【2-1】最初の選択
【最初の選択】
それでは早速だが、あなたが名探偵に相応しいかのテストをしようと思う。
テストといっても、非常に簡単な問題だ。
だから、そう肩肘を張らずに安心して考えて欲しい。
先ほども言ったように、これからあなたには『私』になってもらい、
私が過去に実際に解決した殺人事件を追体験してもらう。
つまり、これから起こる事件をあなた自身で解決しなければならないという事だ。
殺人事件というくらいだから、当然のように『犯人』が『被害者』を殺すだろう。
だが、この殺人事件はこの物語の中で起こる出来事にしか過ぎない。
もしあなたが選択肢を間違えて犯人をみすみす逃がしてしまったとしても、
現実世界に逃げてしまえば、誰からも憎まれたり恨まれたりすることは無いだろう。
もしあなたの事を憎んだり恨んだりする者がいるとすれば、恐らくそれはあなた自身だ。
単なる推理小説だからと粗雑に選択肢を選び、
犯人を逃がしてしまったうえにこの世界からも逃げたあなたを、果たしてあなた自身は許すだろうか。
前置きが随分と長くなってしまったが、そろそろ心の準備もできた頃だと思う。
それではいよいよ、待ちに待った物語の始まりだ。
この事件は、私が今までに解決してきた事件の中で、最も珍しい事件であった。
事の発端は、私の古くからの友人である『大富豪』から届いた一枚の招待状だった。
招待状の内容は、孤島にある彼の別荘で開かれるパーティーに是非参加してくれないかというものであった。
ここ数年は探偵業が忙しく、友人と会う機会もめっきり減ってしまったので、
大富豪から招待状が届いたときは素直に嬉しかった。
だが、大富豪から届いた招待状を手にした瞬間、なんとも言えないモヤモヤとした感覚に陥った。
その時と同じような感覚に陥ったことは、今までも何度かあった。
そういう時は決まって、名探偵としての私の身に何かが起こるのだ。
あの感覚は、私にとっての一種の無意識的な防衛本能というやつなのだろう。
さて、招待状を受け取った私の目の前には二つの選択肢がある。
一つは、自分の直観を信じ大富豪からの招待を断るという選択肢。
もう一つは、大富豪からの招待を受け孤島の別荘へ向かうという選択肢。
私はこのどちらかの選択肢を選ばなければならない。
事件が起こるかもしれないのに招待を断るなんて、それでも本当に名探偵なのかと疑う者もいるだろう。
先に言っておくが、その考えは間違いだ。
大富豪からの招待を断ることは、決して臆病な選択ではない。
事件はまだ起きていなければ、そもそも彼の別荘で事件が起きるなんて誰も言っていない。
この事件の発端は、『私の古くからの友人である大富豪から届いた一枚の招待状だった』とは言ったが、その事件が彼の別荘で起こるとは一言も言っていないのだ。
この招待状自体が、犯人が仕組んだ罠だという可能性だって十分にあるだろう。
だから、大富豪の招待を断るという選択肢は、臆病でなければ間違いでもないのだ。
いやいや、本当にそう思うのかい?
事件の匂いがするのなら、迷わずその匂いのする方へ飛び込む。
それが名探偵だろう?
事件を解決できないどころか、その事件に関わることすらできないなんて、
そんなの名探偵の私にとっては恥以外の何物でもない。
さぁ、名探偵の私はどちらを選ぶべきであろうか?
今までのあなたであれば、何の迷いも無く大富豪からの招待を受けていただろう。
そもそも、招待を受けないという選択肢自体が無かったのではないだろうか。
孤島の別荘なんて、いかにも殺人事件が起きそうな場所だ。
しかし、本来であれば事件が何処で起こるかを予想するなんてことはまず無理だろう。
そんな事が出来るのなら、そもそも最初から未然に事件を防ぐことが出来るはずだ。
それが出来ないから、事件が起こるのだ。
あなたは普通に生活していたら体験する事のできないスリルや興奮を味わいたいのだろう?
だからあなたは、この小説を手に取ったはずだ。
それなら、どちらか選ぶしかない。
非常に簡単な選択肢のように思えるが、果たしてその選択肢は本当に正しいものだろうか。
普通の推理小説であれば、迷わず別荘へ行き、そこで事件を解決するのだろう。
《普通》の推理小説なら。
べつに焦る必要は無い。
時間は十分にある。
誤った選択肢を選べば、事件に関わることすら出来ずに終わってしまう可能性もあり得るだろう。
そんな悲しい結末は選びたくないはずだ。
だから、思う存分迷ってほしい。
迷い、疑い、それでも最後は自分の直観を信じるしかない。
大富豪からの招待を断るなら、
【3-1:犯人からの招待状】へ。
大富豪からの招待を受けるなら、
【3-2:大富豪からの招待状】へ。
初めにルールの説明をした通り、このまま一ページずつ読み進めてもらっても構わない。
だが、これから起こる殺人事件をあなたの手で解決したいのであれば、
どちらの選択が正しいのかを考えてもらいたい。
この推理小説を思う存分楽しみたいのであれば、
あなたが正しいと思う選択肢を選んで読み進めてもらいたい。
もし誤った選択をしてしまった場合は、その時は正しい方を読み直せば良いだけだ。
だが、どうか慎重に選んで欲しい。
本物の名探偵になりたいのであれば、最後まで正しい選択をし続けなければならないのだから。
さぁ、そろそろ決心はついただろうか。
大富豪からの招待を断るか、それとも招待を受けるか。
これは、あなたが名探偵に相応しいかどうかのテストだ。
いよいよ次回は、読者であり名探偵であるあなたが、実際に正しいと思う選択肢を選んでもらう番です!
頑張って作者である私に勝って、物語を最後まで読み進めてみてください!笑