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【13-3】十脚のワイングラス

前回のラストで、【13-3:十脚のワイングラス】を選んだ方はこちらです!

私は聴取が終わった際に、


「私達が部屋を出たら、必ず鍵を閉めてください。

そして私が良いと言うまで、決して部屋から出ないように」

と招待客達に必ず言うようにしていた。


私は犯人に対して、遠回しにトラップの存在を知らせていた。

 

トラップの存在を知らせておくこと自体が、犯人への抑止力となるからだ。

 

あとは、犯人がその事に気付くかどうかであった。


 


まず初めに思い出して欲しいのが、メイドの部屋から出る際に言及したとおり、

客室の扉は外開きだという点だ。

 

もし客室の扉が内開きであれば、このトラップは意味を成さないだろう。

 

次に、ワイングラスを何処に置くかという点についてだが、

ワイングラスを置く場所は二階にある十部屋の客室の扉の前が正解である。

 

さらに言うと、少しでも扉を開ければワイングラスが接触してしまうくらいの、

扉から五センチ以内の距離であり、かつ扉の中心に近い場所に置くことが重要になってくる。

 

なぜワイングラスを指定したかというと、

グラスの中でも特に底が小さく不安定なワイングラスであれば、

扉を開けた衝撃で容易に倒れるからだ。

 

空のワイングラスではなく、

わざわざ赤ワインを入れたワイングラスを持ってくるよう指示した意図は次の通りだ。

 

仮に何者かが扉を開けた衝撃で空のワイングラスを倒したとしても、

元の位置に置き直されてしまえばそれでおしまいだ。

 

だが、赤ワインが入っているグラスならどうだろうか。

 

何者かが扉を開けた衝撃で赤ワインの入っているワイングラスを倒したとしたら、

当然グラスの中の赤ワインは床にこぼれるだろう。

 

二階の廊下には、全面にふわふわのカーペットが敷かれている。

 

カーペットにこぼれた赤ワインのシミを完全に拭きとるのは、容易なことではないはずだ。


聴取をしている間は、他の部屋を監視しておくことは出来ない。

 

しかし、このトラップさえ仕掛けておけば、

『〝何者〟かが〝部屋から出た〟かどうか』

という二つの点を一度に確認することが出来る。


 


それでは、なぜワイングラスは十脚も必要だったのか。

 

聴取のために各部屋を周っている私と医者、

それに死亡した大富豪の部屋を除いた七脚で十分ではないかと思ったかもしれない。


ワイングラスには、もう一つの役割があるのだ。


ワイングラスは、

『何者かが部屋から出たかどうか』を確認するだけでなく、

『何者かが部屋に入ったかどうか』を確認するためにも使える。

 



先程も言ったように、客室の扉は外開きとなっている。

 

実際に試してみれば分かると思うが、部屋の中にいる限り、

扉から五センチ以内の距離であり、且つ扉の中心に近い場所にワイングラスを置くことは不可能に近い。

 

グラスの足に糸などを引っ掻けてゆっくりと移動させるなどの方法はあるにはあるが、

そんな事をしてグラスを倒してしまったら元も子もないだろう。

 

共犯者がいれば話は別かもしれないが、

部屋に入るために一度移動させたグラスをまた元の位置に戻すという事は、

一人では到底できないのだ。


 


私が仕掛けたトラップは見事に作動していた。


メイドの部屋の前の床が、こぼれた赤ワインで真っ赤になっていたのだ。


だが、私のトラップが作動していたのはメイドの部屋だけではなかった。


なぜだか大富豪の部屋の前に置かれているワイングラスが、

私と医者が最初に置いた位置とは明らかに異なった位置に置かれてあるのだ。


つまり、『何者おそらくメイドかがメイドの部屋から出た』ことになり、

『何者かが大富豪の部屋に入った』ということになる。




「メイドさんの部屋から出た人物は、やはりメイドさんになるんですかね?」

 

医者は私にそう尋ねた。


「まだ断定はできませんが、十中八九メイドさんで間違いはないかと思います。

さて、ここからは私一人で調べることにしようと思います。

お手数ですが、医者さんも一度ご自分の部屋に戻ってください。

それから、他の方と同じように、私が良いと言うまで決して外に出ないようにお願いします」

 

自室に入った医者が扉の鍵をしっかりと閉めたことを確認した私は、

一階まで降りると大富豪の遺体が置かれている冷蔵室へ向かった。


「・・・やはり、そういう事でしたか」

 

私は冷蔵室の中を見てそう呟いた。

 

そこにあるはずの大富豪の遺体が無くなっていたのだ。

 

しかし、このような事態が起こることも、名探偵の私は当然最初から予測していた。

 

私が仕掛けたトラップは、客室の扉の前に置いたワイングラスだけではない。

 

別のトラップも事前に仕掛けておいたのだ。


そのトラップは、『何者かがこの〝別荘〟から出たかどうか』を確認するためのものだった。

 

この別荘から出るには、

『両開き扉の正面玄関』か『片開き扉の裏口』のどちらかから出ることが可能だ。


正面玄関も裏口も、鍵を使わないかぎり内側からしか施錠することが出来ない。


また、どちらの扉も客室と同じように外開きの扉となっている。

 

以上のことを踏まえて、私がトラップを仕掛けるために使用した道具とは一体何だったのか。


 


使用した道具が『小さな紙切れ』の場合は、

【14-1:小さな紙切れ】へ。

 

使用した道具が『透明のテープ』の場合は、

【14-2:透明のテープ】へ。


使用した道具が『土を詰めた大きな植木鉢』の場合は、

【14-3:土を詰めた大きな植木鉢】へ。




推理小説のトリックやトラップは、実に魅力的なものが多い。

 

だが、最初にも言った通り、これは私が過去に実際に解決した殺人事件だ。

 

実際に起こった殺人事件において、

推理小説のような斬新かつ難解なトリックやトラップが使われた事件はほぼゼロに等しい。

 

実際に起こった殺人事件のほとんどは、非常に単純明快なものか、

もしくは過去の犯罪を模したものである。

 

このトラップも、既に知っている人も多いであろう有名なトラップだ。

 

非常に有名なトラップではあるが、それでいいのだ。

 

そんな使い古された有名なトラップこそ、いざという時にとても役に立つという事を私は知っている。



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