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画面の中の美少女へ  作者: 紅井さかな
30/38

29 普通の幸せ

閲覧ありがとうございます。

至らない点があるかと思いますが楽しんで頂けますと幸いです。




俺にとっての「幸せ」は友達が沢山いて、困った時にお互いに助け合って、ふざけ合って馬鹿やって、小さな事で沢山笑って、放課後は遊びに行って……。何があっても俺の事を信じてくれる。そして俺は友達の事を信じられる。信頼できる友達とそんな毎日を送る事。そういう、ごく普通の事だ。



俺はベッドに寝転び、天井を見上げていた。



今日は学校を休んだ。母さんには事情を話さず、体調が悪いと言い、仮病を使った。母さんはすごく心配していたが俺は「大丈夫」とだけ伝え、部屋のドアを閉じた。


朝だろうが昼だろうが部屋のカーテンを開ける事はなかった。だからと言って電気をつける訳でもない。光に当たれば無理にでも元気に動かなければならないような気がして、今はこの暗さに包まれる事が心地良く感じた。自分が自分らしくいられるように守られている様な安心感があった。


少しだけ部屋の中に入ってくるカーテンの隙間から伸びる光も鬱陶しかった。眩しくて、目を逸らした。


ベッドの上はフカフカしている。このままこのフカフカに飲まれて沈んで消えてしまいたいと思うくらいに。





スマホに電源は入れておいたが開くことはなかった。SNSを開いてもどうせ、俺の悪口ばかりだ。想像はできる。流石に自分から傷つきには行きたくなかった。


天井を見上げれば木目やシミが怖い顔に見えてくるし、目を閉じればなぜか、クラスメイト達の顔よりも中学時代のエンドウ先生のニコニコした笑顔が思い出さた。妙に脳裏に焼き付いて離れなかった。


「弱いお前が悪い」


ずっと心の中にエンドウ先生がいて、あのニコニコの笑顔で俺に語りかけてくる。

中学時代の一連の出来事の中でも特に印象強く、トラウマになってしまった出来事なのかも知れない。自分でも気づかなかったが潜在意識が忘れさせてはくれなかったようだ。



俺は中学生の時から、何か一つでも成長できたのだろうか?どこか変わる事ができただろうか?友達と思っていた人にもまた裏切られ、話を聞いてもらえず、信じてもらえるような言葉も出てこない。どこまでも沈んで這い上がる事ができないような悔しさが湧き上がってくる。



環境が変わったはずなのに、同じ事を繰り返しているだけだ。 



何時間もベッドの上で寝転び、考え事をしたり、ボーっとしたりを繰り返していた。俺が今後どうやって生きていけばいいのか考えていた。未来の事を考えると、心の奥底からどうする事もできない大きな不安が押し寄せてきて、吐き気がした。自分はこんなに弱かったのかと痛感する。



今日は、何も答えは見つからなかった。


今日は空は青いのだろうか。手が届きそうなもくもくの雲は浮かんでいただろうか。変わらず太陽は輝いているのだろうか。外の情報は何も得ていない。


部屋の中を見渡せば、俺が今まで大切に集めて来た、俺が好きだった漫画やゲームがある。そしてマリアのグッズがある。好きな物もあれば、片付けきれていない、掃除が行き届いていない場所もある。


部屋の中は俺の心を切り取った一部分だ。


心をそのまま物理化したのが自分の部屋だと思っている。だからあまり人には見せようと思わないのだと思う。見た側は何も感じる事はないのかも知れないけれど。


今までかけがえのない宝物だと思っていた物達も、気分が沈みまくっている今となれば全部どうでもいい。自分が死んでしまうとなれば何も必要ではない。俺が今まで勝手に自分に必要だと思っていただけで、漫画も、ゲームもグッズも俺じゃなくても違う誰かがきっと大切にしてくれる。そう考えると俺は一番何が大切なのかわからなくなる。自分の事なのにわからなくなる。



