【8-1】パティシエのアリバイ
【パティシエのアリバイ】
「それでは、パーティーが終わってから大富豪さんの遺体が見つかるまでの約一時間、
何処で何をしていたか教えていただけますか?」
パティシエのアリバイを確認するため、私と医者は彼の部屋を訪れた。
「パーティーが終わってから三十分程は、この部屋で一人でゆっくりしていました。
その後は、弁護士さんと一緒にこの部屋で飲んでいました」
「弁護士さんですか?」
「ええ、弁護士さんとは今日初めて会ったのですが、なにかと話が合いましてね。
それに、どうやら隣の部屋がうるさくて眠れなかったらしくて。
よければ一緒に飲まないかと、ワインを持ってこの部屋まで訪ねてきたんですよ」
「では、お二人が飲み始めてから大富豪さんの遺体が見つかるまでは、
お二人はずっとこの部屋にいたという事ですね?
パーティーが終わってからは、一度も部屋から出ていないという事で間違いないですか?」
私は〝パーティーが終わってからは一度も部屋を出ていないか〟という部分を強調して
パティシエに尋ねた。
「パーティーが終わってこの部屋に来てからは、私は一度も外へ出ていません。
念のためにお伝えしておくと、弁護士さんもこの部屋に来てからは一度も外に出ていませんよ」
「そうですか。ちなみに弁護士さんがあなたの部屋に来るまでの三十分間、
あなたがこの部屋にいたことを証明できる人はいますか?」
「いえ、それまではずっと一人だったので・・・」
メイドの証言を信じるなら、大富豪が殺害されたのは午前零時半から午前一時までの三十分間の可能性が高い。
となると、その時間に弁護士とこの部屋で飲んでいたパティシエが犯人という可能性は低いだろう。
「ひとまず私達は次の方の聴取へ行くので、私達が部屋を出たら鍵を閉めておいてください。
そして私が良いと言うまで、決して部屋から出ないようにお願いします」
「わかりました。ところで、名探偵さんはもう犯人がわかっているのですか?
大富豪さんをどうやって殺したかとか、大富豪さんを殺した凶器は何かとか」
「正直に言うと、今の段階では全くわかっていません。
でも、犯人は必ず見つけ出しますよ。それが私の仕事ですから」
「彼の話が本当なら、パティシエさんが犯人の可能性は低いですね」
パティシエの部屋から出ると、医者は私にそう言った。
「そうですね。でもまぁ、弁護士さんの話も聞いてみないと何とも言えませんが」
「そういえばパティシエさんも言っていましたけど、
大富豪さんを殺害するために使用した凶器は何処へ行ったんですかね。
大富豪さんの遺体の近くにナイフは落ちていなかったですし、もしかしてまだ犯人が持っているんでしょうか?」
大富豪の首からは大量の血が流れ出ていたが、
その際に使用したと思われる凶器は未だに見つかっていない。
医者が言う通り、今もまだ犯人が所持している可能性も十分にあるだろう。
「それについても、今のところは何とも言えないですね。
それより、次の聴取に向かいましょうか。
早くしないと、夜が明けてあっという間に昼になってしまう。
それまでには何としても犯人を探し出さなければいけませんからね」
【9-1:弁護士のアリバイ】へと進んでください!




