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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 第一の師・暗殺王セト邂逅編
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第一話 クビ

 世界を滅ぼしえる存在を人々は焔王(えんおう)と呼んだ。


 焔王はこれまで4度、時代の節々に現れ、人類を支配しようとその凶悪な力を振るった。しかし一度たりとも焔王は人類を支配できなかった。焔王が生まれる度、またそれを打ち倒す英雄も生まれたからだ。


 あらゆる武術の使い手、武芸王アラン。

 全ての魔術を極めた魔女、魔導王カラミティ。

 焔王をも暗殺したアサシン、暗殺王セト。

 流星すら撃ち落とすと言われたガンナー、銃王フォックス。


 4人の大英雄は(ほのお)を冠した焔王を倒したことから『焔を消す天からの恵み』である“雨”に例えられ、4人はまとめて《聖天四雨(せいてんしう)》と呼ばれるようになり、現代に至るまで(あが)められている。

 焔王を倒し、世界に平穏を与えた彼らだが、共通して大きな失敗を1つ犯していた。


 それは弟子を取らなかったこと。否、取れなかったこと。


 圧倒的な力を持つ彼らは焔王打倒であったり、焔王に乱された世の再建であったり、人生は多忙を極め、弟子を取る暇がなかったのだ。その技を、知恵を、100%受け継いだ人間はおらず、彼らの叡智や技術は(のち)の世に受け継がれることはなかった。



――はずだった。



 最後の焔王が倒され、100年余りが過ぎた頃、彼らの技術は思わぬ形で復活することになる。



 --- 



 騎士養成所の訓練場。

 土の地面の上、多くの訓練生が教官に教えを請うている。

 その中でも注目を集めていたのはとある訓練生と教官のコンビ。


 片方は銀色の長髪を一本の三つ編みにした少女。

 もう1人は髭を蓄えた体格の大きい男だ。


「クビだ」

「はい……?」


 騎士養成所の訓練を終えた後、銀髪の少女――レノは、教官にクビ宣告を受けた。


「お前のためを思って言おう。お前は騎士を諦めた方がいい」

「なぜですか教官! 理由をお聞かせください!」

「見ろ、あの(まと)を」


 教官が指さすのは矢で射抜く的。的の中心には矢が刺さっている。


「アレは自分が射た矢ですね。見事に的の中心に命中しております!」

「俺たちが使っていた的はその10メートル横にあるやつだがな! ……この3年、熱心に弓を教えてきたのにこの結果は我ながらショックだぜ」

「待ってください教官! 弓はダメでも剣ならば!」

「ルーク! ちょっと来い!」


 教官が呼んだのはレノより3つも下のまだ11歳の少年だ。


「こいつと手合わせしてみろ。ルークに負けたらおとなしく出ていけ」

「舐めないでください教官。ルークはまだここへ来て1か月ですよ? 3年訓練場に通い詰めたボクが負けるはずないじゃないですか」

「え~? 多分、俺の方がレノお姉ちゃんより強いよ」


 鼻をほじりながらルークは言う。レノは「ほう」と眉を吊り上げ、


「いいでしょう! 今日は僕が指導してあげます! かかってきなさい、ルーク!」


 レノとルークは木の剣を構えて立ち会う。


「やー!」


 掛け声と共に襲い掛かるレノ。

 ルークはレノの攻撃を容易く捌き、そして渾身の一撃をレノの腹に打ち込んだ。


「ごほっ!」 


 レノは痛みからその場にうずくまる。


「一本! ルークの勝ちだ」


 背が一回り小さい少年に打ち倒されたレノ。周囲の訓練生は彼女を見下し、笑い声を木霊させる。


「レノ……もうここへは来るな」

「そんな……!」

「なにも剣や弓だけが人の生きる道じゃない。騎士以外の道を見つけろ。女なのだから、もっと相応しい職はいくらでもあるだろう?」


 教官はどこか女性を見下した風に言う。

 レノはキッと視線を尖らせる。


「僕は騎士になりたいのです! あらゆる不平不幸から人々を守る騎士に!」

「剣もダメ、弓もダメ、魔術は使えない。お前を騎士にするには……そうだなぁ、()の英雄、《聖天四雨》でも師にしなければ不可能だ」

「……《聖天四雨》」

「知っているだろう? 歴史の節々で活躍した4人の大英雄さ。もちろん、全員とっくの昔に死んでいるがな」


 レノはその場で膝をつき、頭を下げる。土下座である。


「どうかご容赦を! この養成所を追い出されたら僕に行き場はありません!」

「俺には関係のない話だ」

「もう一度、もう一度チャンスをください!!」

「……わかった。ならばこうしよう」


 根負けした教官は指を2本立てる。


「あと2週間! 2週間以内に不意打ちでもなんでもいい。俺から一本取ってみせろ! そうしたら養成所に残らせてやる!」


 教官は気迫を飛ばしてくる。

 レノは教官の気迫に当てられ、正面から突風を当てられたように吹っ飛んだ。


(そ、そんなの絶対無理です……! ローウェン教官はこの街一番の騎士、不意打ちでも一本取れるわけありません……!)

「話は終わりだ。ま、精々足掻いてみろよ」


 教官――ローウェンはレノに背を向け、去っていく。

 レノは立ち上がり、体についた砂を払う。


『とりあえずここは退()こう。策もなしに一本取れる相手じゃない』

「……そうですね。()()()()()さん」


 レノの背後に居たルークは「アイザック?」と首を傾げる。

 ルークの瞳に、アイザックという人物は映っていない。

 だがレノの隣には確かに、彼はいた。


 腰に剣を携えており鎧を着た、ちょっぴり()()()()()()()()()40歳ほどの男が。

【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

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よろしくお願いいたします。

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