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怪しき執事ウルバン②

「つまりアンナはあの新人に口説かれて無理やり壁際まで詰め寄られたんだね?」

「はい……目が合った時に一瞬意識を失いかけて……怖かったです」


 アルベルトはアンナを応接間まで連れて行きウルバンと何があったのかを聞いた。不安そうにするアンナをアルベルトは励ます。


「話はわかった。僕の方からメイド長に伝えておくから。大丈夫、アンナの事は僕が守るからね」


 アルベルトは目を合わせて微笑みながら優しく言った。アンナは好きな人に優しく見つめられる恥ずかしさから頬を赤くして視線をそらす。


「あの、アルベルト様、そんなに私の顔を見つめないでください……恥ずかしいです」

「えっ?どうして?」

「もう!本当に鈍いですね!アルベルト様もセクハラで訴えますよ!!!」

「見つめただけで!?」


 理由もわからないままアンナに怒られたアルベルトは困惑した表情を浮かべた。


「とっ、とりあえずアンナ。ちゃんと後で対処するから安心して。それはそうと少し手伝って欲しい事があるんだ」

「えっ?手伝って欲しい事?」

「うん、今庭の剪定に来てもらってる南の村の神官様と村の人にお菓子を焼こうと思っているんだけど作るのを手伝ってくれないかな?」

「別にそれは構いませんが……」


 アルベルトは話題を変えてアンナにお菓子を焼く手伝いを頼んだ。アンナは突然の頼みに少し戸惑いつつ了承する。


「アンナは得意のジンジャークッキーを焼いてくれないかな。普通は真冬に食べるものだけどアンナのは美味しくて大好きだから皆にも食べて欲しいんだ」

「だっ、大好きだなんてそんな……えへへ」


 アルベルトに得意なお菓子を褒められたアンナはまた頬を赤くしてモジモジする。


「わかりました!私アルベルト様の為に全力でジンジャークッキーを焼きますね!」

「ありがとうアンナ。助かるよ」


 アンナがはりきった様子で返事をするとアルベルトは感謝して微笑んだ。すると応接間のドアがガチャりと開きコック帽を被った中年の男が入ってきた。


「ここにいたんですねアルベルト様、最初にオーブンに入れたマフィンが焼き上がりましたよ」

「あっ、料理長!ありがとうございます」

「いやいや。ところでアルベルト様、応接間にアンナちゃん連れ込んで一体ナニをしていたんですか?」

「えっ?ナニってどう言う意味?」


 料理長と呼ばれた男はアルベルトにニヤニヤしながら意味深な質問をした。


「嫌だなぁアルベルト様。男女が二人きりで部屋の中にいたらする事ですよぅ」

「???」


 質問の意味がわからないアルベルトとは対照的にアンナは意味を察して頬だけではなく顔全体を赤くし大声で料理長に怒鳴った。


「あっ、アルベルト様とそんないかがわしい事していませんから!!!!!!」



★★★



「いつもすみませんね神官様、庭仕事を手伝いに来てもらって」

「いえいえ。庭仕事は私の趣味ですから。それに神に仕える者として人助けをするのは当然です」


 厨房でアンナや料理長の手伝ってもらいお菓子を焼いたアルベルトは、昼になってからアンナと共に屋敷の庭で剪定をしている南村から来た神官や村人の男達二人へお菓子と紅茶を届けた。


「私の方こそ庭仕事の度にお菓子を作ってもらい申し訳ないですよ。無償の奉仕としてやらせて頂いてますのに」


 神官が庭の一角にある東屋に村人達と座りながら申し訳なさそうに言った。


「いえいえ、本当は父上がちゃんと新しい庭師さんを雇っていれば皆さんに余計な仕事をさせずに済むんですけど」

「いやいや余計な仕事じゃねぇだよ。おら達も神官様と同じで好きで庭仕事やってんだ。それにアルベルト様のお菓子も食べられるだしな」

「んだんだ。だから気にしなくて良いだ」


 神官と一緒に庭仕事に来た村人達は修道士に対し逆に申し訳なさそうにするアルベルトをお菓子を食べて笑いながら励ました。ベルンシュタイン家にも他の貴族宅と同じく庭師がいたのだが高齢で辞めた後はフランクが後任探しを面倒くさがり雇わなかった。それで一時荒れ放題になった為現在は南の村から庭仕事が得意な神官と村人達がボランティアで庭の維持管理をしている。


