14 不審な仲間
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
マリアのフォロワーを見ていると怪しい人物を見つけた。
名前はトシカズ。年齢は四十代後半だ。
トシカズのアカウントには鍵が掛かっており中は見られなかったが、本人らしき人物の顔写真がアイコンになっていた。そして、マリアの方からメッセージを送っている様子があった。相互フォローでないと鍵付きのアカウントとのやり取りは出来ない。その為、マリアとトシカズはそれなりに親しい仲という事になる。
マリアはファンへのフォロー返しは普段はほとんどしないのだ。
「マリアはモラハラの元カレがいて、おじさんともやり取りしててどんだけストライクゾーン広いのよ。流石にマリアが大好きでもびっくりしない?」
アヤカが眉をしかめ、困った表情で言った。
「自分がどれだけマリアの画面の向こうの姿を知らなかったかって言うのはつくづく実感していますよ。それと、どれだけ自分が理想を抱いていたのかという事も……」
ショウも腕組みをしながら答える。
確かにアヤカとショウの言う通りだ。マリアが居なくなって、初めて知った事が沢山あった。元カレが居たことも、理由があるとしてもおじさんと関わっていた事もショックではないと言えば噓になる。
俺はマリアに理想を抱いて、理想の中のマリアが好きだっただけなのだろうか。
しかし、マリアに救われたのは事実だし、マリアを信じたいと思っている。
「俺もショウと同じだよ。……でもマリアを信じたい。何か事情があって、そうならざるを得なかったのかもしれない」
「……そうよね。変なこと言ってごめんね」
「僕も信じたいです」
こうして容疑者をヤマダ先生、トシカズ、メールの送り主、フライに絞ることが出来た。
時間はあっという間に過ぎ、気づくと夕陽が空を赤く染めていく所だった。ショウとアヤカとは一通り話がまとまった為、今日は解散する事となった。
またすぐに、皆で集まれるのだろうと俺は思っていた。
その晩、俺はベッドに寝ころびながらスマホを見ていた。ネットの中ではマリアを心配する声が飛び交っていた。俺は気持ちを紛らわせるため、SNSを閉じ、アニメを見る事にした。ショウが言ってた、魔法少女のアニメは面白いのだろうか。
ブッー。
俺のSNSのアカウントにメッセージが届いたようだ。俺は驚きのあまり目を見開いた。
送り主はフライだ。
連絡が取れないのではと半ば諦めていたから嬉しさと驚きで心臓がドクっと動いた気がした。
『こんばんは。
マリアの事、お話しします。明日の月が昇るころ、お会いできるのを楽しみにしております。きっと私を見つけられるでしょう』
どう言う事だ?場所も時間も曖昧なのに見つけられる訳がない。初対面になるのに不思議な人だ。
『お返事ありがとうございます。詳しい日時を伺ってもよろしいでしょうか』
俺は思った事をそのまま送った。
そしてフライからの返信を待つことにした。フライはマリアの事を何か知っている。その事実はこれで確定な訳だ。何か有益な情報が得られるといいのだが。ショウとアヤカにも報告しなければならない。
フライからの返信を待ってる間、俺は何気なくSNSを開いた。すると、また目を見開くほどに衝撃的な事が起きた。
マリアのSNSに新たな写真が投稿されたのだ。
文章はなく、ただ一枚の写真だけが投稿されていた。
それは目を閉じたマリアの口元に紫色の花が添えてある写真だった。マリア本人が投稿したのか、黒服、またはトモキのように第三者が何らかの理由でアカウントを動かしたのかはわからない。
マリアは目を閉じているため、生きているのかも、亡くなっているのかもよく分からない。写真は顔がアップで背景は真っ暗なため、その場の状況も良く読み取れなかった。
俺はすぐにその紫色の花を調べた。
花の名前は「スカビオサ」。花言葉は「不幸な愛」、「私は全てを失った」。
花言葉の由来は、諸説あるようだが、ギリシャ神話で大量の血を流して死んでしまった美少年のその血から紫色のヒヤシンスが咲いたという言い伝えに由来するそうだ。相変わらず意味深な花言葉だ。
画面の中のマリアの顔は以前と変わらず、見る者を魅了する美しさだった。
ブッー。
着信だ。相手はショウだ。
「もしもし?アツシくんですか?今から出られますか?」
「え?今?」
時刻は九時を回っている。
「明日休みだし、出られるけど……どうした?」
「大事な話があるんです。公園の自販機の近くに居ます」
「あ、ちょっと……!」
要件を話すと電話はブチッと切られてしまった。ショウは何だか小声で話していたように聞こえる。
どうしたのだろう。マリアの写真が投稿された直後だし、その件で何かあったのだろうか。
俺はとりあえず、言われた通りに公園の自販機を目指して出かけた。
公園は真っ暗で人気がなかった。昼間は賑やかな明るい場所なのに、夜の公園は、なんだか闇に飲み込まれてしまいそうな空気を放っているようで恐ろしく感じた。
遠くの方で自販機の小さな明かりだけが目立っている。そして人影が見える。ショウだろうか。俺は手を振りながら近づいた。
「おーい!ショーウ!」
人影は動かない。高校の制服を着ているし後姿は確かにショウだ。
俺はその人影に恐る恐る近づき肩を叩いた。
「ショウ?」
ショウがゆっくりとこちらを振りむく。
「ひっ……!」
俺は思わず声を上げてしまった。ショウの眼鏡のレンズにはひびが入り、何故か口元からは血が出ている。
そして左手には紫色の花が入った花束を持っていたのだ。俺は「スカビオサ」の花言葉の由来が脳裏によぎった。
ショウがいつものように微笑みながら言う。
「アツシくん、遅いですよ……?」
最後まで読んでいただきありがとうございました。