エピローグ
「新入生、入ってくるかしら」
西園寺が着手しながらぼやく。
いつもの教室には春の日が差し込み、ぽかぽかと眠気を誘っている。
「うちの部、評判最悪だからなぁ」
僕も歩を取り込みながら応じる。
「そ、そこまででもないと思いますよ」
三柳が曖昧なフォローを入れる。ありがたいが、逆につらいわそれ。
崖の一件の後、西園寺は田無にキッパリと別れを告げ、将棋部に戻ってきた。
結局僕はたいしたことはせずとも解決した、かに見えた。
だが田無は、実に子供じみた報復を行った。
『西園寺雪葉は彼氏を裏切り皐月咲矢と通じ合い、あげく一方的に彼氏を切り捨てた』という噂を学校中に流したのだ。
完璧美少女のスキャンダルに誰もが飛びついた。ファンクラブは解散し、西園寺の評判は地に落ちた。
やはり思春期の少年少女には恋愛話が欠かせないのだろうか。
当の本人は『わたしのことをその程度にしか思ってなかった人々なんて、いてもいなくても大して変わらないわよ』など言っているが本音はどうなのやら。
ただ、恋愛を錯覚して告白した西園寺が悪い部分もあると言えばあるが。
まぁ、楽しそうに将棋を指しているから良しとしよう。
ちなみに、僕は女子部員が一人入ること既にを知っている。そろそろ来てもいいころのはずだ。
唐突に、教室の戸がガラリと開けられ、春の匂いがほのかに漂ってくる。
よく見知った顔が入ってくる。
「あら、入部希望者?」
西園寺が真っ先に声をかける。
「はい」
彼女は西園寺に一枚の紙を差し出し、告げる。
「一年C組皐月ゆうな、入部希望です」
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