24 何かがおかしい
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただければ幸いです。
アヤカとショウと話して気持ちがとても引き締まった。
ショウはマリアの件がなければずっとフライとして身を隠して活動していただろうに、本気の覚悟を感じた。
チャイムがなったので、それぞれの教室へ戻ろうと解散したのだった。
マリアに何があったのか真相を知るためにこれまで何人もの人に話を聞いてきた。有益な情報はいくつかあったけど、まだ謎も沢山残っている。俺達は真相に近づけているのだろうか。マリアを見つけ出す事ができるのだろうか。
そんな事を考えながら、俺は授業に遅れてしまうと急ぎ足で自分の教室のドアを開けた。
……ガラッ。
クラスメイト達が一斉に俺の方を見る。勢いよくドア開けたせいで皆を驚かせてしまったか?しかし、いつもはそんな時、皆と目が合うのなんて一瞬で何事もなかったかのように皆すぐ自分の活動を再開するのに今日は違った。違う気がする。ずっと目があったままだ。窓際の席のサトウとも廊下側の一番後ろの席のシマダさんともずっと目が合う。皆時が止まったようにこちらに注目している。
何かがおかしい。
俺の顔に何かついている?服装がおかしい?
「皆、どうした……」
俺はこのどうにも言えない気まずい空気を何とかしたいと皆に問いかけようとした。その時、窓際の席のサトウが勢いよく立ち上がり、俺の言葉をさえぎるように言った。
「お前、よく平然としてられるよな。怖っ」
何の事だ?
そしてサトウは黒板を指差している。黒板に大きく文字が殴り書かれてあった。
「アツシは変態。マリアの犯人」
俺は状況が読み込めず言葉を失ってしまった。黒板にゆっくりと近づき、目を見開いて文字をまじまじと見つめる。
「お前何なんだよ!!」
またサトウの声だ。俺は振り返った。黒板側に俺はいる為、さっきのドアの方にいた時よりも、皆の視線がより一層感じられる。痛い。強い。怖い。
そしてサトウは自分のスマホで何かのページを開いて、それを俺に向けて振りながら、睨みつけるような顔で言った。
「マリアのファンアカウントアッくんってなんだよ。マジウケるんだけど。キモっ」
サーっと血の気が引いていく。誰にも話していない。バレないように気をつけていた。なのに何故知っている?
そして、サトウに便乗するようにクラスメイト達が口々に俺に向かって言葉を吐き捨てた。
「薄情者」
「本当何考えてるかわかんないよね」
「お前がマリアを殺したんだろ」
「気持ち悪い」
「アツシが死ねばいい」
俺は静かに後退る。
「……違う。違う。違っ。……何で?」
誰も答えない。クラスメイトの視線はずっと変わらず俺に向いている。怖い。あの時と同じだ。中学生の時のあの時と同じような目を皆している。記憶がフラッシュバックした。
俺は教室を飛び出してしまった。
呼吸も上手くできないくらいに走った。誰の手も追いつかぬように。鞄も財布も教室に置いてきた。充分に気合いが入ったはずだった気持ちも置いてきてしまった。心が徐々に黒く染まっていく。怖い。苦しい。逃げたい。その気持ちだけが今の俺の心も頭も埋め尽くしていた。
鞄はどうしよう。クラスメイトに捨てられるか、ゴミでも詰め込まれるかな。今日は取りに戻れない。あの空間へは行きたくない。皆が下校した後の時間を狙おうか。手元に残っているのはスマホだけだった。運良くポケットに入れていた。
財布もない為、どこの店にも入る事が出来ず、1人で近くの河原に来た。雑草の匂いが鼻にツーンとくる。俺はひと気が少なそうな場所に腰掛けた。と言っても、平日の朝や昼間なんて元々人が少ないが。草原や芝生に座るのは気持ちいと聞くがそんなの嘘だ。チクチク刺さるだけで気持ち良くも何ともない。ただ、心地よい風は感じられた。
しばらくボーっと空を見ていた。雲が流れて行くのってこんなに早いんだっけ?嫌な事があった時は空を眺めていれば忘れられると誰かが言っていたのを思い出した。忘れる事はできなそうだけど少しだけ心に余白が出来た気はした。
サトウはクラスの中では結構話す方で、前に二人で遊びに行った事もあった。なのに、サトウが皆の代表としてあんな事を言って来るなんてショックだった。俺はサトウを信じていたけど、サトウは何一つ俺の話を聞かなかったし、信じてくれなかった。
でも、何でこうなってしまったのだろう。俺のアカウントを知っているのはショウだけ。アヤカも知っていたかもしれない。
ショウかアヤカが皆にバラしたのか?でもそんな事するメリットはあるか?
サトウがたまたま俺のアカウントを見つけて面白半分でやった可能性もある。……いや、それはやはりありえない。俺は本名も、写真などもいっさい載せておらず、個人を特定する事は不可能に等しいはずだ。
他に心当たりはない。もしかしたらトモキにURLが送られてきたときのように全く知らない誰かがやったのかもしれない。
しかも、アカウントをバラされただけではなく、クラスメイトの皆はあたかも俺が犯人だと言うような感じだった。
登校してきた時は普通に接してくれたのに、俺がショウやアヤカと話していた数十分の間に何が起こったのだろう。
俺を犯人に仕立て上げるような事をした人物は、俺がマリアの事を調べているのを知っている人物だろう。
これ以上マリアに近づくなと言う警告だろうか。だとすればこれまで調べていた事は無駄ではなく、真相に近づけていたと言う事だろうか。
犯人は俺の事を知っているなんて驚きだし、意外と身近な人が犯人だったりするのか?
いろいろ考えても何もわからない。頭がパンクしそうなだけだ。一つ言える事は俺が学校に行きにくくなってしまったと言う事だ。俺がマリアを殺した犯人と言う、根も歯もない噂がもっと広まれば家にもマスコミが来たりするのだろうか。母さんになんて話そう……。
さっきからスマホのバイブ音が止まらない。俺は気持ちが沈んだままスマホを開いた。沢山の通知が来ている。全部クラスメイトからの誹謗中傷だった。学校で言われたような「変態」、「犯人のくせに」、「死ね」などの内容だ。直接メールアドレスに来ている物もあればSNSのアカウントに書き込まれている物もあった。今の状況を全く知らない、関係ない俺のフォロワー達も大混乱している。きっともう、このアカウントは使えない。
「様々な憶測が流れていますが、俺は犯人ではありません。信じてください」
最後にそう書き込んで、スマホの電源をおとした。
いっぱいいっぱいだった。
ショウとアヤカにも連絡する気力が残っていなかった。
……こんな事をして何になる。俺がどれだけ頑張ってもマリアは俺の顔も名前も知らない。
ショウやアヤカはマリアと面識があるが俺の事は何一つわからない。きっと報われない。
もう、いっその事マリアの犯人探しや行方を追う事なんてやめてしまおうか。
マリアに救ってもらった命だけど、こうなってしまっては元も子もない。このまま追い込まれれば俺は今度こそもう耐えられない。
俺が頑張らなくても警察の人が何とかしてくれる。うん、そうだ。元々素人が首を突っ込む問題じゃない。
完全に悪循環に陥っていた。
俺が消えてなくなった後の事を考えてしまう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




