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森を抜けると人と出会いました

森を歩き続けて10分程だろうか。まだ疲労も見えてこないうちに森を抜けた。

「思ってたよりだいぶ早かったな…。」

拍子抜けする私の目の前には大草原が拡がり、舗装こそされていないが道がある。この道がどこに続いているのかはわからないが道なんだからどこかしらには着くだろう。

陽はまだ登っているもののこれからどれだけ歩く事になるのか分からない。休んでいる時間が勿体ないー・・・などと考えていると前方から荷馬車が近付いて来るではないか。



遠目では気付かなかったが思っていたよりも大きめの荷馬車のようだ。近くに来ると妙な迫力がある。

「お姉さん、こんなところで一体何をしているんですか?」

荷馬車が停止し、御者台に座っていた男に声をかけられる。歳は20代前半だろうか。透き通るような金髪に緑の眼、座っているのでハッキリとした身長は分からないが体型は細身でスタイルがよく、全体的に上品な印象を受ける。


「あ…道に迷ったようでして…ここがどこだか分からないんです。」

見た目が日本人ではないのに言葉が通じる事に不思議な感覚を覚えたが今はそれどころではない。とりあえずその疑問は気にしない事にした。


「道に迷ったァ?!こんな所で?!」

突然、大きな声とともに荷台の方から別の男が顔を出した。上半身しか見えないが大きいとわかる程のガタイの良さ。髪は黒…いやよく見ると暗めのシルバーか?

「おい!なんで道に迷ったんだ?」

続けて男は私に問いかけた。


なんで…なんで?なんで道に迷ったかと聞かれると返事がなかなか難しい…。

「あのー…その、なんでかは分からなくて…気付けばここから10分程歩いたくらいの森の中にいました…。」


「「「ハァ?!?!?!」」」


おや、見事に3人の声がハモリましたね。ん?3人?もう1人は一体…?と思っていると

「おねーさん…、ちょっとこっち見てくれますか…?」

という声とともに大男の脇からひょこっと小さい子が現れた。隣の男が大きいからかサイズの差が極端だ。体をすっぽり覆うようなフードを被っているので少ししか見えないが綺麗な金色の眼をしている。こっちを見てくれと言われなくても吸い込まれそうな瞳に目が離せない。

「わぁ…。本当だよこの人。本当に迷子みたい。」

どうやら本当かどうかがわかるらしい。下手な嘘を付かなくて良かった。


「あの、ではお住いはどちらなんですか?」

と御者の男が問いかける。

「えっとー…あの、日本。です。ジャパン。」

「ニホン?のジャパン?どちらも聞いた事がないですね…。」

御者が荷台を振り返ると荷台の2人も首をぶんぶんと横に振っていた。そうか、日本もジャパンも通じないという事はやっぱり異世界なのか。まぁなんか荷馬車のあたりで薄々気付いてたけど。


「では行先はお決まりですか?」

「いえ、ここがどこかも分からないので途方に暮れていたところです。」

私の言っていることが本当か嘘か分かるみたいなので全部正直に話す事にした。


「では、途中までご一緒にいかがですか?」

「おい!!」

「良いじゃないか1人くらい増えたって変わりないだろう?こんなところで置いていくほうが可哀想だよ。」

御者の提案に荷台の男は不服そうな表情をしている。


御者の男はこちらに向き直り、後ろの事は気にしていない様子で発言を続けた。

「僕の名前はカイル・スペンサーです。気軽にカイルとお呼びください。お姉さんのお名前を伺っても?」

「ありがとうございますカイルさん!私の名前はー・・・名前・・・あれ?」

ここに来て気づいたのだが私の名前が思い出せない。以前の生活やその他の事に関しては思い出せるのにも関わらず名前だけがすっぽりと記憶が抜け落ちている。


「名前ー・・・名前が思い出せません。」

私の発言にカイルさんも大男もバッとフードの人を振り返る。

「本当だよ…。」

フードの人の言葉を聞いて大男は口をあんぐり開けて信じられないといった顔をしているし、カイルさんに至っては瞳をウルウルさせている。


「可哀想に…。辛い出来事から記憶喪失になってしまったんですね…。もう大丈夫ですからね…。」

瞳に涙を溜めながら差し伸べられる手。どうやら同情されているようで、慌てて違いますと訂正しても大丈夫、大丈夫とまともに話を取り合ってくれなかった。


とはいえここで人に出会えたのも荷馬車に乗せてもらえたのもラッキーである。

名前を思い出せない事に奇妙な感じを覚えるがこのまま思い出せないのであれば理想の名前を名乗ればいいかなと思っているのでさほど問題では無い。

これは歳先の良いスタートなんじゃないだろうか。

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