表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくりきるけれころし  作者: 蜂矢ミツ
2/6

七番目の子ども

 人の価値、とやらを決めるのは、一体何なのだろうか。


 そもそも、人が人の価値を定めることなどできるのか。そんな風に思うが、俺のまわりの人間たちにとっては、明確な基準があるらしい。

 少なくとも、俺は二番煎じ、ただの落ちこぼれである、と言い切れる程度には。


 俺には、兄がいる。


 正確には兄弟姉妹は数えれば上に六人いるが、生物学的に父母が一致している兄弟は、一人だけだ。


 名前を、()(いち)という。数いる兄弟姉妹の一番上の、一番優秀といわれる兄だ。


 対して俺は、(しち)という。


 いろいろつくったが、一番上がやはり一番すばらしい。

 ならば、同じものをもうひとりつくろう。


 そうして生まれたのが俺だ。


 期待され、待ち望まれ、兄とは違い逃げ出さないようしっかり首輪を用意され。

 そうして生まれたのが俺だ。


 しかし、兄のような特別なことは全くできなかった。兄と同じで、手先は結構器用だが。


 期待したことが全くできないとわかると、大人たちの扱いはひどいものだった。


 雑な飯、冷たい寝床、過剰な学習に労働、浴びせられる罵声。

 まるで、価値のないものにはお似合いだ、とでもいうかのように。


 ここではないところに行ければ、それなりに生きられるだろうな。


 兄がかけてくれた言葉だ。

 唯一しっかり血の繋がった俺を、家族と思ってくれていた。

 心配し、時々こっそり会いに来てくれたのだ。


 俺は兄が好きだった。尊敬していた。

 そして少し、嫉妬もした。


 俺にない才、自由、人格、全てを持っていた。

 彼のようにありたいと思い、愚直に努力をしてきたおかげで、俺もそこまで腐らずに生きてこられた。


 そんな兄が、変わってしまった。

 あんなに毛嫌いしていた家に帰ってきた。あまつさえ、家からでなくなった。


 かつての澄んだやさしい目ではなく、重く濁った泥のような目をしていた。傍らには、赤い目をしたいやらしく嗤う男が、いつもいた。


 『瑠璃』を、つくるのだと。


 そう言って、子どもをたくさん攫ってきた。

 子どもをたくさんころして、人形をつくりだした。


 切りもなく、延々と、地獄のような光景が繰り返される。


 空虚な表情の、なんの心も持たないまま動く人形が量産される。

 失敗だ、また失敗だと、その手が止まることはない。


 大人たちは、喜んでその失敗作を持って行った。どんどんつくれ、と次々と子どもを攫ってきた。


 信じられない。


 信じたくない。


 人は、こんなにも、こんなにまでも、変わってしまえるものなのか。


 眩暈が、吐き気がおさまらない。


 彼のようにありたいと、いつも思っていた。


 今の彼のような人間には絶対になりたくないと、そう思って生きてきた。



 なおも続く地獄の中、うつくしい人が連れてこられた。


 強い目をしていた。その背に愛する者たちを負い、朗々と語り続けていた。


 自分が指した子どもたちがしんでいく、目を背けずにはいられない光景を、静かに見つめ続けていた。


 やがて、子どもたちがいなくなり、そのうつくしい人と、彼女の愛する者たちだけが残った。

 彼女は、赤目の男の悪夢のような提案を受け入れた。


 まず、脚が断たれた。

 叫び、のたうち回っていた。


 それでもその目は生きていた。


 それから、腕を絶たれた。

 もはや動くことすらできずに転がっていた。


 それでも、その目は家族を見ていた。


 彼女はそれでもしななかった。

 約束は守られ、家族は解放された。


 安堵と、諦めの表情が浮かぶ。

 赤目の男は満足そうに、彼女を丸い箱の中にしまった。


 その後、新しい子どもが連れてこられて、赤目の男の興味が逸れた。

 丸い箱は、部屋の隅へと押しやられた。


 怒りが沸いた。


 なぜ、こんなところで、動けずになにもできないまま、突っ立っているのだと。


 兄のような力はなかった。それでも、愚直に努力しつくり上げてきた。


 ここから逃げ出すために。


 首輪を切るナイフを。


 鎖さえちぎり、なんでも抱えることのできる籠手を。


 誰にも追いつかせずに、走り抜けるための靴を。



 きっとすべては、この時のために。


 走り出す。


 丸い箱には、思った以上にたやすく手が届いた。


 誰にも止める暇は与えない。



 箱をかかえて、腐った家を飛び出して、ひたすら走る。


漆くんは、美子ちゃんをたすけられるのか!?

それは次の次の話で。


Next>青い目の子ども

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