15 デジャブ
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
「アツシくん、遅いですよ……?」
そう言って微笑むショウを見て、無意識に右足が一歩下がる。
デジャブだ。
マリアの写真の件とショウの今の姿が重なってしまった。もしかしてマリアの事件にショウは関係していた……?花束が少しだけボロボロなのも気になる。
そして俺は今、何かの口封じのために殺されるのではないかと勝手に妄想してしまった。
「アツシくん?」
ショウが首を傾げ、近づいてくる。俺が一歩下がる度に、ショウは一歩と近づいてくる。
「どうしたんですか?顔色悪いですよ?あ、こんな時間に呼び出してすみません。都合大丈夫でしたか?」
後退る俺の様子なんかおかまいなしと言わんばかりに、ショウは心配の眼差しを向けて来た。その眼差しが逆に怖い。怖くて手が汗ばんでしまう。
「あ、あの……その花なんだよ」
恐る恐る声に出す。
「あ、これですか?この花は……」
俺は唾をごくりと飲む。
「この花は、お母さんに上げようと思っていたんです!ボロボロになっちゃいましたけど……」
「へ?」
思ってもみなかった答えに唖然としてしまう。
「え?だって紫色じゃん!」
「はい?紫色ですけど……アツシくん随分、テンパってますけど大丈夫ですか?」
「だってマリアの……」
「マリア?この紫色の花は桔梗ですよ?何かマリアと関係ありましたっけ?」
焦りすぎてうまく言葉が出てこなかった。暗くて色しか見ていなかったが、確かに「スカビオサ」とは花びらの形が全然違った。俺は落ち着くために深呼吸をした。
「じゃあ、血が出てるのと、眼鏡が壊れているのは?」
「これは……話せば長くなります。でもこれを話すために、アツシくんを呼んだのです」
「やっぱり、マリアの……?」
「マリア?マリアが関わっていると言えばそうかもしれません。という事で今日はアツシくんの家に泊めてもらえませんか?」
「へ?」
俺は状況が上手く読み込めなかった。ショウのペースに乗せられ話がサクサクと進んでいく。
「では、行きましょう!」
「ちょっと、待ってよ。意味が分からないんだけど」
「そうですよね。すみません、でも今は僕もちょっと意味が分からない状況なんです」
「どういう事?」
「このまま歩いていたら、僕、殺されるかもしれません」
「え?何で?」
「ここは危険ですので移動しましょう。とりあえず今言える事はそれだけです」
全く意味が分からなかった。ショウは何に追われているのだろう。少し変わっているけど、穏やかな性格のショウが誰かの恨みを買うとも思えない。
ショウは真っ暗な公園の中を速足で歩く。その様子は普通ではなかった。「マリアが関わっていると言えばそうかもしれない」という事は何かに深入りしすぎて追われているのだろうか?ショウが犯人という事はなさそうだし。
速足のショウに俺は急いで追いつくと、軽く肩を叩いて言った。
「ショウの事、信じていいんだよね?」
「信じるも何も、僕はアツシくんが嫌がる事は絶対にしません」
ショウはきっぱりと言い切った。嘘をついているようには見えなかった。
「……急に家に来たがるのはどうなの?」
「今は非常事態なんです!!すみません」
会釈をし、苦笑しながらも、凄く焦っているように見えた。ショウは周囲を気にしているのか、キョロキョロと挙動不審になっている。
俺はショウを信じる事にした。今まで自分も沢山ショウに助けてもらったし、ショウが困っているのなら、力になりたいとは思っている。
「じゃあ、急いで帰るか」
「ありがとうございます!」
俺は家の明かりを目指して、まとわりつく暗闇を払いのけながら全力で走った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




