3 偽りの親友
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至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
「わ、私はマリアの親友……話したい事があります……」
「親友?」
「そうです……あの……放課後、屋上で待ってるからっ……」
彼女はそう言うと言葉を返す間もなく、逃げるように走り去ってしまった。一連の出来事に凄く驚いたが、マリアの親友という事は何か有益な情報を知っているかもしれない。こんなにマリアに近い存在から話を聞けるなんて俺は幸運だ。ヤマダ先生よりも交友関係などきっと詳しいだろう。
でもなぜ俺に話しかけて来たんだろう。放課後になれば全てわかる事だ。
それにしても凄く可愛い子だった。例えるなら、小動物みたいだ。類は友を呼ぶとはこのような事だろうか。マリアは可愛いから友達も可愛いのかと変に納得してしまった。「この事件が無事に解決してあわよくばあの子とも仲良くなれないかな」と煩悩がよぎってしまう。
真面目に、少しでも真相が知れたらとも、ちゃんと考えている。
放課後、授業が終わると皆が部活や遊びに行こうとする中、俺は走って屋上に向かった。そこには今朝の女の子がすでに立っていた。後姿が見える。屋上は少し風が強い。彼女は寒くはないだろうか。俺達の他には誰もいないようだ。屋上には何も物はなく閑散としている。彼女は、フェンスに手をかけ、下を見ているようだ。
「あのー今朝の子だよね?マリアの親友の……」
風に声がかき消されないように俺は声を張って話しかけた。
声に反応して彼女は、くるっとこちらを向いた。さっきまで一人で泣いていたのか目に涙をためている。そしてツインテールを揺らしながら小走りでこちらに駆け寄って来た。俺の前で止まるかと思いきや、彼女は両手を広げて向かってくる。俺は腕を閉じてスッと立っていた為、彼女の両腕の中にふわっと包み込まれてしまった。俺はなれない状況に身体が硬直してしまう。今まで彼女が出来た事もないし、女の子に抱き着かれた事もない。こんな状況初めてだ。どうしたらいいものか。上手く息も出来ないくらいドキドキしてしまう。
「どうしたの?」
俺が逆に聞いてもらいたいくらいだが、精一杯カッコをつけて彼女に声を掛ける。彼女は抱き着きながら上目使いで俺を見つめて来た。薄茶色の瞳が綺麗だ。
「ううっ……マリアが……マリアがっ……」
「お、落ち着いて」
「……うん。私の名前はアヤカ。マリアの親友で同じ三年B組。呼び出してごめんね。びっくりしたよね?」
「いや、全然大丈夫です。先輩だったんですね。俺はアツシ。二年です。ごめんなさい。一回離れてもらっていいですか?」
身体がやっと楽になる。
「嫌だった?ごめんね?タメ口でいいのよ?マリアとね昨日から連絡が取れないの。最初は私だけかなって思ったんだけど、他の子も連絡取れないって言ってて。先生に話は聞いたけど私、先生の事は信用してないの。虫の事ばっかり考えてて、いつも適当で生徒の事なんて全然見てないんだから。私が職員室から出た後、アツシくんが中に入っていくのが見えたからアツシくんもヤマダ先生の所、行ったんだよね?本当にマリアの両親から連絡が来たのかも不思議じゃない?昨日マリアの殺害動画が上がってたのアツシくんも知ってるよね?ううっ……」
「知ってるよ。マリアは完全に周りの人達と連絡を断っているって事か」
「そうみたい。マリアが本当に死んじゃってたらどうしよう!私っ……」
アヤカはまた俺にギュッと抱き着いてくる。
「きっと大丈夫だから」
俺はまた硬直しながら声を掛ける。そっと優しくアヤカの身体を押して引き離す。スキンシップが激しい人だ。
「聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「なぁに?」
「さっき三年B組に行ったら、マリアは変わった子だったって聞いたんだけどこんな子だったの?」
「え?」
彼女の空気が変わった気がした。さっきまでのふわふわした雰囲気ではなくアヤカは一瞬だけど怖い顔をした気がした。
「あと、マリアが関わってた人の中で怪しい人とかいなかったかな?例えばSNSのフライとか……」
「マリアはすごくいい子だよ。変わった子ってなんだろう?やっぱり有名人だからじゃないかな?」
ヤマダ先生と同じように彼女は答える。三年B組には何かバレたらまずい事でもあるのだろうか。ヤマダ先生もアヤカも何かを隠しているように見えなくもない。
「あと怪しい人居たかな?フライは私も知ってるよ!有名だもんね!でもマリアがフライの話してるのは見たことないかな。あまり仲良くなかったのかもしれない。ライバルだって言われてるし。あとは、怪しいと言えば……あっ!マリアの元カレとか……」
「元カレ?!」
彼氏がいた事があるなんて聞いてない。あんなに可愛いから彼氏の一人や二人いただろうけど……ショックだった。
「うん。マリアの元カレねDVとモラハラやばかったらしいの。別れるのも大変だったみたい。でも別れたのも随分前だし、今回の事とは関係ないと思いたいけどな。SNSには載せてなかったみたいだから元カレの事はアツシくん知らないよね?」
「知らなかった……。DV、モラハラなんて怪しすぎるでしょ。元カレかー……」
「あっ、ファンの方には衝撃的だったよね?」
「少しね。いや、だいぶショックかな……」
「そっか……ねぇ、アツシくんのタイプってやっぱりマリアみたいな子なの?私みたいな子は嫌いですか……?」
アヤカは少し困った表情で、俺の事を見つめて来る。
「いやいや、からかわないでよ」
俺は両手をふりながら苦笑いをした。アヤカは俺に何を求めているんだろう。
「からかってなんかないもん!アツシくんの事かっこいいなってずっと思ってたんだから……!」
「えぇっ……」
嬉しいけど、俺はからかわれているのではないかとやはり疑ってしまう。だってどう考えてもタイミングがおかしいだろう。でも可愛い。女心が分からない。アヤカはまた俺に抱き着こうと両手を伸ばしてくる。
「ちょっと待ったー!!」
屋上のドアがバンッと開いた。
そこには重たい前髪に眼鏡をかけている男子生徒が立っていた。走ってきたのか息を切らしている。
「うわっ」
俺は驚いて思わず声を出してしまった。アヤカも俺からスッと離れる。これはドラマでよく見る場面なのでは?「僕もアヤカさんが好きです」的なやつなのでは?または、実はアヤカの彼氏で「僕の彼女に何してんだよ」って言うパターンなのでは?
こめかみに冷汗が流れる。しかし男子生徒は俺の予想とは全く違う事を口にした。
眼鏡の男子生徒はアヤカを指さすとこう言った。
「騙されないでください!彼女は……アヤカは嘘をついています!!」
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