「しっかしこのジンジャークッキーうめぇだな!これもアルベルト様が作っただか?」

「あぁいえ、これは僕の隣にいるメイドのアンナが作ったものなんです」


 アルベルトは横に立つアンナを村人達に紹介した。自分の作ったジンジャークッキーを褒められたアンナは少し恥ずかしそうに頬を染める。


「ほぅーそのめんこいメイドさんが作っただか!本当に美味しいだよ!」

「ふふふ、褒めていただけて嬉しいです。私が一番得意なお菓子なので……」

「アンナさん嫁にする男は幸せだ!こんな美味いお菓子が食べられるだからな!」

「えっ!?」

「んだ!アンナちゃん最高の嫁さなれるだよ!」


 村人達にそう茶化されたアンナは目を大きく開き顔全体を赤くした。


「もう!お二人ともからかわないでください!私は別にアルベルト様となんか……あっ!!!」


 アンナは村人達に怒ったがその際うっかりアルベルトの名前を出してしまい咄嗟に口を塞いだ。それを聞いて色々察した村人達はニヤニヤしながら再びアンナを茶化す。


「ほほぅそう言う事だか。おら理解しただよ」

「おでもだよ。身分が違ぇから大変だけどおでは応援するだ」

「なっ…なっ…」

「こらこらあまり人をからかうものじゃありませんよ」


 村人達の言葉にアンナはますます赤くなり顔から湯気を出す。神官が村人達を嗜めたがアンナは恥ずかしさが限界に達していた。


「どうしたのアンナ?顔赤いけど……?」


 アンナの顔を見た色恋に鈍いアルベルトは首を傾げながら尋ねた。するとアンナは


「な、な、何でもないですぅ!!!!!!」


 と大声を出しながらアルベルトを両手で突き飛ばした。アルベルトはよろめきもう少しでバラの茂みに背中から突っ込みそうになった。


「うわぁ!!!」

「危ねぇだアルベルト様!!!」


 村人の一人がそう叫んだ瞬間麦わら帽子を被ったメガネの老人が現れてアルベルトを背中から支えた。


「大丈夫かねアルベルト君」

「えっ、えぇ」

「ヨゼフさん!ごめんなさい私ったら!!!」


 老人の正体はヨゼフに変装したヴェンツェルだった。気づいたアンナは慌てた様子で謝罪する。


「ありがとうございますヨゼフさん。助かりました」

「いやいや。しかしアンナ殿、何があったか知らんが自分の主人を突き飛ばすものじゃないぞい」


 アルベルトはもう少しで倒れそうになったところを支えてくれたヴェンツェルに感謝の言葉をかけた。ヴェンツェルはアンナに対し冷静な話し方で注意を促す。


「うぅ申し訳ないです……」


 アンナは自分がしてしまった事に後悔ししょんぼりして涙目になる。アルベルトはそんなアンナに近づいて優しく気遣った。


「大丈夫だよアンナ。怪我もしていないし反省しているならこれ以上責めないさ。少し休憩をして気を落ち着かせてきなよ」

「本当にごめんなさいアルベルト様……言う通りにします」


 アンナはすっかり落ち込んだ様子でそう反省の言葉を残しその場を離れた。


「いやはや危なかったなアルベルト君。しかし待ち合わせ場所の研究室に行ってもいなかったからどこに行ったのかと思って探したぞい」

「すみませんねヨゼフさん。今日は南の村から神官様と村の人達が庭仕事に来ていたのでお礼の焼き菓子を作っていた関係で研究室に行けなくなってしまいました」


 アルベルトは少し心配そうにしているヴェンツェルに約束の時間に研究室へ行けなかった訳を説明した。


「君はワシとの約束に遅れたり忘れたりが少し多すぎる。もう少し気をつけてくれんか」

「毎度毎度すみません。アンナだけじゃなくて僕まで怒られちゃいましたね」


 遅刻癖をヴェンツェルに叱られたアルベルトは右手で頭を掻く仕草をして恥ずかしそうに反省する。その時ずっと二人の様子を見ていた神官が尋ねた。


「あのアルベルト様、さっきからお話しをしているその方は一体どなたでしょう?」

「あぁ神官様、この方はヨゼフさんという方で僕の研究室前にある畑仕事を手伝ってくれている農民のお爺さんです!」

「これは紹介が遅れましたな。ワシはヨゼフという者じゃ。以後よろしく頼む」


 ヴェンツェルは麦わら帽子を脱ぎヨゼフとして神官に挨拶をした。


「アルベルト様のお手伝いさんだか!何だか品のある爺様だな。農民には見えねぇべ」

「んだんだ。肌も白いしまるで貴族様みてぇだ」


 ヴェンツェルは村人達に一目で農民ではないと見抜かれた上貴族である事を当てられ動揺しドキッとした。


「ん?まっ、まぁよく言われるのぅ。それよりアルベルト君、研究室の畑でアイスモーリュの花が咲いたのじゃろう?早く見に行こうじゃないか」

「えっ、えぇ。それでは皆さん僕はヨゼフさんと裏の研究室に行ってきますのでこれで失礼しますね」


 アルベルトははぐらかすように研究室の畑へ行こうと急かすヴェンツェルと共に神官と村人達に挨拶をして東屋を離れた。ヴェンツェルはアルベルトに対し歩きながら聞いた。


「なぁアルベルト君。ワシそんな農民に見えないかのぅ。前も北の村の者に指摘されたが……」

「まぁヨゼフさんみたいに肌が白くてメガネをかけてる農夫さんはいませんね」

「言われてみれば確かに……ワシ結構変装を頑張っておったつもりじゃったが」


 ヴェンツェルは変装が自分の思っていたほど上手く出来ていなかった事に内心少しショックを受けたのだった。


「はぁ……変な新人に口説かれたり南村の人達にからかわれたり。私今日は厄日だわ」


 一方その頃アンナは屋敷に戻りそうため息混じりに呟きながらトボトボと廊下を歩いていた。すると廊下の向こうから背の高い黒髪メガネのメイドがやってきてアンナに近づいてくる。屋敷のメイド長だ。


「あらアンナさん。少し良いかしら?」

「メイド長!一体どうされたのですか?」

「いえね、アルベルト様のご友人様のヨゼフ様の事だけれどいつ屋敷にお越しになるかしら?」

「えっ?メイド長はなぜヨゼフさんの事をお聞きしたいのですか?」


 アンナはメイド長から突然ヴェンツェルの事を聞かれて不思議そうな表情をする。しかし実はこの時既にメイド長はウルバンの(特殊魔力)の餌食になっていた事をアンナは知らなかった。

(お知らせ)

特に無し

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