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我儘女王の誘い①

「父上、陛下はベルンシュタイン家にどのような処罰を下されたのですか……?」


 謹慎から一週間後の朝、玄関でアデリーナから話を聞いた後神妙な面持ちで応接間に入ってきたフランクにエルンストは気になり訪ねた。


「処罰については何も言われなかった。ただ陛下がアルベルトにすぐ王宮まで来いと」

「え!陛下がアルベルトを!?」


 アルベルトが呼び出しを受けるという予想外の展開にエルンストは驚き目を見張る。


「何故陛下がアルベルトを呼んでいるのですか?」

「そんなのワシが知るか!だがアデリーナの話だと陛下はどうもアルベルトに興味をもっているらしい。全く何であんなバカ息子を陛下は……」


 フランクは訳がわからず腕を組んで首を傾げる。エルンストは顎に手を当て少し考えて呟いた。


「まさか陛下は決闘の罪を許す代わりにアルベルトを一生王宮で下働きさせる……とかでは無いですよね?」

「とにかくアルベルトをすぐ王宮まで連れて行かなきゃならん!おいエルンスト、アルベルトはどこにいる!」

「アルベルトはまだ自分の部屋で寝ていると思います」

「何ぃ!?じゃあまだ着替えてすらいないのか!あのバカ息子め叩き起こしてやる!」


 フランクは走って屋敷の二階に上がりアルベルトの部屋の前まで来た。そして部屋のドアをドンドンと激しく叩きアルベルトを起こす。


「起きろこのバカ息子ぉ!!!すぐ起きて四十秒で支度しろぉ!!!」


 フランクの怒号に布団で寝ていたアルベルトは飛び起きパジャマのままドアを開けフランクに言った。


「何ですか父上。まだ朝の五時ですよ……」

「陛下がお前を呼んでいるんだ!すぐに着替えて下に降りてこい!!!」

「えぇ!?陛下が僕を!一体何故!?」

「知るかぁ!いいから早く着替えんかぁ!!!」

「はっ!はいぃ!!!」


 寝ぼけていたアルベルトはフランクの大声により強制的に目覚めさせられドタバタと支度を始めるがその時机に体をぶつけ標本箱を落としてしまった。


「あぁ!フソウオオムラサキの標本が!」

「なっ!?お前研究室から標本を屋敷に持ってきたのか!」

「あっ!その……屋敷から出ては行けないとは分かっていたのですが恋しくなってつい……あはは……」


 アルベルトは屋敷から出た事がバレ苦笑いで誤魔化す。フランクは舞踏会の時のように怒りで体を震わせ雷を落とした。


「屋敷に蝶の死骸を持ち込むな大バカ息子がああぁぁぁ!!!!!!」


 やがてアルベルトが準備を済ませて屋敷の外に出るとアデリーナが馬車近くで待機していた。門まで見送りに来たフランクはアルベルトの両肩を掴みながら強い口調で言った。


「いいかアルベルト!何故お前が陛下に呼ばれたかは全く分からんが決して陛下の機嫌を損ねるような事はするなよ!もし無礼を働き逆鱗に触れたらワシらは……」


 フランクはギロチンにかけられる自分達一家の姿を想像して青くなる。一方エルンストはアルベルトの両手を握り不安そうに言った。


「アルベルト、お兄ちゃんは何があってもお前の味方だからな!万一何かあれば陛下が相手でも守ってみせるぞ!」

「気持ちは嬉しいですが陛下と決闘するような事はやめてくださいね」


 エルンストの発言にアルベルトは本気で心配になった。やがてアルベルトは屋敷の皆に見送られ馬車で王都へ向かった。


「アルベルト、待っておったぞ」


 王宮に到着したアルベルトは早速謁見室へ通されマルガレーテに謁見した。アルベルトは挨拶をすると早速気になっていた事を質問する。


「女王陛下、僕を王宮へ呼んだのは何故ですか?兄上や僕への処罰の件はどうなったのでしょうか」

「アルベルト様、許可無く陛下に話しかけてはなりません」

「良い良いアデリーナ、気になるであろうから教えてやる。まず処罰についてだが二万グローネの罰金刑とする事に決めた。陸軍大臣の処罰はもう少し重くなるが失職まではせぬ」

「えっ!その程度の罰金で済むのですか!?」


 取り返しのつかない騒ぎを起こした自分やエルンストが軽い刑罰になると聞いたアルベルトは信じられず目を見張った。マルガレーテは口角を上げ微笑みながら話を続ける。


「本来ならベルンシュタイン家は爵位降格か領地没収になってもおかしくないがそなたはヴェンツェルの大切な友人であるし脱走した余の猟犬達を保護した。それに免じて減刑してやる。ただし!今日一日そなたが余の趣味に付き合うのが条件じゃ。森で初めて会った時余はそなたの趣味に付き合ってやったのだからな」

