昨日見た夢の話なんだけど
ここはある博物館。ここがどこにあるのか、何があるのかすら理解できない。上を見上げても、そこには何もない。一面の白、影も線も壁とのつなぎ目もわからない。その先に無限の白い空間があるかのように感じる光景は、空に吸い込まれ、空中に浮いているかのような不安感すらも感じさせる。ただ、ものが見えることから辛うじて光が降り注いでいるのであろうことは想像できる。周りを見渡せば、人影はなく、この博物館自体が芸術だと主張する複雑に配置されたコンクリートの様な仕切り。その仕切りには金縁で飾られた絵画が掛けられ、不規則に置いてある台座には不明な作品が設置されている。しかし、この物体が本当に芸術作品かどうかはわからない。それを見ても、それが一体何なのかすら理解できない。モザイクがかかっているといったものではない。色も形も見えている。けれど、それを認識できない、ただ、それが芸術であるということだけが頭の中で繰り返される。
そして、訳のわからないまま、ただ一人、歩き周り、芸術を見て回る。周りには誰もいない.孤独の中、明確の目的もなくただ歩き続ける。歩き続けているうちに、少しずつその芸術が一体解り始めた気がする...それと同時に少しずつ自分の意識が遠のく感覚に襲われる.少し経てば、意識が遠のく感覚は陶酔感へと変わりゆく...
見回り始めてからの意識があいまいだ...ずっとこの迷路のような展示スペースを歩き続けている.時間の感覚がない.あれから何時間たっただろうか.数日かもしれないし、数分だった気もする.亡者、あるいは幽鬼のようにただ歩くだけ.その中、一つの人影を見つける.人影、今まで一度も見たことがない.近づこう.夏の夜に火に導かれる羽虫のようにふらふらと.その人影が何者なのかはわからない.男か女か、子供か大人か、ただそれは人.それだけがわかる.芸術と違い、それが何なのか理解できる.それに気付いた時、思考が少しはっきりとした気がする。ゆっくりとその人影に近づいていく。近づいていくと少しずつその人影が何なのかわかってくる。性別はわからないが、髪がある。服を着ている。身長は同じくらい。そして、そのぶらんとたれ下げた両手の指の間には持ち手も金属で作られたステーキナイフを3本ずつ持っている。危険だ、明らかに近づいてはならない。毛離れなくては。そう思うが、ぼやけた思考の中では実行に移すことが出来ない。そのままゆっくりと人に近づく。
すると、突然何かが顔の横を通り抜けた。粘性の高い液体が頬をツーっと流れる感覚。目の前の人は右手を振りぬいている。その瞬間今までぼやけていた思考が瞬間的に鮮明になる。逃げる。鮮明になった思考が導き出した結論はそれだけだった。今まで経験したことのないくらい必死に全力で逃げる。急いで駆け出したために、足がもつれこけそうになるがすぐさま体勢を立て直し駆けてゆく。この複雑な壁の配置の美術館だ、一度距離を話してしまえばそう簡単に追いつかれることはないだろうと期待して。だが、襲い掛かってきた”人”を引き離すことはできなかったようだ。教会にある十字架の様な一部分だけ長い十字架上の壁を曲がりかけていた時、銀色の物体が高速で目の前を通り過ぎる。破壊音と壁の破片、粉塵が十字架状の壁から発生していることからあの”人”はナイフ投げでコンクリートを打ち抜いてきた事実に思わず息をのむ。今までの怪奇、壁越しで見えないはずの自分の居場所を見抜かれたこと、ナイフで壁を破壊する力、突然目の前に現れた恐怖に脚は震え、呼吸は乱れ、挙句に思わず立ちすくんでしまう。だが、すぐに死への恐怖が自らを鼓舞する。まだ、生きたいと。そしてすぐさま、その場で振り向き壁から少し離れ左右を確認する。ほんの少し立ち止まったことで愚直に逃げてもすぐに追いつかれてしまう。だからこの十字壁のどちらからか現れたときに現れた方向とは違う方向へ逃げようと考えたのだ。腰を低くして、息を殺し、浅い呼吸を繰り返し背筋が凍るような感覚の中、この一瞬を逃すまいと左右を全力で警戒する。そして、十字壁の中心が爆ぜた。”人”は左右のどちらでもなく、壁を破壊して現れたのだ。ヒッと息をのむと同時に壁と反対方向へ、走り出すのに両手を地面につけていきすらままならない中走り出す。それから、ほんの十数秒、不幸中の幸いか外へとつながっているバルコニーへつながるガラス製の窓と扉が並んだ一本道の廊下へとたどり着く。”人”は一定の距離を保ったまま追いかけ続けているが、まだ生きている。走るペースはそのままにバルコニーへ飛び出し、白い石膏の様な柵を乗り越える。乗り越えた先は、芝の生えた坂になっていてバランスを崩し転がり落ちる。転がった先で周りを見渡すと、アスファルトの地面、生垣、白い軽自動車。あの白い軽自動車には見覚えがある。自分の車だ。記憶がある中で初めて見たみたなじみのものだ。最後の力を振り絞り軽自動車に駆ける。その中、一つ嫌な感覚を感じさせることがある。あの”人”は執拗に追いかけて攻撃してきた。だが廊下に出てから今まで一度も攻撃をされていない。それどころか姿すら見えなくなってしまっていた。しかし、もはやそんな予感など意味はない。急いで車の扉へと駆け寄る。”ドン”実際にそのような音が鳴ったわけではない、そのような音を発したかのような気配を突然背後に感じた。背後を振り返ると”人”がいた。同時に首に冷たいものを押しあてられる感覚も。実際に何が押し当てられているかは見えないが、それが何かを想像することは容易いことだ。その意味を悟り、無意味だと思いつつも言葉を発する。
「どうしてこんなことをするんだ。何がしたい。まだしたいことも沢山あると...」
言葉を言い終える前に”人”の手は降りぬかれる。首の中を何かが通り抜ける不快感。飛び散る赤い液。すぐさま両手で首を押さえる。だがその勢いは止まらない。血液が両手を伝い零れ落ちていく。嫌だ嫌だ嫌だ、それだけが思考を支配する。意味のない思考の中、膝から崩れ落ち、倒れこむ。倒れた視界の中ではアスファルトと”人”の足元しか見えなくなる。やがて、5秒もしないうちに視界が黒く閉ざされていき、意識は途絶える...
実際の夢の中では、襲ってくる人は夢の中だとかわいい女の子でした。