【4-1】招待客
【招待客】
この孤島にいる人物を一人ずつ紹介しよう。
《大富豪》
・六十歳
・男性
・今回のパーティーの主催者であり、世界的に名の知れた資産家。
《メイド》
・四十四歳
・女性
・二十年以上も大富豪に仕えているベテランのメイド。
《弁護士》
・五十二歳
・男性
・大富豪の顧問弁護士。
《医者》
・四十二歳
・男性
・大富豪の主治医。
《パティシエ》
・三十九歳
・男性
・海外にも店を構える、業界内では有名なパティシエ。
《女優》
・三十四歳
・女性
・子役の頃から今も活躍し続けている、ベテランの女優。
《俳優》
・二十六歳
・男性
・女優との交際が噂されている俳優。
《小説家》
・五十五歳
・男性
・大富豪が大好きなミステリー小説シリーズの著者。
《記者》
・三十八歳
・男性
・事件が起こるところに彼ありと言われるほど、事件を愛し事件に愛されている熱血記者。
《名探偵》
・あなた自身
・言わずと知れた名探偵。
この孤島にいるのは、以上の十名だ。
大富豪の別荘についても簡単に触れておこう。
別荘は二階建てであり、一階は大広間やキッチンといった共有スペースとなっている。
二階は後ほど詳しく説明するが、
各部屋にトイレやバスルームなどが完備された個室が十部屋ある。
パーティーは午前零時を少し回った頃に終わり、
招待客達は各々に与えられた二階の個室で自分の時間をゆっくりと過ごしていた。
浴槽に浸かり疲れを取っている者もいれば、既に就寝の準備を始めている者もいた。
別荘中に悲鳴が響き渡ったのは、
パーティーが終わってから一時間程が経った時のことだった。
悲鳴は先程までパーティーが開かれていた一階の大広間から聞こえてきた。
自室でくつろいでいた私は慌てて一階まで降りると、そこには首から血を流している大富豪、
彼の傍で膝から崩れ落ちて泣いているメイド、大富豪の手首を握り心拍数を確認している医者、
その様子を心配そうに見つめている女優と俳優がいた。
「いったい何が起こったんだ!?」
私はメイドに尋ねたが、気が動転しているせいか私の言葉は彼女の耳まで届いていない様子だった。
「・・・ダメだ、既に死亡している」
大富豪の心拍数を確認していた医者が、ボソッとそう口にした。
「まずは皆落ち着くんだ!それから、大富豪には決して誰も触れないように!」
騒ぎに気付いて一階へ降りてきた他の招待客達も含めた全員に向けて私は言った。
私も大富豪の口元に手を近づけてみたが、たしかに彼は息をしていなかった。
もし息をしていたとしても、これほど大量の出血ではどのみち助かることはまず無いだろう。
私はメイドの背中をさすりながら、
「今すぐ船を遣すよう、本土に電話をしてくれないか。大富豪さんがこうなってしまった今、本土とのやり取りを任せられるのはあなたしかいないんだ」
気が動転している彼女を気遣いつつ、できる限りの優しい口調で彼女に指示を出した。
「皆さんはその場から動かず、私が指示をするまでじっとしていてください」
私は招待客達に向かって、むやみに歩き回らないよう何度も注意を呼び掛けた。
どうしてそんなことを何度も彼らに呼び掛けたのか。
この場面においてそれが一番重要だという事を、
私は今までの経験から身に染みるほど理解していたからだ。
被害者が殺された今、最も注意しなければならないのが『二次被害』だ。
『大富豪が殺された』
その事実だけで、お互いがお互いを疑心暗鬼しているこの状況において、
二次被害は最も起こりやすく恐ろしいものである。
最悪の場合、無意味な殺人を新たに生んでしまう可能性だって十分にある。
それを防ぐためにも、私は皆に何度も注意を呼び掛けた。
だがその時、私が最も恐れていたことが起ころうとしていた。
「何よそれ!?」
女優が声を荒げながら、記者の手元を指さしてそう叫んだ。
女優が指さした記者の手元をよく見ると、彼は赤い液体が付着しているメスを握りしめていたのだ。
すると、私と同じように彼の握っているメスを見た医者が、
「・・・もしかして、それは私のメスか?」
と記者に尋ねた。
「あなたが殺したのね!あなたが、大富豪さんを殺したのね!」
パニック状態の女優は涙を流しながら大声でそう言うと、隣に立っていた俳優の肩に顔を埋めた。
そこで更に追い打ちをかけるように、
「ダメです。嵐のせいで今すぐに船は出せないと言われました。
早くても嵐が止む昼頃までは船を出せないそうです」
メイドが私にそう伝えた。
このままでは危険だ。
なんとかしてこの状況を乗り越えなければ。
そう思っていた私の前に、三つの道が現れた。
一つ目は、メスを握っている記者にこの場で話を聞くという選択肢。
二つ目は、メスの所有者である医者にこの場で話を聞くという選択肢。
三つ目は、ひとまず各々を自室に戻し、冷静になって現状を整理し直すという選択肢。
正しい選択肢は、三つの中のどれか一つだけだ。
もし誤った選択肢を選んでしまえば、新たな犠牲者を生んでしまう可能性だってある。
名探偵として、これ以上の犠牲者が出るという事態だけは何としても避けなければならない。
さぁ、名探偵の私になったあなたなら、どの選択肢を選ぶ?
改めて言っておくが、名探偵にとって大切なことは、冷静な推理力と大胆な行動力だ。
危険な状況であればあるほど、この二つがとても重要になってくる。
この場で記者に話を聞くなら、
【5-1:記者への疑念】へ。
この場で医者に話を聞くなら、
【5-2:医者への疑念】へ。
各々を自室に戻すなら、
【5-3:現状の整理】へ。
大富豪を殺した犯人は、当然この中にいる。
これから先、新しい人物が登場し、
実はその人物が犯人だったなんていう滑稽な物語ではないことを約束しよう。
だから、どうか慎重に選んで欲しい。
そして、忘れないで欲しい。
彼らの運命は、既にあなたが握っているのだということを。