勇太くん誘拐失踪事件④
それから一週間が経ったある日、
藤堂と松野は都内から少し離れた場所にある、
今は既に閉鎖されている児童養護施設へと向かっていた。
「今朝の電話、本当だと思いますか?」
助手席に座っている松野が、隣で運転している藤堂に言った。
「どうだろうな。まぁ、他に手掛かりも無いし、とりあえず行くしかないだろ」
その日、匿名の電話が警察にかかってきた。
警察に電話をかけてきた女性の話によると、彼女の家の近くにある児童養護施設に、
数日前から男と子供が出入りしているのを何度か見かけた。
その児童養護施設の名は『未来へ羽ばたく家』というのだが、
そこは数年前に閉鎖されており勝手に敷地内に入ることは許されていないはずなので、
念のために確認して欲しいという内容の電話であった。
「あれです、あの建物が『未来へ羽ばたく家』です」
路肩に車を停めると、二人は閉鎖されている児童養護施設の中へと入った。
「そういえば、あの五百万は警察が回収したんですよね?」
「ああ、一週間経っても犯人が取りに来なかったからな」
「でも、それじゃあどうしてお金なんか用意させたんですかね?」
「そんな事、俺が知るわけがないだろ」
小声で話をしながら児童養護施設の中を進んでいると、
奥の方に見える部屋の中から、ガサガサという物音が聞こえた。
二人は物音が聞こえた部屋の前まで行き、ゆっくりとその部屋の扉を開けた。
「・・・勇太君?」
真っ暗な部屋の中に見えた小さな人影に向かって、松野は優しくそう尋ねた。
そこにいたのは、誘拐された霧島勇太だった。
「勇太君だよね?無事でよかった。怪我はしてない?本当に無事でよかった」
松野は勇太に駆け寄るよ、彼を抱きしめながらそう言った。
すると、何かに気付いた藤堂が慌てて部屋の外へ出た。
「藤堂さん!?」
「お前は勇太君のそばにいろ!」
藤堂は何かを追いかけるように、養護施設の正面入口に向かって全力で走った。
「おい、待て!」
正面入口をちょうど出たあたりの所で、藤堂は黒のパーカーに灰色の帽子を被った男を取り押さえた。
「お前が勇太君を誘拐したんだな?」
藤堂は必死に抵抗する男に何度もそう尋ねた。
もう逃げることは出来ないと悟った男は抵抗するのを諦め、
ただただ藤堂のことを黙って睨み続けた。




