第十四話 お断りだねっ!!
フィンは寝巻の襟を正し、
「こんな格好ですまない。客人が来るとわかっていたら正装に着替えたのだが」
フィンはディルを笑みを含んだ目で見る。長い付き合いのディルはその笑みに恐怖を感じ、背筋を震わせた。
「いえ、僕なんかに気を使う必要はありません。それより一つお願いがあるのです」
「聞くよ。なにかな?」
「この城にあるというアラン様の墓所へ行きたいのですが」
「それは……難しいな。墓所へ繋がる扉の鍵は父が持っているんだ。でも今、その父がまともな状態ではなくてな」
「わかりました。では僕がお父様を元気にさせてみせます」
「え?」
「もしお父様を元気にしたら、アラン様の墓所へ連れて行ってくれると約束してくれませんか?」
フィンは戸惑い気味に、
「それは構わないが……なにか作戦でもあるのか?」
「ありません!」
「……ディル、彼女は一体……」
「おもしれー女」
「それはなんとなくわかるが……」
レノの隣に立つセトがある提案をする。
『フィンに母親の墓がどこにあるか聞きなさい』
(なぜです?)
『領主の妻なら領主を元気にする方法を知っているかもしれない』
(なるほど! フィン様のお母様の霊に会うのですね!)
『すでに亡くなってから二年経ってるし、いない可能性も大きいけど』
死んでから49日が経つと未練のない霊はあの世に旅立つ。
フィンの母親がこの世に未練がなければ、墓に行ったところで会えないだろう。
(でも、試す価値はありますね)
レノはフィンに視線を向ける。
「フィン様、お母様のお墓の場所を教えて頂いてもいいですか?」
「? 理由を聞いてもいいか?」
「えっとぉ、お墓参りがしたい気分でぇ~……」
ディルが「どんな気分だよ」と突っ込む。
「母の墓は街の西側の墓地にある。いま地図を渡そう」
「地図はいらねぇよ。暇だし、俺が案内するさ」
「暇じゃないだろ。お前は9時から城の警護だ」
「あー……そうだった。だりぃ」
フィンは墓所の場所に丸印を付けた地図をレノに渡す。
「母の名はマーナ=バラスティだ。墓に添えられている花の数が多いからすぐにわかると思う」
「ありがとうございます! フィン様!」
「あと、様はよしてくれ。お前は俺の臣下じゃないんだ」
「では……フィンさんと呼ばせていただきます」
フィンはジーッとレノの瞳を見る。
「……ふむ」
「どうしました?」
「いや、綺麗な緑色の瞳だと思ってな」
「えへへ、嬉しいです。お母さん譲りなんです……この目」
「――そうか」
フィンは意味深な顔をするが、すぐに笑みを取り戻す。
「母によろしく言っておいてくれ」
「はい!」
---
〈フィオナ城〉から離れ、街道を西に歩いていくと墓地に着いた。
多くの墓がある。だが、マーナ=バラスティの墓はすぐに見つかった。フィンの言う通り花束が大量に飾られた場所があり、その墓にマーナの名が刻まれていた。
「はじめまして! レノ=グリーンハートと申します」
レノは彼女に名乗った。
墓の前に、肌の焼けた褐色肌の女性が座っていた。
フィンとは違い金色の髪で、一つ結びにしている。腹筋や肩を露出した服を着ており、健康的な筋肉が見え隠れしている。背には槍を携えていた。
領主の妻……にしてはファンキーな格好だった。
『これはこれは、礼儀正しいお嬢ちゃんだねぇ』
彼女こそフィンの母親、その名を、
『私はマーナ=バラスティだ。さてとお嬢ちゃん、わざわざこの墓の前に来たってことは、私になにか頼みがあるんだろう? 聞かせておくれよ。その代わり、こっちの頼みも聞いてもらうけどねぇ』
「マーナ様もなにか僕にお願いがあるのですか?」
『まぁね。だけどまずはそっちから話しなよ。ここまでわざわざ足を運んでくれたんだ。アンタに優先権がある』
「では……マーナ様。いま、この街の領主であるマーナ様の旦那様が、マーナ様の死を受けて消沈しています。どうか、旦那様の活力を取り戻す手助けをしてくれませんか?」
『お断りだねっ!!』
凄まじい迫力でマーナは断る。レノとセトは「え~……」と目を点にした。
『女が死んだくらいで何年も領民をほったらかしにする腰抜けなんざどうでもいい! あんなのを旦那にした私の品位まで問われるってもんだ! あんなクズ、とっとと廃れて死んでしまえ!! あの世で調教してやる!!!』
「で、でもいま、僕の頼みを聞くって……」
『聞くだけさ。叶えるとは言ってないだろう。ま、私の未練を果たしてくれたなら、考えてやってもいい』
(自分の旦那様のことなのに、後回しですか……)
『と、その前に、そっちの霊は何者だい?』
マーナはセトに目を向ける。
セトとマーナは視線を交錯させる。するとマーナは表情を強張らせた。
『……驚いた。とんだ化け物だ。生前も死後も、こんな傑物見たことない』
『見ただけで私の能力を測れるなんて、あなたもそれなりの腕のようね。私はセト=ギルウェン。その子の師よ』
『セト――ギルウェン!? これはこれは失礼しました。まさか彼の大英雄だとは……』
マーナは片膝をつき、頭を下げる。
『いいわよ。気にしないで。それよりその子との話を進めてちょうだい』
『はい』
どうやらマーナはセトに対して畏敬の念があるらしい。セトは歴史の本には必ず載るほどの大英雄、これぐらいの反応が当然と言えば当然である。むしろセトに対してまったく物怖じせず、弟子入りしたり、友達になったりできるレノが異常なのだ。
『私の未練は……ある賊を取り逃したことだ。放っておくとこの領内全てを焼き尽くすほど、危険な賊』
マーナの顔が険しくなる。
『その名は“焔炉の騎士団”。焔王の親衛隊を名乗る連中だ』
タイトル考えるのめんどくさくなったので、一旦この短文タイトルでいきます。
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