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蝶好き令息の肉体改造④

「何!?貴族のガキを誘拐してきただと!?」

「そうさ、アタシ好みの可愛い坊やだったからねぇ。金品と一緒に後ろを走る馬車に詰めてあるさ」


 マルガレーテが陸軍基地を出てから少し経った頃、列車強盗を終え北西にある荒野を馬に跨って逃走中の強盗団ヴェスピナに同じく馬に乗ったゲオルクが合流した。団長ゲルダからアルベルトを誘拐した話を聞いたゲオルクは驚いた声を上げる。


「俺は金品だけ奪ったらすぐ逃げろと指示しただろうが!計画にねぇ事勝手にするんじゃねぇよ!」

「アタシらは好きな物を自由に奪うのさ!よそ者に指図される言われは無いね!」

「何だと!?クソッ、なんて身勝手な連中だ!」


 ゲオルクは計画を無視したゲルダに苦々しい顔で悪態をつく。その時進行方向にある小高い丘の怪しい影を手下の一人が発見した。


「ママ!向こうの丘に誰かいるよ!」

「何だって?誰だいあの馬に乗った奴は?」


 手下に言われゲルダも丘の上を凝視すると馬に乗る何者かの影を確認した。ゲオルクも気がつき正体に驚愕した。


「なっ!?あれはマルガレーテじゃねぇか!」

「えっ!?マルガレーテってあの女王様のかい!?」


 影の正体は荒野を先回りして盗賊達を待ち構えていた女王マルガレーテと愛馬バルカス号であった。マルガレーテは盗賊達に気がつくとバルカス号を動かし丘から降りて馬を止めた盗賊達と距離を取りつつ対峙する。


「ほっ、本当に女王様じゃないかい!?王都のお城にいる筈だろ!?」

「貴様らが強盗団ヴェスピナか。余の事を知っておるなら話は早い。直ちに降伏し列車から盗んだ盗品と捕らえておる伯爵令息を解放せよ。これは王命じゃ!」


 マルガレーテは目の奥に怒りの炎を燃やし鬼の形相で盗賊団やゲオルクを睨む。だが手下の男達はマルガレーテの表情よりその美しさに心奪われていた。


「うわっ!俺女王様初めて見たけどすっげぇ美人!」

「本当だぁ、ママより美人かm……ほげえぇぇぇ!!!」

「余計なお世話だよ馬鹿たれ!」

「酷いよママ!朝セットした俺の髪がぁ……」

「残念だけど降伏する訳にはいかないね女王様!盗みはアタシらの商売なんでねぇ」


 ゲルダは失礼な事を口走った部下の頭髪を魔力で燃やしつつ王命を拒否した。


「なら止む終えまい……そなたら全員余が制圧するまでじゃ!」


 マルガレーテは降伏の意思なしと知るや馬上で腰の魔剣を抜き単身で盗賊の制圧を決意する。ゲルダはそれを聞き嘲笑した。


「ンハハハハ!!!何だって?アタシらを制圧?笑わせるねぇ!こっちは五十人でアンタは一人だ!出来る訳無いだろ!」

「おっ、おいゲルダ!あの女はS級魔力保持者だぞ!舐めてかかるな!」

「それが何だってんだい!少しばかし魔力が強くてもアンタとアタシに加えて武装した大勢の野郎相手に女一人が適う訳無いだろう?」

「ママの言う通りだ!美人の女王様だからって手加減して貰えると思うなよ!」


 ゲオルクは舐めた態度のゲルダに忠告する女王の強さを知らないゲルダは一蹴し手下の男も同調する。


「ママ!ここは俺達が先陣を切るよ!数の力を思い知らせてやるんだ!」

「ンハハハ!構わないさ!どの道邪魔するなら倒すしか無いからねぇ!やっちまいなお前達!!!」

「「「おぅ!!!」」」


 ゲルダの許可を得て手下の男達は各々手に剣や斧や拳銃などの武器を持ち集団で馬を走らせ襲い掛かった。しかしマルガレーテはバルカス号を動かさず静かに佇んでいた。


「なんで馬を走らせないんだ女王様!怖気づいたのk……っ!!!」


 手下達は馬を動かさないマルガレーテに一斉に攻撃を仕掛けようとした。だがその時マルガレーテは目を見開き瞳を光らせ周囲に青紫の波動のようなものを放出した。途端にマルガレーテに近づいた手下や馬達は一斉に泡を吹き倒れてしまった。更に少し離れたところにいたゲルダやゲオルク、その背後で幌馬車を守る手下達も空気の振動を感じたと同時に馬共々気を失いかけたがどうにか持ちこたえる。


