10 歪んだ愛
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
「マリアの殺害動画だってあなたがやったんでしょ?私知ってるんだから……」
「「え?」」
俺とショウはトモキに視線を向けた。トモキが全ての犯人……?
「何言ってんだよ!何も知らない!俺は悪くない!サホは嘘をついているんだ!!」
「サホさん、どういうことですか?」
「……その日はトモキのお家でデートしてた。トモキはソファーに座って休んでて、たまたま私が後ろを通ったの。そして見てしまったの。トモキがマリアの殺害動画を投稿している所を。トモキの事だから本当に殺人なんてやりかねないし、怖くて誰にも言えなかった」
サホが話している時の表情は嘘をついているようには見えない。
トモキはその話をされて青ざめている。もしこの話が本当なら、マリアを探し出す以前に、証拠隠滅として俺達全員がこのままやられる可能性だってある。俺は恐る恐る口を開いた。
「……トモキさん。それは本当なんですか?」
トモキはごくっと固唾を飲んで答えた。
「……マリアが中々会ってくれないからカッとなって、今すぐ来ないなら殺すって送ったんだ。そしたら本当にあんな事になるなんて……俺は何も悪くない!!」
トモキは手の震えがひどく、脅えているように見える。
「何があったんですか?」
「……その後知らないメールアドレスから連絡がきて、「あなたのお望み叶えました」って書かれていて、URLが添付してあったんだ。最初は何の事か良く分からなかったし、悪戯かなって思ってそのURLを押してしまった。そしたら自動的にあの……マリアの殺害動画が……マリアのアカウントに勝手に投稿されて……怖くなってすぐ閉じたんだ。そしたらもうログイン出来なくなってた。そして動画も勝手に削除されてた……その一部をサホに見られたんだと思う。
俺は何も悪くない!俺は……!!」
「わかりました。落ち着いてください……」
トモキは知らない間に犯行を手伝わされただけって事か。
俺はショウと目を合わせた。ショウは軽くうなずくとトモキに話しかけた。
「そのメールアドレスの送り主を調べたいので、コピーして僕に送っていただけませんか?トモキさんは本当に送り主に心当たりはないのですよね?」
「君達みたいなダサい奴らに調べるなんて出来るのか?」
「こんな時でさえ一言多いですねー」
流石のショウもしびれを切らしたのか思った事が口に出ている。腕を組んで軽くトモキを睨みつけているようにも見える。
「だって、マリアが俺と別れてから、周りに男が何人かいたみたいだった。君達みたいなのがどうにか出来るようなものじゃないと思うけどな……。周りの男との関係とか詳しくは知らないけどパパ活とかも絶対してたよ……マリアの殺害動画の件があった日から、マリアとは全く連絡が取れなくなったんだ……怖い……俺は……俺は悪くない……」
トモキは情緒が不安定な様子だ。
サホの話を聞くからに、元々精神に何かを抱えているのだろうとは思うが。誰にでも少なからず二面性はあると思う。しかしそれが、暴力や暴言につながるのはいけない事だ。ましてやそれで誰かを支配しようとするなんて。どんな事情があれど、絶対に許される事ではない。
恋人同士と言うのは対等に、尊重しあってこそ続けられる関係だと俺は思っている。
どちらかが上で、どちらかが顔色を窺わなければならない関係なんておかしい。俺は彼女がいた事はないけど……。
サホが静かに立ち上がった。
「あのっ!!今日は本当は別れ話をしようと思っていたの。もう私とトモキは何も関係ない。今から他人よ。アツシくんとショウくんのおかげで全部話せてすっきりした。ありがとう。勇気が出せた……本当にありがとう。一人じゃ話せなかった」
「別れ話?」
トモキは驚きのあまり、目を見開いている。
「そうよ!大体あなた、写真と、実物の顔が違い過ぎるのよ!あなたみたいなゴリラ顔のモラハラ加工厨はもううんざりよ。さようなら……!」
そう言うとサホは振り返りもせず、部屋を出て行ってしまった。潔く去っていくサホの姿はとても清々しかった。
「サホっ!待てよ……!」
トモキは荷物を急いでまとめると、サホを追いかけ、走って部屋を出て行ってしまった。
ショウと俺は部屋に取り残されてしまった。
トモキとサホに聞きたい事は一通り聞く事が出来た。そして新たに有益な情報も得る事が出来た。それはとても良かった。
……しかしグラスの破片が床に散らばっている。残された俺達で片付け、店員さんに謝罪しなければならない。割った張本人たちは帰ってしまったのだから……。ショウも同じことを思っているのか、真顔で床を見ている。そしてチラッと俺の方を見た。
「あはは……凄かったですね。……で、お代は全部僕達が払うって事でしょうかね……?」
きっともう二人とも戻って来ないだろうし苦笑するしかない。後の祭りだ。
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