【16-7】小説家の部屋
【小説家の部屋】
私は小説家の部屋の扉を叩き、彼の部屋へと入った。
小説家は大富豪を殺害した犯人が誰だったのかをしきりに尋ねてきたが、
私が真犯人の正体を明かすことは無かった。
「申し訳ありませんが、この場では大富豪さんを殺害した人物が誰なのかを
お伝えすることは出来ません。
ですが、それは小説家さんの為でもあります。
もしあなたが大富豪さんを殺害した犯人の正体を知れば、
口封じのために犯人があなたを襲う可能性が高くなる。
そうならない為にも、今はまだ知らない方が良い。
世の中には、知らない方が幸せな事もあるものですから」
私からそう説得された小説家は、渋々だが納得した様子だった。
「大富豪さんは、あなたが書いた物語が本当に好きだったようですね。
大富豪さんに代わって言うのもおこがましいことではありますが、
彼の望みを叶えてあげてください。
彼が望んだように、どうかあなたの手で彼の物語を書いてあげてください。
あなたが描く大富豪さんの生涯は一体どんな物語になるのか、私も今からとても楽しみです」
それは大富豪の最期の願いであり、私の本心でもあった。
今回の事件において、小説家は《真犯人》でも《共犯者》でもない。




