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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 第二の師・武芸王アラン邂逅編

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第十一話 冥土丸

 レノは〈スカー〉を出る前に、セトの指示で薬草屋に寄っていた。


鬼神(きしん)ネギ、(はがね)ダケ、ターボニンジン、昇天(しょうてん)ウコン、(あらし)ゴボウ、天草(あまくさ)地草(ちくさ)……シビレダケはないか。ならそこの黒いトウガラシ、死神の爪(リーパー・クロー)で代用ね』

「セトさん、こんなやばそうな薬草集めてなにをするおつもりですか? というかコレ、本当に薬草ですか? 毒草ではなくて?」


 薬草を入れたカゴからは殺意を感じる。

 明らかに危険な組み合わせが揃っている。これで爆弾を作るつもりだと言われても不思議ではない。


『最強の丸薬を作るわ。その名も冥土丸(めいどがん)。一日一粒食べるだけで血管や臓器といった体の内側の力、内功を爆発的に高めてくれる。あなたの肉体改造をするにあたって必要不可欠のアイテムよ』


 肉体を作るにあたり、食は大切な要素である。名だたる戦士・魔術師は必ずといっていいほど食事にはこだわり、中には米粒一つ水一滴単位で食事をコントロールした者までいたという。

 ただでさえ筋肉の質が悪いレノは内側から体質を改善しないとならない。そのための冥土丸だ。冥土丸さえ食べておけば細かい食事コントロールせずに優秀な体質を作れる。


 無論、()()のリスクはあるのだが……。


「ほう! そんな凄い丸薬を作れるなんて、セトさんは生前、薬屋でもやっていたのですか?」

『まさか。暗殺者は毒物のスペシャリスト。ターゲットを抹殺するのに食事に毒を仕込むなんて当たり前。でも万が一、ターゲット以外が毒を口にした場合、毒を治療する解毒薬が必要になる。だから毒を作ると同時に解毒薬も幾多と作った。毒と薬は紙一重、いつの間にか薬屋顔負けの調合スキルが身についていたわ』


 事実、現代の薬屋のほとんどがセトの調合スキルに及ばないだろう。


『あとすり鉢とすりこぎ棒も買いなさい』

「了解です!」


 セトに言われた物を全て買い、店を出る。


「家から持ち出した高い鎧……それを売って作ったお金も、そろそろ底を尽きそうです……」

『必要経費よ』


 レノは路上に捨てられていた空樽に座り、目の前のもう一個の空樽に調合道具(すり鉢とすりこぎ棒)と素材を乗せ調合を始める。


『調合は素材を入れる順番が肝心よ。まず鬼神ネギと天草をすり潰して』

「はい!」

『ちなみに天草と地草は緑色で似ているけど間違えちゃダメよ。葉脈が三本以下なのが天草だから』

「はい!」

『天草と地草を入れる順番を間違えた場合、致死性の毒薬になるから』

「はい!?」


 薬と毒は紙一重。調合の妙で簡単に入れ替わるのだ。

 ちょくちょく怖い忠告を受けながらも、レノは丸薬を作り出した。真っ黒で、人差し指と親指で作った輪ぐらいの大きさの丸薬だ。


「これが冥土丸、ですか」

『ええ。完璧ね』


 《レノは冥土丸のレシピを覚えた!》


「では早速……頂きます!」


 レノは丸薬を口に入れる。


「うぐっ!!?」


 レノの口全体に広がる最悪の味(トウガラシとレモンとゴボウと砂糖を海水と牛乳で煮込んだような味)。


『噛まずに飲み込みなさい』


 言われずとも、噛むことができないくらい硬い。

 レノは丸薬を飲み込む。すると胃から全身に熱が(ほとばし)った。レノは全身を真っ赤にさせ、目を回す。


「せ、セトさん……この丸薬のせいか……体がふらつくのですが……」

『大丈夫。三分ぐらいで治るわ。副作用だと思って我慢なさい』

「ふ、副作用があるだなんて……聞いてません……」

『――なぜその丸薬が“冥土丸”と呼ばれたか。それは一日に三個口にすると確実に死ぬから。それほどの劇薬なのよ。それはね』

「先に言ってくだひゃい……!」


 冥土の淵を見たレノであった。



 --- 



 復調したレノは馬車乗り場で〈パーシアン〉に向かう馬車を見つけた。


「こちら〈パーシアン〉行きの馬車だよ。子供は3000G」

「はい。お願いします!」


 レノは金を払い、馬車に乗り込む。

 他に客はおらず、誰も乗り込んでくることなく出発の時間になる。

 馬車が出発し、街を出る。


(こんな都合よく〈パーシアン〉行きの馬車を見つけられるとは驚きました。馬車なら夕方には〈パーシアン〉に着きますよ。他に客もいなくて快適ですし、運がいいですね!)

()()()()……レノが?』


 どこか不安を感じながらセトは馬車の行く先を見守る。


――出発から一時間後。


 ガコン! と馬車が傾き、馬車が止まった。


「な、何事ですか!?」


 レノは馬車を降り、状況を確認する。


「ありゃりゃ」


 御者は頭を抱えた。

 馬車の車輪の一つが割れてしまっているのだ。


「こりゃダメだな。完全におしゃかになってやがる。あそこに落ちてる尖った石に引っかかったか」


 不安的中。

 セトは肩を竦める。


「馬だけで街に戻って部品を買ってくるしかないな。嬢ちゃん、どうする? ここで待つか。それとも俺の後ろに乗って街に戻るか?」

「ぼ、僕はこのまま歩きで〈パーシアン〉まで向かうことにします……」

「そうかい? 悪いな。代金は返すぜ」


 御者は馬を荷車から外し、馬に乗って街に帰っていった。


『ほんっと、出だしから不運ね』

「不運じゃありません! 車輪が壊れた時、乗っていたのが僕だけで幸運でした。ご老人や子供ではこの森を越えるのは難しいでしょうから」


 いつもながら頑なに不幸を認めないレノであった。


『御者が車輪を治すまで待ってればよかったじゃない』

「事故のせいか、お馬さんの脚に傷がありました。例え荷車が治っても二人乗せて走るのは難しいでしょう」


 馬の脚に傷があったことにセトは気づいていなかった。実際、馬の傷はとても小さく、普通は気づかない。自分でも気づかなかった傷に気づいたレノにセトは驚きつつも、その甘ったるい優しさに呆れる。


『……お人よし』

「ありがとうございます!」

『褒めてないわ』

「あ! 御者の方に傷のこと言うの忘れてました……」

『乗ってればいずれ不調に気づくでしょう』


 やれやれ、他人の心配をしている場合か。とセトはため息をつく。


『馬車なら夜に着く……か。なら、歩きなら3倍はかかるわね』


 森のど真ん中に取り残されたレノはガックリと肩を落とす。

 最低でも一日野宿は確定である。


「またサバイバル……ですかぁ」


 善意の代償は大きい。

PV不振のため、タイトルがちょくちょく変わります。ご迷惑おかけしてすみません。


【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

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