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【14-2】透明のテープ

【透明のテープ】


二階にある十部屋の客室とは異なり、正面玄関や裏口は誰でも利用することが可能だ。


そのため、別荘から出たのは誰なのかという個人を特定することは不可能に近いだろう。


このトラップを仕掛けた意図は、

『〝何者〟かがこの別荘から出たかどうか』

という個人の特定ではなく、

『何者かがこの〝別荘から出た〟かどうか』

という事象を確かめるためである。


犯人が逃げるために〝別荘から出た〟か。


凶器を海に捨てるために〝別荘から出た〟か。


何かを確認するために〝別荘から出た〟か。


事件はこの別荘の中だけで留まっているのか、

それとも孤島全体を調べる必要が出てくるのか。


そのどちらかを事前に把握しておくだけでも、

今後の推理における精神的な負担は大きく変わってくる。

 

結論から言うと、私が仕掛けたトラップは作動していなかった。

 

つまり、誰もこの別荘からは出ていないという事だ。

 

この場合の『誰も』というのは、当然大富豪の遺体も含まれている。


 


トラップを仕掛けるうえで重要な点はいくつかあるが、

トラップの存在自体を犯人に知られてはいけないというのが最も重要な点になるだろう。

 

客室の扉の前に置いた十脚のワイングラスも、

部屋の中からその存在を認識することは不可能であった。


今回も同様に、トラップの存在を犯人に知られるわけにはいかない。

 

以上のことを踏まえたうえで私がトラップの道具として選んだものは、透明のテープだった。

 

恐らく犯人はいつも以上に五感を研ぎ澄まし、様々な部分に注意を払っているに違いない。

 

犯人の五感を刺激することのない、犯人の五感をかいくぐるようなトラップが必要だ。

 

そこでまず注意しなければならないのが『聴覚』だろう。

 

犯人は音に敏感になっているはずだ。

 

そして聴覚と同じくらい注意しなければならないのが『視覚』だ。

 

先程も言ったように、犯人にトラップの存在を知られてしまっては意味がない。

 

透明のテープの使い方は非常にシンプルだ。

 

扉と扉の枠部分を塞ぐように透明のテープを貼るだけでいい。

何者かが扉を開けた際にテープが切れるよう、

あらかじめ縦に半分ほど切れ目を入れたテープを貼っておく。


もしテープが完全に切れていれば、何者かが扉を開けたという事になる。

 

より慎重にトラップを仕掛けるならば、どちらかの扉は外側にテープを貼っておけばいい。

そうすれば内側からはテープの存在を認識する事ができないので、

犯人がトラップの存在に気付くことはまず無いだろう。

 

だが、トラップの構造上、テープを外側に貼るのはどちらか一方の扉にしかできない。


一度テープを貼ってしまえばその扉を開けることは出来なくなるので、

例えば裏口の外側にテープを貼ったならば、正面玄関から別荘の中に入り、

正面玄関については内側にテープを貼るしかなくなる。

 

たとえテープが内側に貼られていたとしても、

その存在に犯人が気付く確率はほぼゼロに近いだろう。

 

それでも、もし犯人が内側に貼られている透明のテープの存在に気付いてしまったとしたら。


それほど犯人が細部にまで注意を払っている可能性は十分にあるだろう。

 

正面玄関や裏口から出ようとしている犯人は、

当然のことだが二階の客室から出た人物という事になる。

 

つまり、犯人は私が仕掛けたワイングラスのトラップを知っている。

 

もしかすると、ここにも何かしらのトラップが仕掛けられているかもしれない。


勘のいい犯人ならそう思うだろう。




だからこそ、何重にもトラップを仕掛けておく必要がある。


何重にもトラップを仕掛けておくことで、一つ一つのトラップの欠点を補う必要があるのだ。

 

誰もトラップを仕掛けるために使用した道具が一つだけだとは言っていない。

 

透明のテープを道具として使用すること自体は正解だが、これだけでは完璧とは言えない。

 

もしあなたが透明のテープだけで十分だと判断したうえでこの選択肢を選んだのだとしたら、

それは詰めが甘すぎる。

 

私が使用したのは、この透明のテープと、もう一つある。

 

私が三つの道具を提示した際に、

その中にある二つの道具を使用するという選択肢を導き出せた者こそが本物の名探偵だ。


 

私がワイングラスのトラップを仕掛ける際に言ったアドバイスをもう忘れてしまっているようなので、

もう一度だけ言っておこう。

 

何事も、『念には念を』入れることが大切だ。



 

二つの道具を使用するという選択肢を導き出せた者か、

もしくはもう一つの道具が残り二つあるうちのどちらか分かった者のみ、

【15-1:大富豪の想い】へと進んで欲しい。




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