「陛下の趣味に付き合う……ですか?」

「これは王命じゃ。断ればどうなるか分かるな?」


 マルガレーテは悪役のような悪い笑みを浮かべてアルベルトに圧をかけるとアルベルトは萎縮し了承した。


「わっ、分かりました!それで趣味に付き合うと言われましたが何をするんですか?狩猟ですか?」

「今は夏じゃ。狩猟シーズンではない。それ故他の趣味に付き合ってもらう。まずは乗馬じゃな」

「乗馬……ですか」


 アルベルトは経験の無い狩猟ではない事にはホッとしたが乗馬と聞いてまた不安げな表情をした。


「何じゃ?そなたも馬ぐらい乗れる筈じゃろ?」

「恐れながら陛下、僕馬には乗れません」

「はぁ?そなた貴族であろう!なのに乗馬が出来ぬとはどう言う事じゃ!」

「その……僕は馬では無くロバにしか乗れないんです。普段それで領内を見回っています」

「ろっ、ロバぁ???」


馬では無くロバに乗ると聞いてマルガレーテはポカンとした表情で固まった。アデリーナも驚いた様子だったがアルベルトにその理由を問う。


「ロバというと平民が乗るものですが何故アルベルト様はロバに乗るのですか?」

「単純に背が低く馬に乗り辛いのもありますが貴族だからと立派な馬に乗ると領民の皆さんが萎縮して親しみを持ってもらえません。僕は領民の皆さんに気軽に声をかけて欲しいですし子供達には蝶や蛾の採集に気兼ねなく誘って貰い一緒に楽しみたいのです。ですから領民と同じロバに乗っているんです」


アルベルトがロバに乗る理由を聞いたマルガレーテはやがて口に手を当てプルプルと小さく笑い始める。やがて大声で豪快に笑った。


「アーッハッハッハッハ!!!貴族としてのステータスに拘らぬばかりかロバに乗る理由の一つが蝶や蛾絡みとはな!そなた本当に奇妙な男じゃのう!アッハッハッハ!!!」


 おかしさのあまりマルガレーテはお腹を抑えゲラゲラと笑い続ける。冷静なアデリーナは笑いすぎる主君に注意をした。


「陛下、そんな大口を開けて笑ったらはしたないですよ」

「いやぁすまんすまん。アルベルトよ、乗馬が苦手なのは分かったがそれでも付き合ってもらうぞ。これは王命じゃ。逆らえばどうなるか分かるな?」


 マルガレーテはニヤリとしてアルベルトを見つめた。ぽかんとマルガレーテが笑う様子を見ていたアルベルトは緊張した顔に戻り高速で首を縦に振った。


「よし決まったな。まずは乗馬じゃ!アデリーナ、アルベルトに乗馬服を用意せよ」

「かしこまりました。アルベルト様どうぞこちらへ」


 アデリーナに案内され乗馬服に着替えるためアルベルトは謁見室を出た。マルガレーテもアルベルトが出た後自室へ着替えに行く為玉座から立った。



★★★



「すみませんアデリーナさん、乗馬服を貸していただいて……」

「いえ、でもアルベルト様にピッタリ合うサイズがあって良かったです。アルベルト様は男性ながら小柄で細身ですからね」


 乗馬服に着替えたアルベルトと軍服のアデリーナは王都近郊にある放牧場の厩舎の近くで先に待機していた。しばらくすると兵士達を連れたマルガレーテが前に狩猟に来た時と同じ金のボタンと襟がついた赤い軍服を着て厩舎へとやって来た。艶やかな黒髪を後ろに纏めたスタイル抜群のマルガレーテにアルベルトは目を奪われる。


「待たせたなアルベルト……ん?何を惚けておる?」

「いえっ!何でも無いです!」

「そうか。共に乗る馬を見に行くぞ。余について参れ」

「はっ、はい!」

(さて、トレーニングの為放牧場に預けてあったバルカス号に久々に会うな。厩舎で大人しくしておれば良いが……何せあやつは……)


 見とれていたアルベルトは我にかえりマルガレーテと厩舎の中へ入ろうとした。だがその時突然厩舎の隣にある馬用の運動場から人の悲鳴と共に馬の足音が聞こえてきた。アルベルトとマルガレーテ達が声や音の聞こえた方を見ると大きな白い馬が息荒く目を血走らせながら走って近づいて来た。


「なっ、バルカス号!何故厩舎ではなく外におる!!!」


 マルガレーテが突然の白馬バルカス号襲来に驚く。バルカス号を止めようと兵士達が動くがバルカス号はものすごい速さで進みアルベルトの目の前まで迫った。


「うわぁ!!!」

「アルベルト様!!!危ない!!!」


 アデリーナは腰のベルトに差したスティレットを取り構えた。だがその時バルカス号はアルベルトの前で急停止して静かになった。アデリーナと兵士達は突然大人しくなったバルカス号を見たまま固まる。バルカス号は立ちすくむアルベルトを見つめると鼻先をアルベルトの頬に近づけて目を細め摺り寄せ甘える仕草をした。


「あはっ、あはは、くすぐったいよ!」

「バルカス号が……甘えている」

「信じられぬ……バルカス号は凶暴な気性難の馬じゃ。気に入らぬ厩務員の指を噛みちぎり踏み殺そうとした事さえあるんじゃぞ!」

「血統書付きの軍馬ですからね…… 陛下のメイドである私さえ以前本気で蹴られそうになりました」

「余以外に決して甘えたりせぬはずだが何故初対面のアルベルトに……!」


 アルベルトに甘えるバルカス号の姿にアデリーナとマルガレーテは目を疑った。アルベルトもバルカス号が自分を襲わない事が分かると首すじを優しく撫でて笑った。


「あはは、君は綺麗な白い毛だね。毛並みも柔らかい。あはははは!」


 バルカス号はアルベルトの声に応えるようにブルルッと鼻息を鳴らす。すると運動場の方から厩舎で働く調教師の男達が真っ青な顔で走って来てマルガレーテの前に来て土下座で謝罪した。


「女王陛下申し訳ありません!!!不注意で陛下の愛馬を脱走させてしまいました!どうかお許しください!!!」

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