1 消えた美少女
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
昨晩、一人の少女の殺人動画がネットに上げられていた事などまるでなかったかのように平然と朝はやって来た。
いつも通り太陽が眩しい。
今日も画面の中の美少女達は、おしゃれなカフェのカラフルなスイーツの写真をネットにアップし、ハイブランドのアクセサリーやバッグを身に着けている。華やかでキラキラしている。
目を逸らしたくなる程に。
俺はスマホの画面をそっと閉じた。可愛い、綺麗、セクシー、そんな感情を通り越して彼女達を見ていると自分に劣等感しか湧いてこないから。何で自分は頑張ってもこんなに何もできなくて、もさいのだろうと思ってしまう。彼女達だって精一杯生きているのは分かっている。性別も違うし住んでいる世界も違う。それでも自分と比べてしまって苦しかった。これは嫉妬に近い感情なのか。きっと美少女達から見れば俺なんてただのゴミだ。
でも、俺の中でマリアだけは違っていた。
俺の名前はアツシ。高校二年生だ。
俺は昨夜の一連の騒ぎはリアルタイムでスマホで見ていた。
俺はマリアの大ファンである。SNS上にファンアカウントを持っており、フォロワーも二千人ほどいるためファンの間ではちょっとした有名人だ。
朝、目覚めたと同時に重たい身体を動かしてスマホを見ている。
俺のアカウントにはマリアを心配する声や意見を求めるメッセージがいくつも届いていた。一つ一つに目を通す。
俺は今回の騒動を自分の力で何とかしたいと考えていた。マリアの身に何かあったのか。無事なら何よりだが、なぜあのような動画が投稿されたのか知りたかった。誰かの為にでもなく、何かメリットを考えた訳でもなく、いつも俺達ファンに元気をくれるマリアの為に何か力になりたいと思ったのだ。自己満足でしかないと言われればそれまでだが。
マリアの影響で俺は花に興味を持った。マリアはよく花の写真と一緒に花言葉も添えていた。今回は花言葉を載せていなかった為俺は自分で検索した。そこで「白いスミレ」の花言葉が「乙女の死」だという事にたどり着いたのだった。
俺は自分の顔をアカウントには載せていなかった。同級生達は俺がファンアカウントを持っていると知らない。恥ずかしいから隠していた。
学校へ登校するとクラスメイト達がマリアについて話しているのが聞こえた。
「ねぇ、昨日のマリアの動画見た?」
「見た見た!やばいよね!」
「でもその後、普通に花の写真を投稿してたし、ドッキリだったんでしょ?」
そんな会話が教科書を整理していると耳に入ってきた。やっぱり皆昨日の出来事は大した事ではないと思っているようだ。
マリアは同じ高校の三年生だ。学校中の生徒、先生はマリアの存在を認識している。しかしマリアはSNSの案件など仕事が忙しいのかあまり学校へは来られていないようだった。学校へ来ても、いつも同性の友達に囲まれていた。
俺はマリアが最悪殺されているか、身動きが取れない状況にされて、アカウントも操られているのではないかと考えている。誰かと協力して解決しようとは思っていない。話した所で、明確な証拠はないし自信もない。茶化されると思ったからだ。
俺は自分の席に腰掛けるとスマホを開いた。もう一度マリアのアカウントを見てみる。昨夜の「白いスミレ」の写真が投稿されてから、アカウントは何も動いていない。
マリアの過去の投稿にも目を通す。殺人動画が上がった前日までの投稿は変な所は特にない。友達との楽しそうに流行りのポーズをとっている写真や、購入品の写真が上がっている。至って普通に見える。
マリアはハイトーンのロングヘアが特徴的だった。ミルクティー色と言うのだろうか?目鼻立ちも整っていて、花も好きでSNS上では「ネットに舞い降りた天使」と言われていた。
しばらく見ていると一つ気になる点があった。
マリアの殺人動画が投稿される少し前くらいの時間だろうか。マリアがSNS上で交流している人物がいた。それは「フライ」という人物だ。フライの「月が綺麗ですね」と言う投稿に「私もそう思います」とメッセージを送っていたのだ。
フライもまた、マリアと同様インフルエンサーとしても活躍する大人気の女の子だ。フライは黒髪のロングヘアに黒を基調としたファッションが特徴的な人物だ。
マリアが「天使」と言うならばフライは「小悪魔」と言った感じだろうか。
マリアとはライバル関係にあるとネット上では囁かれていた。確かに二人が交流している所を今までに見た事がなかった。なぜこのタイミングでマリアはフライの投稿にメッセージを送ったのか。フライが何か殺人動画に関係があるのだろうか。フライのアカウントもまた、昨夜から動いていない。「月が綺麗ですね」の投稿が最後だ。俺はフライを容疑者の一人として考える事にした。
画面ばかり見て考えていてもしょうがない。もしかしたら、もしかしたらだけどマリアは今日学校へ来ているかもしれない。そしたら昨日の出来事はやっぱりドッキリで、俺の悩んでいた事はただの考え過ぎだったという事だ。全て解決する。
少しの希望を抱いてマリアの所属するクラス、三年B組に様子を見に行った。このような事態とはいえ、マリアに直接会いに行くとなると緊張で汗をかいてしまう。気持を落ち着かせようと深呼吸をした。
汗ばむ手をぬぐって三年B組のドアを開ける。そこには昨日の出来事など何もなかったかのように平然と過ごしているマリアのクラスメイト達が居た。あまりにも皆普通過ぎる。
違和感を覚える程に。
俺は手前に居た女子生徒に話しかけた。
「あの、マリアさんてまだ学校来てないですか?」
「え?マリア?知らなーい。これから来るんじゃなぁい?」
女子生徒はやっぱり昨夜の動画の事を知らないのだろうか。何も気にしていない様子で軽い口調で答える。
「昨日、マリアさん変な様子とかなかったですか?」
「えー?変って言うか……うーん……いつも変わってるしね、あの子」
「え?どう言う事ですか」
「それはー……ウチ、もう忙しいから行かないと!」
「ちょ、ちょっと!」
女子生徒は近くにいた、友達の腕を掴んでそそくさと行ってしまった。目が泳いでいるようにも見えた。何か隠している?話したくない事でもあったのだろうか。全て怪しく見えてしまう。
マリアが変わっているとはどういう事だろう?ネット上で人気者だから、皆とは違うと言う意味だろうか。
俺はマリアがこの高校に居るとは知らずに入学した。廊下で初めてすれ違った時は幻を見たのかと目を疑った。顔が小さくて、肌が真っ白で、サラサラの髪で他の人とは全く違うオーラを放っていた。圧倒的存在感があった。そしていつも友達に囲まれてニコニコしていた。
俺にはマリアが皆に好かれているように見えた。どこが変わっていたと言うのだろう。
俺は根性がなく自分からマリアに話しかけに行くことが出来なかった。画面越しに見ていた大好きな人がこんなにも近くにいるのに。少し手を伸ばせば届くかもしれないのに。恐れ多くて行動できなかった。
こんな事になるなら頑張って話しかけていればよかった。いつも後になって後悔する。
マリアは学校へは来ていない。
やはり昨夜、絶対に何かあったのだ。でもまだ、亡くなったとは考えたくない。
そうだ。先生なら何か知っているかもしれない。体調不良や、仕事で登校していないという線もまだ考えられなくはない。
俺はマリアのクラスの担任のヤマダ先生に話を聞こうと職員室へ向かった。
ヤマダ先生もまた、変わった噂が付きまとった人物である。
最後まで読んでいただきありがとうございました。