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『夕殺人の這う範囲』の全ての読者たちへ②

財前の死が心臓発作であったという点だが、

それ自体は事実である。


だが、彼の心臓発作は僕が意図的に引き起こしたものだ。

 

パーティーが終わった後、僕と遥は僕の部屋で酒を飲んでいた。


僕は酔ったふりをしながら、財前が趣味で集めている拳銃の一つを盗んできたと言い、

それを遥かに見せびらかした。


その拳銃が財前のものであることや、それを財前に黙って部屋まで持ってきたというのも事実だ。


遥はかなり酔っていたので、そんなことをしたらダメだと口では言いつつ、

僕が盗んできた拳銃に興味津々であった。

 

日本でも銃免許を取得すれば銃を所持することは許されているが、

財前は銃を趣味として集めており射撃には興味が無かったので、

彼の所持している拳銃に銃弾が入っていないことを僕は知っていた。

 

しかし、それでは意味が無い。

 

その拳銃は遥に招待客達を殺させる為のものなのだから、

当然銃弾が入っていないと意味が無いのだ。

 

僕は用意してきた銃弾を、財前から盗んできたその拳銃に込めた。

 

シャワーを浴びるために浴室へ行った遥の隙をついて、

僕は大広間で一人で酒を飲んでいる財前のもとへ向かった。

 

僕は彼の首筋に空の注射器を刺し、血管に空気を送り込んだ。


心臓まで到達したその空気は、いとも容易く心臓発作を引き起こした。


事件当日も大量に酒を呑んでいた財前が心臓発作を起こすこと自体は、

それほど不可解なことでは無いだろう。


財前が息を引き取ったのを確認した僕は、亡くなった彼自身の爪で、

肉がえぐれるほど彼の首を引っ掻いた。


それは注射の跡を消すためであり、首から血を流している財前を見た招待客達が、

誰かに首を切られて殺されたと思わせるためでもあった。


最後にテーブルの上に置いてあった赤ワインを彼の洋服にかけ、

僕は何事も無かったかのように自分の部屋に戻った。




それから二十分程が経ったその時、別荘中に悲鳴が響き渡った。


一階のキッチンで作業をしていたメイドが、

大広間で首から血を流している財前を見つけたのだ。


僕と遥は誰よりも早く一階へ下り、医者よりも先に財前のもとに駆け寄った。


もちろん、部屋を出る際に僕は彼女に、

「もし何かあった時は、僕のポケットから拳銃を取って使うんだ」

と、彼女に拳銃の所在をしっかりと伝えたうえで。

 

僕は財前の手首を握り脈を確認すると、

「・・・ダメだ。既に亡くなっている」

大広間に集まってきた招待客達に向けてそう言った。


「皆さん、まずは落ち着いてください。

落ち着いて、その場から動かないように。

それから、大富豪さんには誤っても触れることが無いよう気を付けてください」

 

名探偵は皆に注意を呼びかけ、僕も遥の隣へ行った。

 

首から大量の血を流していると勘違いした招待客達は、

それだけで誰かが財前を殺したと思い込んでいた。

 

そして僕は、

「誰だ!誰が財前さんを殺したんだ!?」

わざとらしく大声でそう言うことで、

ここにいる誰かが財前を殺したのではないかという皆の疑念を確信に変えた。

 

その場にいる誰よりもパニックになっていた遥は、

僕の狙い通り僕のポケットから拳銃を取り出すと、招待客達にその銃口を向けた。


「遥さん、どうか落ち着いて!」

 

そう言いながら医者は遥に近寄ったが、

パニックになっていた遥は訳も分からず手に持っている拳銃の引き金をひいた。


「・・・おい、嘘だろ」

 

医者はそう呟きながら、その場にうつ伏せになるように倒れた。


その場に倒れこんだ医者の胸から流れ出てくる血を見て、

招待客達は考えることをやめた。




『次は、自分が殺されるかもしれない』

 



目の前で繰り広げられた悲惨な状況を目の当たりにした彼らの本能が、

考えることをやめた彼らの身体を動かした。

 

招待客達の殺意が一斉に遥に向いた。

 

僕の予定では、この後も遥が拳銃で招待客達を一人ずつ撃ち殺すという予定だった。

 

しかし、あまりの恐怖で彼女の手は震えており、それ以上は引き金をひけそうになかった。

 

仕方なく僕は彼女のから拳銃を奪い取ると、招待客達を一人ずつ撃った。

 

拳銃には八発の銃弾が込められており、遥が医者の胸に撃った一発と、

まだ息があった彼の頭に僕が撃った一発で残り六発。


メイド、パティシエ、記者の三人は一発ずつで仕留めることが出来たが、

弁護士、小説家、名探偵は一発で仕留めることは出来なかった。

 

それでも、その三人に重傷を負わせることは出来た。

 

僕に左肩を撃たれた弁護士は、目を真っ赤にして僕に襲い掛かってきた。

だから僕は、倒れている記者が手に握っていた食用ナイフを彼の手から取り、

それで弁護士の首を刺して殺した。

 

僕に右足を撃たれた小説家は、脚を引きずりながら二階へ逃げようとしていた。

だから僕は、必死に逃げようとしている彼の髪を掴み、

食用ナイフで彼の首を後ろから刺して殺した。

 

名探偵は即死こそしなかったが、放っておけば勝手に死ぬぐらいの重傷を負っていた。

とどめを刺しても良かったのだが、涙を流しながら必死に僕に助けを乞う彼が妙に面白かった。

せっかくなので僕は、彼が息絶えるまでの約五分間、

彼がどうやって死んでいくのかを見ていてあげようと思った。

 

名探偵が息を引き取ったのを確認した僕は、恐怖で全身の力が抜けてしまったのだろうか、

床に尻もちをついて動けなくなっている遥のもとに近づいた。

 

僕は手に握っているナイフを遥に持たせた。


それから、僕はナイフを持っている彼女の手を握ると、

そのナイフでゆっくりと彼女の首を刺した。


最後に、指紋を付けないためにしていた手袋を海に捨て、

児子原島での僕の復讐は終わった。


財前の遺体を見てパニックになった遥が拳銃やナイフで次々と招待客達を殺し、

我に返った彼女が自分の犯した過ちに気付いて自害したように見せかける。


それが、僕の描いたシナリオだ。




以上が、児子原島殺人事件の真相である。



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