「ぐっ、一体何なんだい今の体に受けた重い感覚は……!?どっ、どうしてアタシの子分共が倒れているんだい!」

「まっ、魔力波攻撃だ!強力な光魔力をエネルギー波として放出し近づいた奴らにショックを与えたんだ!S級の光魔力保持者だから出来る芸当だ」


 マルガレーテに向かって行き倒れた馬や部下達に動揺するゲルダにゲオルクは理由を解説した。


「どう言う事だい!意味が分からないよ!?」

「要するにお前の部下達は魔力の衝撃波に耐えきれず気絶したんだ!まずい!こっちに来るぞ!」


 手下達を片付けたマルガレーテはいよいよバルカス号を動かしゲルダ達のいる方へ走り出した。ゲルダは慌てて腰の魔剣を抜き先をマルガレーテに向け火の塊を連射する。


「畜生っ!この火の塊でも喰らってな女王様!!!」


 しかしマルガレーテは次々飛んでくる火の塊を回避し突き進む。続いてゲオルクが魔法の杖を使いマルガレーテの進行方向に五メートル級の巨大なゴーレムを二体出現させた。


「このまま易々と馬車に接近させるかってんだ!叩き潰せ!」


 ゲオルクの指示と共にゴーレム達はマルガレーテとバルカス号に巨大な土と石で出来た拳を振り下ろす。しかし間一髪で避けたマルガレーテは後退した上で魔剣の先から魔法陣を出し技を叫ぶと共に光弾を二発放つ。


大火球メテオリーテス!」


 光弾を受けたゴーレム二体は共に爆発しあっさり崩壊した。ゴーレムの残骸を飛び越しマルガレーテは再びゲルダ達に向かってゆく。


「二体のゴーレムが一瞬で!?クソッ!本気のマルガレーテ相手じゃ流石に分が悪すぎる!」

「なっ!?ちょっとゲオルク!どこへ行くつもりだい!」

「俺は先に失礼させてもらうぜ!ここで共倒れになるのはごめんだからな!」

「なっ!?アンタ何を勝手な事を……っ!!!」


 ゲオルクはゴーレムをあっさり破壊され分が悪いと察した為馬を方向転換し逃亡した。身勝手なゲオルクを罵倒しようとしたゲルダだがマルガレーテが迫りそれどころではなくなった。マルガレーテはよそ見したゲルダの首を狙い魔剣で突きを繰り出す。


「ひえっ!!!あっ、危うく首を斬られるところだよ!」

「大人しく降伏せねばこのまま首を刎ねるぞ!」

「降伏したってどうせ絞首刑じゃないか!捕まる訳にはいかないね!せいっ!やぁっ!」


 ゲルダはマルガレーテの突きを辛うじて回避すると馬上で剣同士をぶつけ合う。剣術の訓練を受けたマルガレーテを相手にゲルダは片目だけというハンデがありながらもどうにか戦っている。そんなゲルダを援護しようと残っていた手下達が銃を構え幌馬車の陰に隠れた。


「おい!間違えてママを撃つんじゃねぇぞ!女王を狙うんだ!」

「分かってるよ!よーし撃つぞ!撃つからな!」


 銃を持った手下はマルガレーテの頭部によく狙いを定め引き金を引こうとした。ところがその時急に他の手下が狙撃を中止した。


「待て撃つな!何だこの地響きとラッパの音は……なっ!?あれは警官隊!」

「陸軍の兵隊もいるぞ!もの凄い数だ!」


 地響きと謎のラッパの音の正体は盗賊とマルガレーテを追いかけて来た警官隊と陸軍の騎兵隊であった。先陣を切って進んでいたヴェンツェルが幌馬車を発見すると背後の隊員や兵士に大声で呼びかけた。


