【16-5】医者の部屋
【医者の部屋】
私は医者の部屋の扉を叩き、彼の部屋へと入った。
「名探偵さんなら全てお見通しなんでしょうね。
いつからですか?いつから私のことを怪しいと思っていたんですか?」
医者は逃げる素振りすら見せず、私にそう尋ねた。
「最初からですよ。名探偵の私からすれば、あなたは怪しすぎます。
それに私は、聴取を行っていく中で、たった一つの大きな矛盾点に気が付きました。
それに気付いた時、やはりあなたも私と同じ側の人間なのだと確信したんです」
メイドの悲鳴を聞いた招待客達は次々と一階へ集まったが、
そこにある一つの矛盾点が生じていたのだ。
医者は自室でメイドの悲鳴を聞いてから、慌てて一階へ向かった。
俳優と女優は階段を下りている最中にメイドの悲鳴を聞き、慌てて一階へ降りた。
だが、そこには既に首から血を流している大富豪とメイドと医者の三人がいたのだ。
俳優と女優の話が本当であれば、彼らより先に一階に医者がいるはずがないのだ。
「なるほど、うっかりしていました。
名探偵さんのおっしゃる通りです。
私はメイドさんの悲鳴を聞いてから慌てて一階へ向かったという事にしようと
《あの人》と話していました。
私はその設定を忠実に守り過ぎてしまったというわけですね」
あえて医者には話さなかったが、私が彼のことを疑っていた理由は他にもあった。
メスで手を切ったと言って彼が自分の手を私に見せてきたとき、
彼の手には傷が無かったように見えた。
たしかに彼の手は血で真っ赤になっていたが、あれは恐らく彼の血ではなかったはずだ。
あの時、その事を私はあえて言及しなかった。
それに、パティシエの聴取が終わった後に彼は凶器について言及してきたが、
その時彼は凶器をナイフだと決めつけていた。
まだ大富豪を殺害した凶器が何かも分かっていないあの状況で、
彼は『凶器』という単語ではなく、『ナイフ』という単語を使ったのだ。
医者は今回の事件に大きく関わっていた人物であり、
今回の事件における彼の役割は『偽装』であった。
しかし、彼は単なる《共犯者》であって、《真犯人》ではない。




