妹3
「で、お兄ちゃんはかずねぇとの距離感に悩んでいる、と」
私は扉に向かって言い、ご飯を口に運ぶ。
兄とかずねぇの関係がこじれているのは薄々気付いてたものの、これまで特に話題にしたことは無かった。
話を聞く限り、二人が幼馴染みであることが余計に問題をややこしくしている気がした。
「そういう問題はさ、結局のところ相手の気持ちしだいだよね。例え幼馴染みだろうと本人の内部までいじくりまわせるワケじゃないし……本人が自身の力で答えを出すしかないよ」
「じゃあ僕にできることはないのか……」
くぐもった声が扉越しに返ってくる。
「そんなに気になるなら、お兄ちゃんが思ったことを伝えれば?何か変わるかもしれないよ。所詮自己満足の域は出ないけどさ」
お盆に箸を置き、ドアを薄く開けて廊下へ差し出す。
「ごちそうさま」
ドアを閉める。
ドア越しに兄の申し訳なさそうな声がする。
「なんか悪いな、いつも話聞いてらうばっかでさ」
「いや、私は構わないよ」
「なんだかゆうなが姉みたいだな」
笑う声がする。
「お兄ちゃんは色々頑張ってるからたくさん話があるんだよ。私みたいに何もやってなかったら話すことないもん」
「……別にゆうなは何もやってないってわけじゃ」
「いいの。この話はおしまい。さっさと食器洗ってきなよ」
「……うん」
足音が遠ざかっていく。
「本人が自分で答えを出すしかない、か……」
自分はできてないクセにね。
兄が畳んでくれた洗濯物が放置され、本やマンガが散らばる床。いつ手入れしたか思い出せないベッド。もう全く開けなくなったカーテン。鈍い光を放つパソコンの液晶がやたらと目についてうるさい。
一年前、両親が共に家を出て行った。当時既に二人とも離婚に同意しており、顔を合わせるのが気まずかったのだろう。
兄は父に、私は母に引き取られることになった。
だが、私は拒絶した。
母の再婚相手は同年代の兄弟を連れていた。
全く知らない男子二人と一つ屋根の下など、気持ちが悪くてとても我慢できない。
対面したとき、二人で顔を見合わせてずっとニヤニヤしていた。その下卑た笑いは思い出すだけで吐き気がする。
両親は私を、聞き分けのない子だと罵った。だが、兄だけは私を庇ってくれた。
私の味方は、たった一人だけだ。
でも、限界がある。私は早く答えを出さなければならない。
それが、未だにできない。
私はベッドに横たわると、ゆっくりと目を閉じた。