【16-3】女優の部屋
【女優の部屋】
私は女優の部屋の扉を叩き、彼女の部屋へと入った。
女優は大富豪を殺害した犯人が誰だったのかをしきりに尋ねてきたが、
私が真犯人の正体を明かすことは無かった。
「申し訳ありませんが、この場では大富豪さんを殺害した人物が誰なのかを
お伝えすることは出来ません。
ですが、それは女優さんの為でもあります。
もしあなたが大富豪さんを殺害した犯人の正体を知れば、
口封じのために犯人があなたを襲う可能性が高くなる。
そうならない為にも、今はまだ知らない方が良い。
世の中には、知らない方が幸せな事もあるものですから」
私からそう説得された女優は、渋々だが納得した様子だった。
「あなたが気付いていたかどうかは分かりませんが、
大富豪さんの遺体が見つかってからずっと、俳優さんはあなたの事を必死に守ろうとしていました。
彼は誰よりも一番にあなたの身を案じていましたよ。
大富豪さんに代わって言うのもおこがましいことではありますが、
どうか俳優さんとお幸せになってください。
彼とあなたは非常にお似合いだと思います」
それは大富豪の最期の願いであり、私の本心でもあった。
今回の事件において、女優は《真犯人》でも《共犯者》でもない。




