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『夕殺人の這う範囲』の全ての読者たちへ③

では、なぜ迫間鉄平に勇太を誘拐させたのか。




それについては、

まず初めに迫間鉄平の生い立ちから説明することにしよう。


迫間鉄平の父親は、迫間義則ではない。


彼は、母である迫間紗南と財前信一郎の間にできた子供だ。


財前は彼が出資していた児童養護施設に勤めていた紗南に半ば強引に関係を迫り、

彼女を孕ませた。


財前はいつも通り金で解決しようとしたが、

彼女は遥と同様に一人でも子供を育てると言い張った。


お腹の子供を育てるのであれば父親は必要だと紗南を説得し、

財前は自分の代りになる父親を用意することにした。


だが、紗南のお腹は既に大きくなっていたことから、

財前と遥が僕にしたような嘘で誰かを騙すことは出来なかった。


全てを理解したうえで、父親として紗南と一緒に子供を育ててくれる人物が必要だ。


そこで財前が目をつけたのが、迫間義則であった。


迫間義則には、彼の父親が遺した多額の借金があった。


その事を知った財前は、彼が背負っていた借金を肩代わりし、

今後の養育費や生活費なども全て面倒を見る代わりに、

紗南と結婚し鉄平の父親として彼を育てろという条件を義則に提示した。


それから五年の間、義則は紗南の妻として、鉄平の父親として二人と共に過ごした。


世間的には紗南は病気で死亡したという事になっているが、

彼女の本当の死因は過労であった。


財前は金で買収した義則のことは信用していたが、

紗南のことは信用していなかった。


いつ口を滑らすか分からない紗南のことが、ずっと目障りだったのだ。


財前は紗南の勤めていた『コスモス』に連絡し、

彼女の仕事量を意図的に増やすよう命じた。


逃げることだって出来たはずなのに、紗南は最後まで逃げなかった。


そして、彼女は過労により亡くなった。


紗南が生きているうちは、なんとか嘘をつき続けることが出来た。


しかし、彼女が亡くなり鉄平と二人だけになった義則は、

いつか自分は口を滑らせてしまうのではないかと怖くなった。


もしそんな事をすれば、財前に何をされるか分からない。


自分だけでなく、鉄平も財前によって消されてしまうかもしれない。


そう思った義則は、鉄平を守るために彼を捨てることに決めた。




前々から計画していた誘拐事件を実行に移すためには、

勇太を誘拐するための人物が必要であった。

 

金で雇っても良かったが、警察に捕まれば僕を裏切る可能性がある。

 

金は人を簡単に裏切ることを僕は知っていた。

 

何があっても僕を裏切らない、最後まで僕の計画に協力してくれる人物が必要だ。

 

適任の人物を探していた僕は、迫間鉄平の存在に辿り着いた。

 

僕や勇太と同じような境遇の彼であれば、きっと手を貸してくれるに違いない。

 

児子原島殺人事件の直後、僕は迫間鉄平に会いに行き、

事件の真相や彼の本当の生い立ちなどを全て話した。


真相を知った鉄平は、全てを教えてくれた僕に何でも協力すると言ってくれた。


本当は彼も自分の手で財前を殺したかったはずだが、

財前は既に僕が殺してしまっている。


僕が誘拐事件を起こしたのは、財前が遺した多額の遺産が目的だった。

 

財前の遺産を相続するには、

勇太が財前と血のつながりがある息子だという事を公に証明する必要があった。

 

そのためには、僕と勇太に血縁関係が無いという事を明らかにしなければならない。

 

だが、児子原島殺人事件の直後に、

あの事件の唯一の生き残りであり勇太の父親である僕が突然そんなことを言いだしたら、

皆が僕のことを怪しむだろう。

 

僕と勇太に血につながりが無いという事を証明するためには、

当然そのための鑑定が必要になる。

 

その鑑定をするためには、僕と勇太の二人を調べるためきっかけが必要だ。

 

僕はそのきっかけを作るために、鉄平に勇太を誘拐するように頼んだ。

 

僕と勇太の二人が同時に検査をする機会が作れるのであれば、

べつに誘拐事件でなくても何でも良かった。

 

なかなかに大掛かりで面倒な手順ではあったが、

まさか勇太の誘拐事件を計画したのが父親である僕だとは誰も思わないだろう。

 

世間は僕のことを、息子を誘拐された悲劇の父親という目で見るはずだ。

 

ちなみに、勇太が見つかった日に僕は病院で倒れたが、当然あれは演技だ。


ああでもすれば、僕も勇太と一緒に検査を受けることが出来ると考えた。


役者が本業の僕にとっては、あれくらいの演技で刑事を騙すことは余裕だった。




財前の遺した多額の遺産を手に入れたかったのは、僕自身の為ではない。

 

僕が財前の遺産を手に入れたかったのは、勇太のためだ。

 

勇太が血のつながった息子では無いと分かった後も、勇太の事だけは愛していた。

 

たとえ血がつながっていなくても、勇太は僕の息子だ。

 

僕が計画している殺人事件や誘拐事件を実行すれば、

いずれは勇太のこと傷つける日が来るという事は十分わかっていた。

 

わかってはいたが、それでも僕は僕を騙した奴らのことが許せなかった。


だからせめて、これから勇太が一人で生きていくうえで苦労しない分のお金を

彼に遺してあげたいと思った。


それに、それは財前と血のつながっている勇太の当然の権利でもあるのだから。


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