【9-1】弁護士のアリバイ
【弁護士のアリバイ】
「それでは、パーティーが終わってから大富豪さんの遺体が見つかるまでの約一時間、
何処で何をしていたか教えていただけますか?」
弁護士のアリバイを確認するため、私と医者は彼の部屋を訪れた。
「疲れていたので、この部屋に入ってすぐにベッドに横になりました。
でも、隣の部屋がやけに騒がしくて全然眠れなくて。
注意しようかと思ったんですが、
こういうのって注意する方もされる方も嫌な気持ちになるじゃないですか。
だから、僕ももう少しだけ飲もうと思って一階へ降りたんです。
そうしたら大富豪さんが一人で飲んでいたので、
彼から余っていたワインを一本頂いて部屋に戻りました。
その時、大富豪さんに前からお願いされていたことをちょうど思い出して、
それでパティシエさんの部屋へ行って、その後は彼と一緒に飲んでいました」
彼の話はメイドの証言である
『大富豪はパーティーが終わった後も一人で飲んでいた』
という点と、パティシエの証言である
『弁護士と二人で部屋で飲んでいた』
という点の二つの証言と一致していた。
「わかりました。では、一つずつ確認させてください。
隣の部屋が騒がしかったという事ですが、それはラジオの音か何かでしょうか?」
「いいえ。女優さんの声も聞こえたので、恐らく彼女と俳優さんの二人の話声かと思います」
「なるほど。では次の質問ですが、あなたがワインを取りに一階へ降りた際、
そこにいたのは大富豪さんだけでしたか?」
「そうです、彼が一人で飲んでいました。
キッチンから物音が聞こえたので、もしかしたら誰かがキッチンにいたかもしれませんが、
あの時に私が一階で会ったのは大富豪さんだけです」
「最後にもう一つだけ。先程あなたは、
『大富豪さんに前からお願いされていたこと』
と言っていましたが、それは何のことでしょうか?」
その瞬間、初めて弁護士の顔が曇ったような気がした。
「どうしました?私や医者さんに知られたらまずい事ですか?」
「いえ、別にまずいという事ではないですが、
これは大富豪さんとパティシエさんと私の三人だけの話なので。
私は一応大富豪さんの顧問弁護士ですから、
彼から頼まれたお願い事を不用意に他の方にしゃべるのはあまり気が進まなくて」
その件が今回の大富豪殺害と関係があるかは分からない。
だが、事件を解決するうえでどんな些細な情報でも耳に入れておきたいと思った。
「さすがは大富豪さんの顧問弁護士だ。
大富豪さんがあなたのことを大層信頼していたのも納得です。
ですが、どうかその〝お願い〟とやらを聞かせてはいただけませんか。
もしかしたら、犯人につながるヒントになるかもしれません」
私からそう頼まれた弁護士は、
渋々ではあったが大富豪から頼まれていた〝お願い〟について私に話してくれた。
「大富豪さんが私に頼んだお願いというのは、パティシエさんのお店についてです・・・」
弁護士はパティシエが展開しているお店の経営状況や今後の運営方針について、
事細かく説明してくれた。
パティシエの店はここ最近経営難に陥っているのだが、彼の作り出す味が大好きだった大富豪は、
どうにかしてパティシエの店を守って欲しいと以前から弁護士に頼んでいたという。
「なるほど、そういう事でしたか。それはまた大変なお願いを任されてしまいましたね」
「ええ、本当ですよ。でも、大富豪さんのお願いですから。私もできる限りのことはやろうと思います」
「大富豪さんの顧問弁護士だったあなたなら大丈夫でしょう。
それでは、私達は次の方の聴取へ向かうとします。私
達が出たら扉の鍵を閉めて、そして私が良いと言うまでは決して部屋から出ないようにお願いします」
「これで聴取も半分終わりましたね。
残るは俳優さん、女優さん、記者さん、それと私の四人ですか」
弁護士の部屋を出ると、医者が私にそう言った。
「ええ、そうですね。それに、少しずつですがピースも揃ってきましたね」
【10-1:俳優のアリバイ】へと進んでください!




