているように見せているだけだ。
『ちょ、レノ!?』
「やっぱりセトさん、だ~いすきです!! 絶交解消です!!」
レノはセトの胸を頬ずりする。
『も、もうっ。仕方のない子ね……』
照れながら、レノの頭を撫でるセト。そんな二人を母親のような目つきでマーナは見ていた。
「やぁ、起きたかレノ……って、なにをしているんだ?」
部屋に戻ってきたフィンは何もない空間を抱きしめているレノを見て困惑した。
「ふっふっふ。愛を育んでいるのですよ~」
「な、なるほど。あまり突っ込まない方がいいのだろうか……」
ひとしきりセトを愛でたレノはフィンに向かって頭を下げる。
「フィンさん、介抱していただきありがとうございました!」
「いや、気にするな。そもそもこちらの事情に巻き込んでああなったわけだしな。改めて礼を言おう、レノ。お前の働きのおかげで、事態はかなり進展した」
フィンは執務用の服を着ている。格好から察するになにか仕事をしてきたのだろう。
「マーナ様の部屋から持ち出したあの資料、役に立ったのですね!」
「ああ。アレはアギト商会の顧客リストだった。いや……裏顧客リストとでも言うべきかな。こちらに報告されていない顧客の名が多く記されていた。恐らく奴隷商や密売人の類だろう。いま部下にリストにあった顧客の場所に向かわせ、裏を取らせている」
『出兵までにどれだけの時間を要するか聞いてくれ』
マーナからの指示だ。
「マーナ様が、出兵までにかかる時間を聞いてます」
「そうですね……掃討作戦までは、あと七日といったところでしょうか。商会の不正を暴くのに今日含めて二日、それから精鋭を集めるのに三日、作戦や連携の確認に二日。一週間後の早朝に仕掛けるのが良いでしょう。奇襲としては夜討ちが有効ですが、暗闇に紛れて逃げられても面倒ですしね」
『うむ。悪くない』
「あの、フィンさん。その掃討作戦、僕も参加させてくれませんか!?」
レノの提案に、その場にいる全員が驚く。
セトはやれやれとため息をつき、マーナは嬉しそうに笑い、フィンは考える素振りを見せる。
「自分が起こした事の顛末をしっかりと見届けたいのです!」
「正直、俺としては助かる。お前の力、ひいては母の力は借りたいと思っていたからな。母の提案をお前を通して俺に伝えてくれれば百人力だ。失敗の可能性はなくなる。しかし……危険だぞ。相手はまごうことなきテロリストだ。こちらを殺しにくるだろう」
レノはセトに視線を送る。セトは渋い顔をしつつも頷いた。
「危険は覚悟の上です!」
「……わかった。ならば止めない。一緒に来てくれ、レノ。お前の力が必要だ」
「はい! お供します!」
こうして、レノの掃討作戦参加が決まった。
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