ニューヨークとハンプトンズから始まる不思議なロマンス
何もかもなくしたはずのメアリー。でも、その先にあったのは、メアリーだけが知らないハッピーエンドへの始まりだった。
避暑客が消える9月半ば。私は、仕事と同時に恋人を失い、最低の気分だった。ニューヨークのアパートから、ハンプトンズにある両親の家に向かって車を走らせていた。
マンハッタンの東を橋かトンネルで渡ると、ロングアイランドの端に出る。途中からフォークのように南北二手に分かれた南側の突端が、モントーク岬だ。
両親の家は、南北に分かれる基点の南側の町、サウスハンプトンとモントーク岬のちょうど真ん中あたり。
マンハッタンのニューヨーカーにとって、ハンプトンズと呼ばれるエリアに別荘を持つことは、成功を意味する。といっても、私の両親の場合は、父の祖父の代から引き継がれたものだ。
成功の証というなら、数エーカーもあるお隣だろう。プールはもちろん、テニスコートやヘリポート、乗馬ができる馬場もある。持ち主はマンハッタンで大きな画廊を経営し、9月すぎまで芸術家風の人々が次々と出入りする。だが、今年はひっそりしている。
ハンプトンズは、落ち着いた秋の気配だ。
裏手にある緑の切妻屋根が美しい家は、“バラ屋敷”。そこに住む女性が、庭一杯にバラの花を咲かせていた。だが、彼女はフロリダに引越したという。
両親の家のドライブウエイに車を止めた私は、マンハッタンの空気を吐き出し、裏手にあるバラ屋敷から漂うバラの香りを大きく吸い込んだ。
バラ屋敷の横を抜けて走れば、海まで30分。
「よし!!」
重い気分を晴らすには、体を動かすのが一番。
ランニングシューズに履き替え、車を降りる。裏庭のブッシュを抜け、バラ屋敷の脇道に出た。