……ショウは俺の部屋に来た。緊急事態だったとはいえ、ショウはやはり心を、内面を見せられる大切な存在なのだ……。






そうしているうちに、月が夜空を照らし、太陽は眠っていた。外はもう、真っ暗だ。



カーテンの隙間から伸びる光もいつの間にか消えていた。

差し伸べてくれる手が消えてなくなってしまう様に光がスッと消えてしまった。





不意に寂しくなって、なんとなくスマホを取り出した。恐る恐るSNSを開いてみる。しかし、すぐに後悔する事になるのだが。



クラスメイトからの誹謗中傷は思ったよりは来ていなかった。安心したのも束の間、クラスメイト達同士の楽しげなSNSに写真をあげているクラスメイトがいたのだ。心にグサッと刺さるものがあった。


そこにはあの、サトウの姿も写っていた。


一番怖いのは無関心だ。

皆は俺に無関心だ。もう、誹謗中傷を送る価値もないと思われたのだ。会話をする価値もないのだ。


皆はもう俺の存在を忘れている様だった。最初から俺はクラスに存在しなかったかのように、昨日の出来事など何事もなかったかのように画面の中のクラメイト達はキラキラした笑顔で輝いていた。




幸せに楽しそうに笑う人々の顔はどこか遠い世界の話で自分には関わる事の無いものだと思った。自分がそれらになれる事はないし、一生近く事もないと思った。


何か壮大な映画を見た後に伏線を回収しきれず、消化しきれないもやもやが残ってしまったような気持ちだった。



悪循環が止まらず、堕ちていくばかりだった。



そんな時スマホのバイブが鳴った。ショウから連絡が来たようだ。どうやら今日、アヤカと一緒にマリアのマネージャーに会いに行ったらしい。様子が細かく書かれていた。

せっかく連絡をもらったが、もう俺には何もできない。何もしたくない。返信は返さなかった。


ショウとアヤカとも、もう関わらないつもりでいた。でも連絡先を消す勇気もない。


ショウからの連絡の画面を閉じようとすると、操作のミスで写真フォルダを開いてしまった。そこにはマリアの写真があった。俺はドキッとしてしまった。写真の中のマリアと目があったからだ。


やっぱりマリアが好きだ。好きな気持ちは変わらない。でもマリアの事を考えると心がぎゅっと潰されるような後ろめたさを感じるのだった。



俺は逃げている訳じゃない。……違うんだ。俺はただ「普通の幸せ」を味わいだけだ。ショウもアヤカもいっその事俺を嫌ってくれたら楽なのに。


必死で自分にそう言い聞かせていた。




気がつくと俺は眠っていた。夢を見ていた。エンドウ先生の顔でもなく、クラスメイトの顔でもなく、ショウとアヤカそしてマリアと楽しく笑っている夢だった。優しくて心地の良い、覚めたくない夢だった。……本当は現実でもそうなりたいのかもしれない。


自分は何をしているのだろう。何がしたいのだろう。自分から手を離したくせに後悔してばかりだ。



……寂しい。失いたくない。



こんな時間にスマホのバイブが鳴る。また、ショウからまた連絡が入った。ショウは寝ていないのだろうか?





「アツシくんと話がしたい。どうしても……」





俺にしかできない事もあるのだろうか。……好きという気持ちがあるならばそれだけで充分じゃないか?もう一度歩み寄ってダメならまた方法を探せば良いいのか。



悩んでいる事にも疲れた。悩みすぎて進めないのだ。それならもう悩む必要はない。俺は俺の「幸せ」を探す。



カーテンの隙間からまた光が入っていた。ゆっくりとベッドから起き上がり、優しくカーテンを開ける。太陽が眩しかった。



朝がきた。俺はスマホの送信ボタンを押す。




「やっぱり俺も話したい」





最後まで読んでいただきありがとうございました!

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