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「ただいまー」

 呼びかけるが返事は無い。妹がいるはずだが、どうせ部屋に籠もってパソコンいじってんだろう。

 とりあえず自室に入る。文庫本とハードカバー本が入り交じって平積みになっている。非常に歩きづらい。今にも溢れそうな本棚の横を抜け、壁際のベッドに寝転がる。

 西園寺雪葉。眉目秀麗のお嬢様。学校には300人規模のファンクラブが存在。サッカー部のマネージャーをしており、さわやかイケメンのサッカー部キャプテンと交際中。

 腹いせに情報を掻き集めたが、思い出すたび顔をしかめてしまう。スクールカーストの頂点を極めた彼女が僕に絡む理由はなんだろうか。

 何も作業していないと、虚無感に押しつぶされそうになる。全身脱力し、世界全てが僕の邪魔をしてくるかのような錯覚を受ける。

 このままだと考察以前に潰れてしまいそうだ。

 本の山を蹴飛ばし動かして部屋を出ると、隣の部屋のドアをノックする。ウサギをあしらったドアプレートには『ゆうなのへや』とヘタクソな文字で書いてある。小学生のころ、図画工作の授業で作ってきたやつだ。今では薄汚れて、ところどころ塗装が剥げていた。

「はいはーい、何用で?」

 うちの兄妹には鉄の掟がある。給仕の時以外はゆうなの部屋のドアは開けないこと。彼女は俗に言う引きこもりなのだ。

「わたし今忙しいんだけど」

 カタカタとせわしなくキーボードを打つ音がする。

「なあ、これはもしもの話なんだが、自分が勉学優秀の超美人で爽やかイケメン彼氏ができたとして、僕みたいな人間に絡もうと思うか?」

「思わない」

 即答である。そしてキーボードを打つ音はやまない。

「なら、自殺をはかったりはするか……?」

 昨日の彼女の雰囲気は、散歩に来た人のそれではなかった。どこが、と言われたら困るが……あえて言うなら『僕と同じ瞳をしていた』だろうか。

 はたとキーボードを打つ音が止まる。

「ありえない。ふつうの答えを求めるなら、だけど」

「なら、お前自身はどう思うんだ?」

 ドア越しにコロコロとローラーが近づいてくる音がする。たぶん椅子だ。

「わたしなら、まず前提を疑う」

 さっきより声が近づいている。あくまでドア越しに、だけど。

「その勉学優秀うんたらかんたらは、どこかが勘違いなんじゃないか、って疑う。あるいは、別の問題を抱えているかも」

「例えば?」

「そうね……女子なら恋の悩み、とか……」

「彼氏いるのに?」

「そんなのわたしは知らないわよ。引きこもりに聞かないで」

 少し怒ったような声が返ってくる。

「でも、そんな完璧な人がお兄ちゃんみたいなやつと絡もうとしてるってことは、何か意味があるんじゃないかな」

 意味、ね……

 僕は自分をよく知っている。自分の限界を知っている。僕は僕を理解し尽くした時点で生きる意味すら失っているんだ。そんな男に何を求める?

「どう?年頃女子の意見は参考になった?」

「うん、ありがとな」

 さっき引きこもりに聞くなと言っただろ、と突っ込みたいが、絶対面倒くさいことになる。

 僕は自室へもどった。

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