大会
「本番よ」
西園寺は緊張した面持ちで告げる。
「ああ」
「はい」
僕と三柳は至って真剣に応える。
大会当日。僕たち三人は萩宮市中央ホール大会議室の片隅にあつまっていた。
ズラリと展開された白いテーブルの上に布盤と駒ケースが大量に並べられている。駅前の道場とは数が比べものにならないほど多かった。
県大会Aブロック予選。各学校や道場から集まった124人で行われるこの大会は、純粋なトーナメント戦だ。
ベスト6に入れば本戦出場。更に本戦でベスト4に入った者は『高校生棋聖戦』という全国規模の大会の出場資格を手にする。
会場にはたくさんの高校生がひしめき合う。雑談する者、本を読む者、練習将棋を指す者。皆強そうに見える。
西園寺は目を瞑って落ち着こうとしている。三柳はただただ雰囲気に圧倒されてしまっていた。
ここは部長らしいこと言わねば。
「じゃあ、各自今大会の目標を言っていこう。まずは西園寺から」
西園寺は目を開けて口を軽く手で覆い、考える素振りを見せる。
「そうね……どうせ狙うならベスト4かしら」
「でも、シード下ですよね……」
三柳がトーナメント表を見ながら呟く。
「ええ、とても残念ね……シードが」
西園寺の目は獲物を狙う虎のそれだった。
「じゃあ、次は三柳」
腹の底でくわばらくわばらと唱えながら次を促す。口は災いの元だ。
無視された西園寺は不満げにこちらを睨むが気付かないフリを決め込む。
「私は……初戦突破できたら……いいな……」
オイ三柳、目標じゃなくて願望になってるぞ。
……などと野暮な突っ込みを入れたくなったが、やたら気が弱いのは彼女の素の性格である。だんだん昔の状態に戻りつつあるということだ。この前までのキツい態度は相当無理していたのかもしれない。
いずれにせよ三柳が気弱な態度をとるのは良い兆候なので、あまり突っ込まないでおくのが吉だろう。
「最後は僕だな。そうだな、三回戦突破でベスト16入りでも目指すか」
僕は二人を見る。
二人ともだいぶ落ち着いたようだ。
「よし。じゃ、館河高校将棋部の出陣だ」
西園寺と三柳は力強く頷いた。
会議室は静まりかえり、たくさんの学生が盤を挟んで向かい合いに座っている。
目の前には神経質そうな男子が腕時計を弄っている。
持ち時間二十分、使い切ったら一手三十秒。頭の中でルールを反芻する。
「それでは時間になりましたので、始めてください」
唐突な女性のアナウンスに現実に引き戻される。
「「「「お願いします」」」」
あちこちで一斉に挨拶をする声が上がる。
「お願いします」
僕も頭を下げた。




