【16-9】メイドの部屋
【メイドの部屋】
私はメイドの部屋の扉を叩き、彼女の部屋へと入った。
「そんなに怖がらないでください。あなたを警察に売るようなことはしませんから」
彼女は共犯者でも、ましてや真犯人でもない。
彼女はただ〝知っていた〟だけだ。
「私がしたことは罪になるのでしょうか?」
メイドは怯えながら私に言った。
「あなたは何もしていないじゃないですか。
ワイングラスの件のことを言っているのなら、あんなのは当然罪にはなりません。
あの時、あなたは《あの人》に会いに行こうとしただけですよね?」
私がそう尋ねると、彼女は一度だけ首を縦に振った。
「やはりそうでしたか。それでしたら、あなたは何も悪くない」
それを聞いた彼女は安心したのか、先程まで強張っていた表情が少しだけ緩んだ。
「名探偵さんも、《あの人》から直接聞いたのですか?」
「いいえ、私は何も聞かされていませんでした。
私がこの事件の真相に気付いたのは、事件が起こってからのことです。
ですが、その時にはもう手遅れでした。
私には、《あの人》に協力する以外の選択肢は残されていなかった」
今回の事件において、メイドは《真犯人》でも《共犯者》でもない。
先程も言ったように、彼女はただ〝知っていた〟だけの人物だ。