「前方に強盗団の馬車を発見したぞい!皆の者!奪われた金品と人質の確保と同時に盗賊らの捕縛にも全力を尽くすんじゃ!」

「「「ははぁ!!!」」」

「ヤバい!このままだと俺たちゃ捕まっちまうぞ!ママに逃げるよう言わなきゃ!」


 迫りくる大勢の警官隊と騎兵隊に恐れをなした手下達は幌馬車に繋いでいた馬を外して跨り逃亡を図る事にした。そして手下の一人がマルガレーテとゲルダが乗る馬の足元に火をつけた発煙筒を複数投げつける。


「なっ!?ゴホッ、ゴホッ、この煙は発煙筒か!?」

「ゴホッ!目が痛いじゃないか!一体何のつもりだい!」

「ママ!警官隊と兵隊がこっちに向かって来てるよ!」

「何だって!?」

「馬車は諦めて逃げないと全員お縄にされちまうよ!煙が立ってるうちに逃げて!」

「クソッ!金品と可愛い坊やは惜しいがお巡りが来たとなれば逃げるしか無いね!」


 発煙筒から出た煙に戦っていた二人が咳き込む中手下達はゲルダに警察と陸軍が迫っている事を知らせ逃げる事を提案する。ゲルダは不服ながらも提案を受け入れ煙が広がっているうちに逃走を決意した。


「おい待て貴様ら!逃がさぬぞ!」

「生憎だがおさらばさ女王様!!!最後に列車から奪った金品と人質はその幌馬車の中さ!!!人質が無事かどうか一旦確認した方が良いだろうねぇ!!!」

「何じゃと!?」

「ママ!女王に倒された仲間はどうするの!?」

「置いていくしかないだろ!檻から助け出す手筈はまた考えるさ!」


 煙が風で流され視野が回復するとマルガレーテは遠くへ逃げていくゲルダ達を追いかけようとする。しかしゲルダの最後の言葉に動揺しマルガレーテはアルベルトの安否確認を優先した。バルカス号を降り幌馬車の中を確認すると盗品が包まれた複数の麻袋と共にアルベルトが手足に枷を嵌められ体も縛られ横たわっていた。


「アルベルト!!!そなた無事か!?意識はあるか!?」

「んんっ!んん~っ!!!」

「口に布を噛ませられておるのか!待っておれ!すぐ外してやる!」


 マルガレーテは口に噛まされた布を外し苦しそうなアルベルトを楽にしてあげた。


「へっ、陛下……どうしてここに?」

「どうしてでは無いぞアルベルト!!!貴様また誘拐されおって!どれだけ余を心配させたら気が済むのじゃ!」


 布を外して貰い喋れるようになったアルベルトだが直後にマルガレーテから怒鳴られ誘拐されてしまった事を謝罪した。


「ごっ、ごめんなさい陛下!僕また陛下を心配させ……むぐっ!?」

「良かった……!無事で本当に良かった……!」


 マルガレーテは怒りの形相から一転して好きな男の無事に安堵した表情となり勢いのままアルベルトを抱きしめた。強い腕力により豊満な胸が顔を覆った事でアルベルトは息苦しそうにした。


「くっ、苦じいでずへいが!はなじてぐださい!」

「あっ!?すっすまぬアルベルト!その……きっ、気が高ぶり過ぎてついな……」


 苦し気にするアルベルトの声にマルガレーテは冷静になり両腕を離した後抱きしめてしまった事を恥じて初々しい乙女のように顔を赤くしもじもじした。間もなく警官隊と騎兵隊が到着しヴェンツェルの指揮の元気絶した盗賊の手下の身柄確保と幌馬車に積まれた盗品の確認などを行ったのであった。



★★★



「成る程、ゴーレムを召喚したのは王弟派のゲオルクだったのじゃな」

「はっ!どうやら今回の列車強盗はゲオルクがヴェスピナの女首領ゲルダと協力関係を結び計画したようです!目を覚ました手下の一人から証言から確認がとれました!」

「恐らく王弟派の再編を目的とした資金集めが目的だったのでしょう。死者が出なかったのが何よりの救いですぞい」


 警官隊が盗賊達を連行し騎兵隊が逃げたゲルダ達の追跡を話し合う中、マルガレーテとヴェンツェルは列車強盗事件の詳細について警官隊員から報告を聞いていた。


「全く油断も隙も無い連中じゃ。王国の治安の為一刻も早く捕まえねばな……それはそうとヴェンツェル、アルベルトはどこに行ったのじゃ?」

「そう言えばおりませんな。先ほど体の縄と手足の枷を外したのですが……」

「アルベルト様でしたらあちらの石に座っておられます。帝国来訪時に続きまた誘拐された事で落ち込んでおられるようです」

「「……」」


 アデリーナが指し示した先にいたアルベルトは普段の明るい表情とは真逆の暗い表情で地面を見つめ俯いている。バルカス号が傍に座り顔を摺り寄せ気持ちを和らげてあげようとするが中々立ち直れない様子であった。見かねたヴェンツェルは励ましてあげようと傍まで歩み寄った。


