うつくしい子ども
前作>『る、る、る、る、る、る、る』の続きです。
よければそちらからどうぞ!
そんなのメンドクサイ!という方は、こっちだけでもたぶん楽しめるはず?
から、くり、きる、けれ、こーろ
から、くり、きる、けれ、こーろ
歌を歌っている。
機械的で、無機質で、心のない歌を歌っている。
から、くり、きる、けれ、こーろーし!
首が飛ぶ。
私が選んだ子の、首が飛ぶ。
「あはは! とってもきれいに切れた!」
目の前では、その醜く赤い目を輝かせて、男が手を叩いて喜んでいる。
「かわいそうだねえ、でも仕方がないよねえ」
にやにやと、醜く笑っている。
「だってきみに、選ばれてしまったんだもの」
暗に、私がころしたのだと。
そう言いたいのだろう。ますますいやらしく笑いながら、男は満足そうに歩き回った。
「さあ、次はなにをお話ししてくれるのかな? とびきり可愛い話がいいね!」
千夜一夜物語が、大好きだった。
「面白かったら、また選ばせてあげるからね」
シェヘラザードのように、死の恐怖の中にあっても、気高く美しく語る。そんな姿に憧れて、物語をいくつも覚えた。
「次に誰を、ころしてしまうかをさ!」
かつては家族を、友だちをよろこばせた物語が、鋭利な刃物にすりかわる。
それでも私は、また語る。
妹が、弟が、私の後ろで震えている。
兄が、姉が、震える私の肩を支えている。
躊躇する暇もない。目の前の男はひどく気まぐれで、何をするか分かったものではない。
「さあ、お話を聞かせて?」
家族をころさせないために。
私は語る。
そして、家族ではない、誰かをえらぶ。
許してくれなんて言えない。悲痛な目、憎しみのこもった目、絶望に沈んだ目、すべてこの心に刻んでいく。
私は語る。
海に沈んだ都の物語を。
えらんだ子は、水に深く沈められてしんだ。
私は語る。
空飛ぶ車で世界を旅する物語を。
えらんだ子は、高くかかげられ、ばらばらに引き裂かれてしんだ。
私は語る。
マグマの中で生きる鼠の物語を。
えらんだ子は、真っ赤に燃やした炉につめこまれてしんだ。
大切な、やさしくあたたかな物語が、血に塗れ汚されていく。
それでも、語る。
語る、語る、語る。
物語は、まだまだ知っている。
まだまだ、知っているのに。
「ああ、あとたった五人になってしまったねえ」
えらべるはずがない。
「さあ、今度は何を話してくれるのかな?」
えらべるはずがない。
私が、私を先にえらんだとしても、遅いか早いかの違いでしかないのだろう。
それでも、家族をえらぶなんてできない。
もういいだろうか。
先にいって、待っていてもいいだろうか。
「ああ、そうか。きみはそうするんだね。困ったな。
僕、きみを気にいってしまったんだ」
男が笑う。
「美子、きみには価値がある。きみの心は強くて、うつくしいんだ。
ただ壊してしまうのは、つまらないな」
男が笑う。
「ねえ、たすけてあげようか」
咄嗟に、顔を勢いよくあげてしまう。
男は、嗤う。
「きみのかわいい手、きれいな足、ちょうどで四本、ちょうどいい。
一本ずつもらっていって、きみがしなずにいられたら、家族をみんなたすけてあげる!」
しつこいようですが、前作>『る、る、る、る、る、る、る』の続きです。
続いてないって? これからですよ、これから!
どうなる、美子ちゃん。
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