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【6-1】メイドのアリバイ

【メイドのアリバイ】


「それでは、パーティーが終わってから大富豪さんの遺体が見つかるまでの約一時間、

何処で何をしていたか教えていただけますか?」


メイドのアリバイを確認するため、私と医者は彼女の部屋を訪れた。


「私はずっと一階にいました。・・・あの、どうして私からなんでしょうか?

もしかして、私が大富豪さんを殺したとお考えなのですか?」

 

メイドは不安そうに私に尋ねた。


「たしかにあなたの事も疑ってはいますが、私が疑っているのはあなただけではありません。

犯人の手掛かりが全く無い今、私はこの別荘にいる全員を疑っています。

もちろん、私自身を除いてですが。

メイドさんからまず初めに話を聞こうと思ったのは、単なる部屋順ですよ」


別荘の二階にはふわふわのカーペットが全面に敷かれており、

中央の通路を挟んで左右対称に五つずつ部屋があった。


一階と二階をつないでいる中央の階段を上がり、左側の一番奥から、

《弁護士》

《俳優》

《女優》

《記者》

《医者》

右側の一番奥から、

《パティシエ》

《小説家》

《名探偵》

《メイド》

《大富豪》

という順番で客室が割り振られていた。


「べつに聴取の順番は誰からでもよかったんです。

どうせ皆さん全員に話を聞くことになると思うので。

なので、四隅の誰かの部屋から順番に周ることにしようと思ったんです。

弁護士さん、医者さん、パティシエさん、亡くなっている大富豪さんには当然話が聞けないのでメイドさんの四名のうち誰から一番初めに話を聞こうかと考えた時、医者さんはこの通り私の聴取のお手伝いをしていただいているので除外しました。

残りの三名の誰からでも良かったのですが、やはりここは第一発見者でもあるメイドさんからにしようかと思いまして。

なので、聴取の順番に意味は全くありません」


ここまで丁寧に説明する必要も無いと思ったが、自分が犯人だと疑われているという勘違いのせいで彼女から有力な情報を聞き出せなくなる可能性を恐れた私は、聴取の順番を決めた経緯について詳しく話した。


「では、私のことを疑っているわけではないのですね?」


「先程も言いましたように、当然あなたの事も疑っています。

と同時に、あなたは大富豪さんのことを殺してはいないとも思っています。

あなたを疑うための証拠も無ければ、あなたが大富豪さんを殺していないという証拠も無い。

私はあなたが大富豪さんを殺していないという証拠を掴むために、あなたに話を聞きに来たのです。

それで、あなたは一階で何をされていたんですか?」


彼女はパーティーが終わった後もずっと一階にいた。


パーティーが終わった午前零時から午前零時半までの三十分間、彼女は大広間の後片付けをするために、一階の大広間とキッチンを何度も行き来していた。


空っぽになったワイングラスや食器をキッチンへ運んだり、皆が座っていた椅子をもとの位置へ戻したりしていたのだ。


大広間を片付け終わったメイドは、午前零時半から午前一時までの三十分間、

一人でずっとキッチンにいた。


シンクに貯めていた洗い物の片付けや、翌日の朝食の仕込みを行うためだ。


その間、大富豪は大広間で一人、パーティーの続きをしていた。


「つまり、午前零時半までは大富豪さんは生きていたという事で間違いないですね?」


「私が片づけをしている横で、大富豪さんはずっと何かを考えながら、一人でワインを飲んでいました。『大丈夫ですか?』と私が尋ねると、大富豪さんは笑顔で大丈夫だよと答えてくれたのですが」


「その間、大富豪さん以外の誰かと会いましたか?」


「いいえ。パーティーが終わった後は、大富豪さん以外の方とは誰ともお会いしていません」


彼女の話を信じるなら、大富豪は午前零時半から午前一時までの三十分の間に何者かに殺害されたことになる。


そして、その間ずっとキッチンにいた彼女は犯人では無いという事だ。


だが、彼女がその間ずっとキッチンにいたことを証明できる者は、今のところは誰一人としていない。


「ありがとうございます。メイドさんのおかげで、少しですが真相に近づけた気がします。

私と医者さんは次の方の聴取へ行こうと思いますが、私達がこの部屋を出たらすぐに、部屋の扉の鍵を閉めてください。

そして僕が良いと言うまで、絶対に部屋から出ないように。

それが、私があなたを守るためにできる唯一のことですから」


メイドにそう言い残した私は、外開きの扉を開け医者と共に彼女の部屋を出た。




「メイドさんの隣の部屋は、たしか名探偵さんですよね?そうなると、

次はその隣の部屋の小説家さんですか」


メイドの部屋を出ると、医者が私にそう尋ねた。


「ええ、そうですね。ですがその前に一つだけ、お願いごとを頼まれていただけませんか?」


彼にそのお願い事をするのは、このタイミングしかないと思った。

「お願いごとですか?べつに構わないですが、私は何をすればいいのですか?

私なんかにできることですかね?」


「とても簡単なことですよ。私はここで皆さんの部屋を見張っているので、

お手数ですが一階のキッチンから、赤ワインを入れたワイングラスを持ってきていただけますか?」


「赤ワインですか?

それくらいのお願いでしたら私にもできますが、そんな物を一体何に使うんですか?」


「トラップを仕掛けよと思っています。実に簡単なトラップですよ。

私もやられてばかりでは性に合わないのでね。それに、攻撃は最大の防御とも言うじゃないですか」




赤ワインの入ったワイングラス。


私はそのトラップを何処に、どのように仕掛けるつもりなのか。


当然このトラップの使用方法についてはあなたにも考えてもらいたいが、

それはもう少し先にしておこう。


今は、大富豪と私を除いた八名の招待客達のアリバイの聴取に専念することにしよう。


【7-1:小説家のアリバイ】へと進んでください!

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