「アルベルト君、少しだけ良いかね?」

「えっ?はいヨゼ……いえ宰相閣下!」

「ヨゼフで良いぞい。君は今きっとこう思っておるのじゃろう?(折角体を鍛えていたのにまた誘拐されてしまう自分は何と無力なのか)と」

「うっ……そうですヨゼフさん。僕が弱いばかりにヨゼフさんにも……皆さんにも迷惑ばかりかけて嫌になります……陛下にも怒られてしまって……グズッ」


 アルベルトは心中を言い当てたヴェンツェルに本音を吐露し涙目になる。そんな傷心気味の若き友人にヴェンツェルは自身の考えを述べた。


「アルベルト君、ワシは思うのじゃが魔力が強いとか筋肉があるとかそうした表面的なものだけが人間の強さの全てとは限らんのでは無いかね?」

「えっ?」

「君は確かに魔力も肉体も弱く剣も才能があるとは言えん。じゃが君は悩める者に寄り添う優しさと人の罪を許してあげられる寛容さと曲がった事を嫌う正義感がある。じゃからこそワシも陛下も他の皆も君を大切にしたいと思うし君が危ない時には今日のように全力で助け出そうとする。あらゆる立場の者を味方につけられる君の人間性もまた強さと言えるのではなかろうかの」

「僕の人間性が強さ……?考えた事無かったです」

「うむ、つまり君は既にワシらとは違う強さを持っておるんじゃ。弱くなんか無いぞい」


 ヴェンツェルの持論がアルベルトには考えつかない事だったらしく驚いた様子だった。更にマルガレーテも後ろから更なる励ましの言葉を掛ける。


「ヴェンツェルの申す通りじゃアルベルト。だからもうクヨクヨするでない。元気を出せ」

「勿論肉体も鍛えたい、剣も上手くなりたいと思うのであれば鍛錬を継続すれば良いしワシも協力しよう。じゃがあまりそればかりに囚われんで欲しいぞい。君と蝶や蛾の事を話す時間が取れないのは寂しいからのぉ」

「陛下……ヨゼフさん……ありがとうございます。僕を気遣って下さって。あはは」


 二人からの温かい言葉にアルベルトは涙を拭き笑顔を取り戻した。ヴェンツェルもマルガレーテも安心したように微笑み安堵する。


「さて、警官隊は君に攫われた時の事を聞きたがっておる。その聴取が済み次第伯爵邸へ送ろう」

「重ね重ねありがとうございます。それにしても何だか例の変な夢を思い出しましたよ」

「ん?変な夢とは?」

「ほら例のフソウオオムラサキのですよ。今思えばあれは陛下が助けに来て下さる予知夢だったのかも知れませんね。あはは」


 アルベルトは今日の出来事を以前見た奇妙なフソウオオムラサキの夢と重ね合わせた。ヴェンツェルは思い出すのに時間がかかり一瞬ポカンとしたが理解した瞬間アルベルト同様に笑いだした。


「おぉ!そう言えばそうじゃな!いやぁ奇妙な事もあるもんじゃ!ハッハッハ!」

「何じゃそなたら?一体何の話をしておる?」


 夢の事を知らないマルガレーテだけは二人の話が理解出来ず首を傾げる。こうしてアルベルトはフソウオオムラサキの如き最強の女王により無事保護され聴取後帰路についたのであった。

(お知らせ)

内容に悩んだ結果予定より三日ほど遅れての投稿となりました。蝶好き令息の肉体改造はこれで終わりです。

・内容変更:主人公などの年齢を変更しました。

アルベルト→21から18に

エルンスト→24から22に

またフランクの失脚も五年前から三年前に変更しました。


・次回投稿予定:2月12日

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